いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

梵英心内野手の退団に、いちカープファンとして思うこと。


www.sponichi.co.jp


 野球ファンにとっては、寂しいニュースが多い時期になりましたね。
 今シーズンのカープは、まだこれからCS、日本シリーズ(出たい!)と続くわけですが、先日の江草投手の引退に続いて、長年カープを支えてきた梵英心選手が退団し、他球団での現役続行を模索することになりました。
 ここ数年、どんどん出場試合数が減っていき、今年は一軍での出場がなかったことや、内野では菊池・田中広輔が二遊間を固め、1塁には新井さんにエルドレッド、松山選手、岩本選手、堂林選手などがいて、3塁は安部選手が台頭してきている、という現在の状況を考えると、強くなり、若返ったチームのなかで、一軍には居場所がなくなってしまったのも致し方ない感じがします。
 膝の怪我以降、二遊間を守ることが難しくなり、足もバッティングも全盛期にはほど遠いものになっていましたし。
 今年は、堂林選手が三塁を守れなくなり(送球難になってしまった、とか言われていますが詳細は不明)、右打ちの三塁手としてどこかで声がかかるのではないか、とも思っていたのですが、ファームでの成績も今ひとつで、安部選手や西川選手の活躍もあり、梵選手だけではく、小窪選手もシーズン後半は一軍になかなか上がれない、という状況になっていました。
 それだけ選手層が厚くなり、チームが強くなったというのは、ファンとしてはありがたいことではある。
 それでも、長い間Bクラスが続いていたカープの「暗黒時代」を支えてくれた選手であることは事実ですし、広島県三次市出身ということで、カープで現役を終えるのではなかろうか、と僕は思っていたのです。
 

blogs.yahoo.co.jp



 この時期の梵選手は、東出選手との二遊間コンビで「アライバ(中日の荒木・井端コンビ)を超える!」と意気軒高で、カープファンにとっても押しも押されぬスターだったのです。
 横浜の偉い人が、梵選手が社会人時代、横浜のチームにいたことから、「うちに来てほしいね」なんて軽く口にしていたら、ブラウン監督が怒った、なんて話もありました。
 走攻守揃った好選手といわれる一方で、あまり感情を表に出さないので、「クール」と言われることもあったんですよね。


 そういえば、迎選手(現在はカープの一軍打撃コーチ)との、こんな不穏なキャッチボールの動画も出回っていました。

www.youtube.com


 当時も、「イジメにしか見えない」「一流選手ならキャッチボールを重視するはず」という意見から、「ファンサービスなんじゃないの?」「じゃれてるだけだよ」という見方まで、いろいろありましたし、一度の、数分間の映像だけであれこれ邪推すべきではないのかもしれないけれど、僕は、これを見て不愉快になりました。
 「真面目にやれよ」っていうのもあるんですが、相手の迎選手の様子は、少なくとも「じゃれ合って、楽しんでいる」ようには見えないし、主力選手が、一軍ギリギリのところで闘っている選手相手にやることじゃないだろ、と。
 いまのカープでいえば、仲が良いことが周知の鈴木誠也選手と野間選手がニヤニヤしながらこんなキャッチボールをやっていたら、こちらも「しょうがないなあ……」って思うくらいなのですが、この映像には、そういう「遊び」の要素が感じられない。
 

 黒田さんや新井さんがいたら、こんなキャッチボールをやっている選手は厳しく咎められると思うんですけどね。
 黒田さんは、鈴木誠也選手が、守備中にガムを噛んでいただけで、「そんな姿を子どもたちに見せるのか?」ときつく指導したらしいので。
 梵選手が斜に構えてしまったことが、自分の居場所を狭くしたし、選手生活の晩年になったときの周囲からの扱いにも影響したような気もします。
 プロ野球選手って、イチローみたいな圧倒的な実績でもないかぎり、「懸命にがんばっている姿をアピールしている人」のほうが、首脳陣からもファンからも好感を持たれやすい、というのはあるんですけどね。
 人間と組織の運命というのは、往々にして偶然に左右されるものですし、不幸だと思われたことが、長い目でみれば好結果につながる、ということは珍しくありません。
 セカンド東出が大怪我をしなければ、プロ野球史に残る変態守備を誇るセカンド菊池涼介は生まれなかったかもしれないし(もともとショートで入団してきた選手なので)、梵の怪我がなければ、田中広輔をドラフトで獲得しなかった可能性もあります。
 チームが強くなる、層が厚くなる、ということは、以前と同じパフォーマンスをしていても、試合に出られなくなったり、相対的な評価が下がる選手が出てくる、ということでもあるんですよね。


 僕からみると、いまの梵選手は、カープの戦力としては、そんなに率が残せるわけでも、長打があるわけでもなく、守備も三塁しかできず、以前のようには足も使えない、そして高齢という「戦力外になっても、致し方ない選手」ではあるのです。
 むしろ、去年の時点で戦力外あるいは引退勧告でもおかしくなかったけれど、FA権を取ったのにカープに残ってくれた地元出身の功労者だから、あと1年契約したんだな、と思っていました。
 日本ハムだったら、2年まえにクビになっていた、あるいは、FA権を取った時点で「お好きなように」となっていたのではなかろうか。
 いちカープファンの僕からしても、「あの大功労者を戦力外なんて!」と憤るというよりは、「なんとかカープのユニフォームで引退してもらいたかったんだろうけど、本人の現役続行への意思が固くて、どうしようもなかったんだろうな」と、ため息をつくしかない。
 梵選手や永川選手は、カープで引退するのなら、引退試合が行われるべき選手だと思っていたので、2人とも、あと1年はやるのかな、と楽観的でもあったのですけど。


 カープの選手として引退したほうが、梵選手なら、解説者なりコーチなりの道もあるだろうし、得なんじゃないか、とも感じます。
 いまの状態だと、獲得してくれる球団が出てくるかどうかは微妙だし、出てきたとしても、そこであと何年続けられるか……
 新井さんのように、新天地で復活する人は、激レアなんですよね。梵選手の場合は、怪我からパフォーマンスが落ちているのも事実です。
 それでも、人って、そう簡単に割り切ったり、あきらめたりできないものなんだな、と考えさせられます。
 たしかに、現役って、一度退いてしまったら、もう後戻りできないのだから、自分で満足できるまでやったほうが良いのかもしれないし、カープで引退してほしい、というのは、カープファンのわがままなんですよね、きっと。
 

 梵選手の退団に関しては、寂しいけれど、新天地でがんばってほしい、と願っています。
 本人や球団が悪いわけじゃなくて、組織が変わる、新陳代謝が起こるというのは、こういうことなのだろうな、とは思う。
 それでも、退団するのであれば、せめてもう一度、公式戦でカープのユニフォーム姿を見たかった。


Number(ナンバー)936号[雑誌]

Number(ナンバー)936号[雑誌]

アクセスカウンター