ゲーム、映画で俳優に声を当てさせるのはやめろォ!ヤメロォ!:ゲーム・映画を盛り上げ隊 - ブロマガ
こういう話は、以前からずっと繰り返されていて、僕としては、成功例と失敗例と両方あるからなんともいえないが、基本的には声優さんのほうが作品としては安定するのではないか、と思っています。
そもそも、有名な役者さん、タレントさんの場合、声だけでも、その人の顔が思い浮かんできて、キャラクターと乖離してしまうところもあるので。
ただ、それも人と場合による、としか言いようがなくて、『シュレック』のダウンタウンの浜田雅功さんの場合は、上手い下手じゃなく、声やしゃべりかたで「浜ちゃん」のイメージが強すぎて『シュレック』にならないのだけれど、『TED』の有吉弘行さんは「吹替え版で(有吉さんのしゃべりを)聞いてみたい」と思ったのです。
浜田さんが大嫌いで、有吉さんが大好き、というわけでもないのですが。
実際のところ、俳優さん、タレントさんの「声の演技」が全部ダメかというとそうでもなくて、『モンスターズ・インク』の石塚英彦さんと田中裕二さんはハマり役だと思うし、賛否両論の『ハウル』の木村拓哉さん、僕はけっこう好きです。
けっして、「流暢な声の演技」ではないのかもしれないけれど、木村さんの声やしゃべりかたは、ハウルというキャラクターのナイーブさに合っているんじゃないかな。
むしろ、ソフィ役の倍賞千恵子さんのほうが、「ちょっと厳しいなこれ……」と感じました。
『風立ちぬ』は声優ド素人の庵野秀明監督ですからね。でもまたこれが、「理系で不器用なマニアック男」にうまくハマっているのです。
そういえば、『秒速5センチメートル』のDVDの特典で、新海誠監督が声優のオーディションについて延々と語っていて、主要キャラクターについて、「いかにも声優さんっぽいしゃべり方の人は、ちょっと違うな、と思っていた」と仰っていました。
「声優」っていっても、その人が演じている(声優さんの顔がみえる)ことに価値があるタイプと、声優自身の個性よりもキャラクターを活かすことに優れたタイプがいるのではないかと思います。
これは、声優に限らず、役者という仕事一般に言えることなのでしょうけど。
要するに、役者だからダメ、声優だからいい、というわけではなくて、その作品にとってプラスになるキャスティングかどうか、ということなんですよね
そういう意味では、『プロメテウス』の剛力彩芽さんは、彼女にとっても策品にとっても、極めて不幸な結果になってしまいました。
剛力さんが自分でとってきた仕事じゃなかったんだろうけどねえ。
これを読みながら、「テレビゲームに有名俳優が声で参加したルーツ」について考えていたのですが、僕の記憶のなかでは、『天外魔境 風雲カブキ伝』で、阿国を演じた牧瀬里穂さんが「えっ、この人がテレビゲームで声をあてるの?」って驚いた最初でした。
まあ、もうちょっと遡れば、小川範子さんとかもいるのですが、あれは「声をあてる」とはちょっと違うか。
当時の牧瀬さんは、宮沢りえさん、観月ありささんと「3M」と呼ばれるトップアイドルで、「ゲームなんかに、アイドルが出てくれるのか!」と。
実際の声の演技そのものは、かなり「惨劇」に近いものだったのですが、あの牧瀬里穂が!というのは、けっこうインパクトがあったんですよね。

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その後のテレビゲームの世界では、声優さんの仕事はものすごく増えたものの、一部の作品(『レイトン教授』『龍が如く』シリーズなど)を除いては、「有名な役者さんが声をあてる」ということは、市場規模を考えると少ない印象です。
ギャラの問題なのか、「声優さんのほうが向いている仕事」だと考えられているのかはわかりませんが。
「声の仕事」を極めている人には、「自分が舞台の上で演じる」のとは、少し違ったスキルというか想像力が必要なのです。
『桜井政博のゲームについて思うことX』(桜井政博著・エンターブレイン)という本のなかで、声優・大塚明夫さんのこんなエピソードが紹介されていました。
(『大乱闘スマッシュブラザーズX』の制作時の声優・大塚明夫さんのエピソード)
スネークの声を演じるのは、大塚明夫氏。大物です。代表作は『ブラック・ジャック』、日曜洋画劇場のナレーションなど。シブくて太い声で、ゲーム関連にも多数出演されています。スネークは、氏の声あってのものですよね!!
夏のころ、渋谷のスタジオにて。『スマブラX』は対戦型のアクションゲームなので、各キャラクターのセリフは短く少なめです。だから、声優さんを全員集めて何日もかけて収録するということはありません。ひとりずつ時間単位でスケジュールを割り当て、短いセリフを数十テイク収録し、はい、おつかれさま、という淡白なもの。でも、後日再収録、なんてことはできないから、よーく聴いておかしなところがないか判断しなければなりません。わたしも、ここぞとばかりに音に集中します。
そしてついに大塚さんが登場。事前に台本を読んでいただいているので、準備万端。諸処説明後、大塚さんは録音ブースへ。わたしは指示を出すために編集スタッフ用のマイクの前へ。
順調に収録が進んでしばらく。大塚さんの発声が少しつかえたように聞こえました。ん? と思いながら、「もう1テイクお願いします」とお願いしたところ、なにやら怪訝そうなお顔。あれ? 悪いことを言ったかしら……。
ここでのお話、コラム連載中には具体的に書くことを伏せていましたが、いまなら書けます。
スネークの”スマッシュアピール”において、ルカリオの波導の色を語る描写がありました。
「メイ・リン、奴の手から出ている”紫”の炎はなんだ?」と。そこが、ちょっとつかえていたと。
大塚さんに話を伺ってみると、どうやら”色を形容するときに言葉を捜すさま”を演じていたのだとか。「色を言葉にするとき、すぐにその色の名前が出る人は少ないでしょ? それで、色の名前を考える間を入れてみたんだけどね」。なるほど……!!
これは感服。たしかにそのとおりです!
目の前に広げられた台本。氏はそれだけにとらわれず、情景、あるいはスネーク本人の思考をリアルに頭に浮かべながら演じているのだと感じました。空気のように自然に演じられているかもしれないし、よく考えてのことかもしれない。いずれにせよ、声優なり役者なりの熟練の成果なのでしょう。
声優さんに限らず、シナリオを書く人も、頭の中でいろいろなキャラクターが語り、叫び、吠えているものだと思います。
そこにないものをあるように見せること。それに賭けている人には、いろいろな方向性があれど、経験や情感が活きていくのだろうと思います。それが重なって作品性がにじみ出てくるのだろうと。
こういうのは、舞台俳優だから、声優だから、という問題じゃなくて、大塚明夫さんだからできること、なのかもしれません。
キャラクターの「気持ち」になって演じている人は多くても、キャラクタ—の「視点」に立って演じている人は、そんなにいないはず。
「声だけで表現する仕事」だからこそ、こういうところで差がつくのだろうな、とも思うのです。
それでも、上手ければいいのか、技術があればいいのか、って言われると、それも作品との相性次第ではありますね。
『君の名は。』の主人公ふたりを上手い声優さんが演じたら、あれ以上の作品になるか、というと、たぶん、そうじゃないと思うし。

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