いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『大乱闘スマッシュブラザーズ』をつくった桜井政博さんが「ゲームについて語ってきたこと」


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 2018年12月7日に発売後、初週に123万本も売れ、今も売れ続けている、Nintendo Switch大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』。
 この『スマブラ』シリーズの全作品でディレクターを務めているのが、株式会社ソラの桜井政博さんです。
 桜井さんは、『週刊ファミ通』にずっとコラムを連載されていて、僕はそれを読んできました。
 桜井さんは1970年生まれで、僕と同世代なのですが、世代的には、物心ついたときにゲームウォッチが出て、少年~青年期にマイコンファミコンの洗礼を受けているんですよね。
 当時のゲーム好きの子どもたちはみんな、コンピュータの可能性を信じ、「ゲームデザイナー」になりたい、『ファミ通』『ログイン』で働きたいと言っていたような気がします。
 「いちばん面白くて才能がありそうな連中が、みんな、ゲームをつくりたがっていた時代」なんですよね。
 僕もゲーム仲間と「堀井雄二さんみたいなゲームデザイナーになりたいものだ」と、よく話していたものです。
 考えてみれば、堀井さんは、あの頃から30年くらい、トップランナーであり続けているのだから、本当にすごい。
 そんななかで、『星のカービィ』『パルテナの鏡』『スマブラ』と、つねに第一線でゲームデザイナーとして活躍しつづけている桜井さん。


 今回は、僕がこれまで読んできた、桜井さんの『ファミ通』のコラムのなかで、とくに印象に残っているものを3つ紹介してみます。


週刊ファミ通・2007/1/26号」(エンターブレイン)のコラム「桜井政博のゲームについて思うこと」より。


(桜井さんが『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』を苦労して解きながら考えたこと)

 任天堂デバッグ期間、通称”スーパーマリオクラブ”でのエピソードなのですが……。とあるゲームをプレイした人のレポートに、”この謎は難しすぎる”と書いてあったそうな。別の人も、”自分はクリアーできたけど、この謎は難しいです”というようなことを書いている。複数の人が”きびしい”を連呼しているので、もっとやさしくするべきかな? と考えた開発者。でも、気がつけばみんなノーヒントでクリアーしていたという。なんだかんだで、全員解けてるじゃん!
 行き詰まったらたちまち進めなくなるけれど、がんばればなんとかなるようにできている! めげそうなときも、そんなことを意識しながらクリアーしていました。

(中略)

 謎解き系のゲームに行き詰まったとき。仕掛けに気がつかないのは自分がゲーム下手なのではなくて、たまたま気がつかなかっただけ、そんなことを思いながら進めてもらいたいです。攻略サイトや攻略記事は時間の節約になっていいところもあるけれど、ゲームが漢字の書き取りのようになっていくのも忍びない。1本のゲームを新鮮な気持ちでクリアーできるのは、生涯でたぶん最初の1度だけ。
 苦戦するのは当然! がんばればできる! そう信じて、もうひと押しがんばってみてほしいです。

 今は、発売日から「攻略サイト」がスピード競争をはじめていて、ゲームの難易度設定をする側としては、大変悩ましいところだと思うのです。
 みんなが簡単だと思うようでは味気ないし、みんなが難しくて解けなければプレイヤーは投げ出してしまう。
 行き詰まったらすぐに検索する人もいれば、自力でクリアすることにこだわる人もいる。理想としては、まさにこの「自分はなんとかクリアできたけれど、他の人にはちょっと難しいんじゃないかな」と軽く優越感に浸れるような難易度なんだろうな、と思います。



桜井政博のゲームについて思うことX』(桜井政博著・エンターブレイン)より。

桜井政博さんと作曲家・植松伸夫さん(『ファイナルファンタジー』シリーズの作曲など)との対談の一部です)

桜井政博最近は映像の表現がどんどん進化しているので、音楽の主張とかみ合わなくなってきているのかなと思います。メロディーを重視して音楽が前面に出すぎると、映像と食い合ってしまいますよね。


植松伸夫環境音のような音のほうが、いまのゲームと合ったりするんですよ。でもそれって、音楽家にとってはあまりおもしろいものではなかったりするけど。


桜井:ホントそれ、『スマブラX』を作っているときはわたしもすごく悩みました。いろいろな方に曲を作っていただいて、できた曲を映像にあてがおうとすると、ゲーム画面には合ってもムービーにはあまりそぐわない。曲自体は良いし、映像もちゃんと作られているのに、お互いの主張が食い合ってしまうんです。


植松:ここは映像を立てるべき、というシーンでは音楽は一歩引くべきだろうし、その逆もしかり。そのメリハリが必要なんだろうね。


桜井:音楽を主張しようっていう方向性はキツイかもしれませんね。


植松:だから僕は、1本のゲームで名曲は1曲でいいと思ってますよ。映像とかセリフを前に出しておいて、ここぞというところで美しいメロディが流れれば、余計に浮き立つというか印象に残るじゃないですか。


桜井:それですね!


桜井:『FF(ファイナルファンタジー)』の音楽を作っていたとき、何かテーマはあったんですか?


植松:テーマはとくになかったよ。でも1作目を作るとき、音楽は有名なアーティストに頼もうって話になってたんですよ。だけど坂口さんが「植松とやりたい」といってくれたおかげで、こうしていられるわけです。


桜井:もし別の人が『FF』の曲を作っていたら、ゲーム音楽の歴史が変わっていましたね!


植松:『FF』がたまたまヒットしてくれたので生き延びられました……。


桜井:たまたまではないと思いますよ。やっぱり『FF』の音楽は「なんていい曲なんだ!」と思わせるだけの力を持っていましたし、だからこそいまはあると思うんですよね。


植松:でもね、偶然というのは確かにあるんですよ。ニーズがあるところに、僕たちがポンと良いタイミングで出せたという偶然。そこで、自分たちの作ったものが評価されるという感動を一度でも味わってしまったら、もうこの仕事はやめられないじゃない(笑)。


桜井:自分でゲーム音楽を企画する場合、とくに『星のカービィ』を作っていたときに大前提としていたことがありまして。それは「歌えるメロディーにすること」です。『カービィ』は小さい子が遊ぶゲームだから、という理由もあったんですが、自分で歌えて、なおかつ心に残ること。カービィのデザインコンセプトが「誰でも描けること」という部分まで含めて、それが大事なんですとスタッフには言っていましたね。


植松:昔のファミコンって、そういうゲームが多かったよね。口ずさめるようなメロディーが。


桜井:そうでない曲を作るのが難しいのかもしれませんけれど。あと、ゲームをやっていて「これは良い曲だな」と思う基準は、自分の好き嫌いよりも、まずゲームに合っているかどうか。それでいて、遊んだ記憶として振り返ったときに良い曲であるかどうか、ここが重要です。


植松:なるほど。


桜井:RPGなどで多くの人は経験したことがあると思いますが、ついウトウト寝てしまったときに、曲がものすごくループして頭にこびりついてしまう。それでメロディーを覚えられたとしても、曲としては良いものではないかもしれない。でも、そのときのゲームの記憶や経験自体が良いものであれば、その曲も良いものになりえると思うんです。


植松:ゲーム音楽の祭典、PRESS STARTで演奏する曲を決めるとき、ゲーム音楽として選曲するべきなのか、”音楽”としての選曲をするべきなのかを決めかねるときはあるよ。いまだに自分の中でね。


桜井:わたしが「この曲どうですか?」と提案したときに、「良い曲だね」という感覚で選んでもらって全然問題ないと思いますよ。


植松:でもメロディーが大したことなくても、聴きたい音楽ってあるじゃない? 『スペランカー』とか。ああいうゲーム曲って、「音楽として良いか?」と聞かれると微妙かもしれないけれど、ゲーム音楽としては確かにおもしろいんです。

 

桜井政博のゲームについて思うことX』(桜井政博著・エンターブレイン)より。

(『大乱闘スマッシュブラザーズX』の制作時の声優・大塚明夫さんのエピソード)

 スネークの声を演じるのは、大塚明夫氏。大物です。代表作は『ブラック・ジャック』、日曜洋画劇場のナレーションなど。シブくて太い声で、ゲーム関連にも多数出演されています。スネークは、氏の声あってのものですよね!!
 夏のころ、渋谷のスタジオにて。『スマブラX』は対戦型のアクションゲームなので、各キャラクターのセリフは短く少なめです。だから、声優さんを全員集めて何日もかけて収録するということはありません。ひとりずつ時間単位でスケジュールを割り当て、短いセリフを数十テイク収録し、はい、おつかれさま、という淡白なもの。でも、後日再収録、なんてことはできないから、よーく聴いておかしなところがないか判断しなければなりません。わたしも、ここぞとばかりに音に集中します。
 そしてついに大塚さんが登場。事前に台本を読んでいただいているので、準備万端。諸処説明後、大塚さんは録音ブースへ。わたしは指示を出すために編集スタッフ用のマイクの前へ。
 順調に収録が進んでしばらく。大塚さんの発声が少しつかえたように聞こえました。ん? と思いながら、「もう1テイクお願いします」とお願いしたところ、なにやら怪訝そうなお顔。あれ? 悪いことを言ったかしら……。
 ここでのお話、コラム連載中には具体的に書くことを伏せていましたが、いまなら書けます。
 スネークの”スマッシュアピール”において、ルカリオ波導の色を語る描写がありました。
「メイ・リン、奴の手から出ている”紫”の炎はなんだ?」と。そこが、ちょっとつかえていたと。
 大塚さんに話を伺ってみると、どうやら”色を形容するときに言葉を捜すさま”を演じていたのだとか。「色を言葉にするとき、すぐにその色の名前が出る人は少ないでしょ? それで、色の名前を考える間を入れてみたんだけどね」。なるほど……!! これは感服。たしかにそのとおりです!
 目の前に広げられた台本。氏はそれだけにとらわれず、情景、あるいはスネーク本人の思考をリアルに頭に浮かべながら演じているのだと感じました。空気のように自然に演じられているかもしれないし、よく考えてのことかもしれない。いずれにせよ、声優なり役者なりの熟練の成果なのでしょう。
 声優さんに限らず、シナリオを書く人も、頭の中でいろいろなキャラクターが語り、叫び、吠えているものだと思います。
 そこにないものをあるように見せること。それに賭けている人には、いろいろな方向性があれど、経験や情感が活きていくのだろうと思います。それが重なって作品性がにじみ出てくるのだろうと。


 作曲家・植松伸夫さん、声優・大塚明夫さんという、それぞれの業界でのトップランナーたちとの対談の一部なのですが、桜井さんは、つねに「ゲームの面白さとは何か」というのを考え続けている人なのだと思います。
 植松さんとの対談を読んでいると、「ゲーム音楽」というのは、「ゲームとの相性」が重要であることがわかりますし、大塚さんとの対談では、「声優という仕事の奥深さ」が伝わってきます。
 桜井さんのコラムは、面白いんですよ本当に。
 目の付け所と分析力が優れているからこそ、長年、ゲームデザイナーとして君臨できているのだなあ、と感心するばかりです。


 『スマブラ』のファン、あるいは、これから「ゲーム制作者」をめざす人は、桜井さんの著作にも、ぜひ、触れてみてください。


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