いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「イオンモールは、画一化されていてイヤ」

 先日、ひとりで東京に行く機会があって。
 平日に1泊、自由になるのは、到着日の夕方からと、翌日の朝からお昼まで。
 結局、美術館めぐりと、ずっと行きたかった、藤子・F・不二雄ミュージアムを巡ってきました。
 それはそれで、すごく充実した時間を過ごせたのだけれど。

 僕は生まれてから東京に住んだことが一度もありません。
 というか、人口100万人以上の「都会」に長い間住んだこともないのです。
 人口数十万人程度の地方都市に生まれ、同じような規模の町を何度が転居し、社会人になってからも、人口数万人~数十万人の地方都市を転々としています。
 大学に入るときには、東京に憧れてもいたのだけれど、まあそれは、いろんな事情(というか、偏差値とか、僕の人ごみ嫌いとか)があって、実現しませんでした。

 中高生くらいのときには、東京に憧れていました。
 東京には、近所の書店には並んでいないような面白い本がたくさん並んでいるはずだし(博多の紀伊国屋が、当時の僕にとっては「聖地」だったのだから)、面白いイベントや、素敵な出会い、知る人ぞ知る映画、前衛的な舞台や展覧会などが連日行われている、はず。
 東京にはマイコンゲームテーブルトークRPGがズラッと並んでいるんだろうな、とも思っていました。

 しかし、40にもなって、あらためて東京を訪れてみて、この短い自由時間にここで自分がやりたいことを考えてみると、正直、前述した「美術館めぐり」くらいしか思いつかなかったんですよね。
 もちろん、舞台やコンサートなどは、日程が合うものがあれば行けたのかもしれませんが……
 
 本はAmazonと地元の紀伊国屋を併用すれば、「なぜあれが手に入らないんだ」と懊悩することはありません。
 電化製品だって、雑誌で調べ、地元の電器店になければ、Amazonかネットショップで買えばいい。
 40もなっての秋葉原デビューは、敷居が高すぎます。
 僕が知っている秋葉原は、親に連れられてきた「電気製品が安い町」だったのだから。


 最近の、ジャスコやイオンモールに関するやりとりをみて、僕も「地方都市は、みんなイオンモールや、ゆめタウンで『画一化』されてしまっているよなあ。なんかさびしいなあ」と思っていました。
 ところが、自分が実際に東京に投げ出されてみると、もう僕の欲しいものに「東京でしか手に入らないものや娯楽」は、ほとんどなくなっていることに気がついたのです。


 ニワトリが先なのか、卵が先なのかはよくわかりませんが、僕は「イオンモールで十分な人間」になってしまいました。
 ちょっと悲しかった。自分はそんなのじゃない、と思い込んでいた。
 でも、そういうのが地方の現実であり、僕の現実なんだろうな、という気もします。


セブン―イレブンの鈴木敏文会長が、『売る力』という新書のなかで、こんなことを仰っていました。

 限られた店舗スペースのなかで、弁当類などの主力商品については、仮説を立てて売れ筋商品を絞り込み、それぞれの商品ごとにフェイスを目一杯とってボリューム陳列を行っているのは前述したとおりです。本来売れ筋になるべき商品も、種類を絞り込んで十個以上置いたら十個以上売れるのに、絞り込まずに三個ぐらいしか置かないとお客様は見逃してしまい、あまり売れません。


 たとえば、ソフト飲料を入れる冷蔵のリーチインケースも、一アイテムずつ横に並べていくと百五十アイテムぐらい入るとしましょう。奥行き一列に何本も入りますから、お客様からの見た目で多くのアイテムを並べたほうが選択の余地が広がってよさそうに思いますが、本当は九十アイテムぐらいに絞り込み、売れ筋のアイテムはツーフェイスもスリーフェイスもとったほうが全体の売り上げが伸びます。


 雑誌コーナーでは、あれだけ限られたスペースでも並べる雑誌を絞って、一つの雑誌に二~三フェイスをとると、雑誌全体の売り上げが伸びます。


 ヨーカ堂でも衣料品のブランドや品番を大幅に絞り込んだところ、売れ行きが上がりました。

「地方都市では、選択の範囲が狭いし、画一化されているのがイヤだ」と思っていた……つもりでした。
でも、本当は「もう、あまりにたくさんのものの中から、自分で選択することに、疲れてしまっていた」ような気がします。
そうだ、あまりにも「選べる」ようになってしまいすぎたから、僕はたぶん、誰かに「これがいいよ」って選んでほしかったんだ。

イオンモールは、どこに行っても、同じような店が並んでいます。
それは物足りない、と思っていました。
しかしながら、あらためて考えてみると、僕自身は、そんなに物珍しいものを好む人間ではないのです。
そして、そういう人間は、たぶん、けっこう多いはずです。
昔の「物がない時代」は、多様性が武器になっていたけれど、いまは、よほど自分の興味があるジャンル以外は、誰かに薦めてもらったほうがラクなのです。

イオンモールは、画一化されていてイヤ、だと思うけれど、イオンモールでは買うことができないものを、僕は、欲しがっているのだろうか?


僕がすっかり、洗脳されてしまっているのか、それとも、イオンモールのやりかたが、あまりに洗練されてしまっているのかはわかりません。

ただ、「格差」の消失とともに「憧れ」もなくなり、自分がイオンモールで買っているのか無意識のうちに買わされているのか、そんなこともわからなくなってしまったなあ、と遠い目をして、ため息をつくばかりです。


売る力 心をつかむ仕事術 (文春新書 939)

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