いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

広瀬すずさんが「スタッフをdisった」とされている件について

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この記事を読んで、その番組も観たのですけど(全録機は、こういうときに便利)、さすがにこれで広瀬すずさんが責められるのは、ちょっとかわいそうなんじゃないかな。
高校生って、こんなものじゃない?




番組の「流れ」で観ていると、この発言って、「ああ、いろんなことに素直に疑問を抱いてしまう人なんだな」って感じで、少なくとも悪意は伝わってこないんですよ。


この広瀬さんのコメントを聞きながら、僕は自分の学生時代のことを思い出していました。
当時、弓道部だったんですけど、そこに「マネージャー希望」という新入生女子がやってきたんですよ。
僕はその時、内心、「この子、なんでマネージャーになりたがるんだろう? 野球部とかサッカー部みたいに、女性のプレイヤーが少ないけどそれに関わっていたい、というのならわかるけど、弓道って、それほど体力的にハードな競技じゃなくて、『誰でもできる(上手い下手は別として、ね)』のが良いところなのに……」と思ったんですよね。
なんで、自分で弓を引こうと思わないのだろう?って。


その「マネージャー志望者」は、女子のあいだでも議論になって、結局、「うちではマネージャー専業は必要ない」という結論に達しました。
心身に「プレイヤーになれない理由」もなさそうだったし。


ちょっとズレているかもしれないけれど、少なくともあの時代、学生時代に、僕は「マネージャー」というのを、「プレイヤー」より、一段下にみていました。
「なぜ、自分でやろうとしないのか、わからなかった」のです。


いや、もっと言うと、当時は、野球部とかサッカー部のマネージャーに対しても「他のスポーツであっても、プレイヤーになったほうが面白いだろうに」と思っていました。


いまくらいの年齢になってみると、僕自身も「裏方志向」であり、世の中には、さまざまな役割があるし、マネージメントや他者のサポートのほうに「やりがい」を感じる場合もあるのだな、ということは、わかっているんですけどね。


そして、「どんな立場であっても、自分が好きなことにかかわりたい」という人がいたり、「やりがいとか理想とかは別として、食べていくために、その仕事を選んだ」という人もいる。


ただ、働いてみての実感としては、「やりがい」を強く求めている人って、どこかで燃え尽きてしまうことが少なからずあって、「生活のため」の人のほうが、テンション低めながらも安定したパフォーマンスを見せてくれることも多いようです。
病院とかでは、「すごい仕事もするけど、やる気が無いときは全然ダメ」よりも、「つねに最低限の仕事はできる」ほうが、向いていることも少なくない。


ちょっと脱線しましたが、広瀬さんのこの話を聞いて、僕は「ああ、まだ若いなあ!」って、ちょっと微笑ましく感じました。
そして、まだ17歳の彼女の価値観が、これからの人生、芸能生活で、どんなふうに変わっていくのだろうな、と楽しみにもなったのです。


いや、30歳とか40歳になって、芸能生活何十周年とかで、同じような発言をしたら、「軽卒」というか「そんなことを言うと危険、ということもわからないのか……」と言われても、しょうがない。


でも、17歳、高校生ですよ。
そのくらいの年齢って、一部の「早熟裏方志向」の人を除けば、スポットライトが当たるほうにばっかり目が向いて、「なんで裏方になろうと思ったんだろう?」とか考えるのって、「普通」じゃないのかなあ。
いまや立派な「裏方人間」になってしまった僕だって、17歳のときは、そんなものだったんだから。
そもそも「編集」されても、あのやりとりが残っているというのは、制作側も、とくに悪印象は持たなかった、ということでもあります(それが問題だ、という人もいるだろうけど)。


僕はこの騒動をみて、故・木村拓也プロ野球選手・コーチ)さんの講演を思い出しました。d.hatena.ne.jp


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自分は「こういう選手になろう」と思ってここまで来た選手じゃない。こうやるしか思いつかなかった。それが「ユーティリティープレーヤー」、「何でも屋」で、それでもこの世界で食っていける。「レギュラーになる、エースになる」だけではない。巨人の藤田宗一投手は、中継ぎ登板だけで自分と同じ歳までやっている。それで飯が食える、それがプロ野球。「俺が一番うまい」と思って入団して、一番得意だった事がうまくいかない。それもプロ野球。その時にあきらめるのではなく、自分の話を思い出してほしい。投げ出す前に、自分自身を知って可能性を探るのも必要ではないか。


あの「球界一のユーティリティプレイヤー」と呼ばれ、「ピッチャー以外はどのポジションでもこなす」と重宝された、「野球界のキムタク」は、「高校では捕手で4番バッター」だったのです。
でも、プロ野球の世界では「自分は不動のレギュラーや4番になる力がない」ことを思い知らされた。
そこから、「自分の居場所をつくるため」に、さまざまな努力をして、球界で、プロとして生き残ってきました。


もしかしたら、広瀬さんは、このまま「芸能界のエース」でいられるのかもしれません。
でも、そうはいかないかもしれない。
厳しい競争の世界ですしね。
「挫折」とか「停滞」を味わったとき、彼女は、自分が発したこの言葉の意味を、もう一度噛み締めることになると思います。
それで、良いんじゃないかな。


広瀬すずさんは、「未熟」かもしれないけれど、それは、17歳としては、ごくふつうの「未熟さ」でしかない。
そして、17歳が「未熟」であることを、大人たちが「軽卒」として責めるのは、あまりにも心が狭い。
いやむしろ、17歳だからこそ、「そういう疑問」を素直に口にすることが、許されても良いのではなかろうか。


人が女優になるのと同じくらいのドラマが、照明さんや音声さんになるのにも、あるんだよね。
そういう「想像力」を育てていくのが「成長」なのだと思う。

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