いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『クローズアップ現代+』の「サブちゃんとキタサンブラック ~知られざる日本一への道~」を観た。


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 25分という短い時間でもあり、12月30日に密着取材を行った特番が放送予定ということもあって、個人的には「おお、杉本清さんだ!最近動いている姿を見なかったので心配していたけれど、まだまだお元気そう!声も喋りも杉本清!」というのがいちばんの見どころでした。


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 NHKも昨日のジャパンカップに勝ち、JRA新記録のG1レース8勝目をかけて、引退レースの有馬記念へ!と盛り上げていく皮算用だったと思うのですが、ジャパンカップは強いレースを見せたもののシュヴァルグランレイデオロに次ぐ3着と、この馬としては、微妙……という結果に。
 秋の天皇賞が極悪馬場での復活勝利という劇的なレースだっただけに、やや拍子抜け、という感もあります。
 ただ、シュヴァルグランは今回1枠1番という好枠にボウマン騎手の素晴らしい騎乗が完璧にハマった競馬でした。
 キタサンブラックは落鉄に小島太調教師が引退前だからなのか酷使しまくっているディサイファに道中厳しくマークされ、ペースも速めになってしまいました。
 レイデオロは、今シーズンこれで休養ということです。
 また内枠を引けば、有馬記念は「キタサンブラックのレース」になる可能性が高いのではないか、と予想しています。
 強敵になりそうなのは、シュヴァルグランとスワーヴリチャード、ミッキークイーンくらいで、穴っぽいところでは中山の日経賞を勝ったシャケトラと去年4着に見せ場があったヤマカツエースという感じです。というか、頭数揃うのかな、今年の有馬記念
 ただ、キタサンブラックをずっと見てきて痛感するのは、この馬って、「今回はヤバいんじゃないか」とみんなが思うときほど、その不安を嘲笑うように好走する、ってことなんですよ。
 昔、「新聞が読める馬」カブトシロー、というのがいましたが(僕はリアルタイムで見ていた世代じゃないですけど)、この馬、強いんだけど、人気になると凡走し、人気が落ちると勝つ、という馬券を買う側にとっては、タチが悪い馬だったのです。
 新聞が読めるんだったら、人気があるときに走ってくれよ……
 近年では、ゴールドシップの晩年は、ややそんな感じではありましたね。


 この番組では「コツコツ努力をしていれば成功できる」なんて言われていたけれど、キタサンブラックというのは、僕にとっては、ずっと「よくわからないけど強い馬」でした。
 スプリングSを勝ち、皐月賞3着に粘ったときは、意外とやるじゃん、くらいのものでしたが、馬体がとびきり良くみえて距離が長いと思いつつ買い足した日本ダービーで惨敗。
 競馬予想家たちが調教不足、仕上がりが今ひとつだと指摘していたセントライト記念で勝ったものの、父ブラックタイド、お母さんの父親がサクラバクシンオーで、これまででもっとも長い距離を走ったダービーで惨敗したことを思うと、この血統の馬を菊花賞で買うやつはバカだろ、とか思っていたんですよ、バカは僕だったわけですが。
 あらためてあの菊花賞を思い出すと、いつのまにか内から直線で先頭に立っていた北村宏司騎手の騎乗も素晴らしかった。
 いまやすっかり、「サブちゃんと武豊の馬」になってしまったキタサンブラックですが、北村宏司騎手の負傷乗り替わりがなければ、また別の物語を生んでいたかもしれません。
 まあ、そこでチャンスを確実にモノにしてしまうのが武豊武豊たるゆえんなわけですけれども。
 この番組で、「キタサンブラックに救われた人」として、ずっと調教を担当し、「乗っただけで馬の気分がわかる」黒岩悠騎手が紹介されていました。


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 美談、ではあるのかもしれませんが、結局、黒岩騎手は「名馬に携われる喜び」の一方で、自分自身も現役騎手であるにもかかわらず、成果のほとんどは、レースでのみ騎乗する武豊騎手に持っていかれているわけです。
 上記のリンクを参照していただきたいのですが、2015年から2017年の現時点までは、年間1勝、2勝、1勝という成績(一年間で、ですよ)。
 最近は障害レースへの騎乗が主になっているようです。
 「これを機にもう一度大きな舞台で騎手として活躍してみたい」とは言うものの、どんなに素晴らしい調教の才能を見せても、それが実戦での登用につながるわけではない。
 いまや、有力馬はみんな、デムーロルメールだものなあ。
 でも、エリザベス女王杯マイルCSミルコ・デムーロジャパンカップのボウマン騎手をみていると、外国人騎手を乗せたくなる気持ちもわかるよ。
 黒岩騎手も調教手当のおかげで食べていけているのだろうし、将来調教助手や調教師をめざすとすれば良い経験になっていることは間違いないのでしょうけど、美談というより、「厳しい競争の世界だよなあ……」と思いながらみていました。
 

 キタサンブラックって、ディープインパクトのように「今度もだいじょうぶだろう」とみんなが安心している馬じゃないんですよね。
 これだけの成績を残していても、G1で単勝1倍台に支持されたことはない。
 ……と思いきや、1.4倍に指示された今年に宝塚記念が、敗因のよくわからない9着。
 毎回、この血統では距離が長いのでは、とか、逆に2000mは短いのでは、とか、府中で勝つには瞬発力が足りないのではないか、など、さまざまな不安点が指摘されては、それを克服してきて、「さすがに今回はだいじょうぶだろう」とみんなが思ったところで謎の惨敗。
 まあほんと、オルフェーヴルみたいな「何をやるかわからない馬」じゃないですけど、「キレると手がつけられない真面目な人」みたいな馬なのかもしれませんね、キタサンブラック
 僕は芸能人馬主というのも好きじゃなくて、「本業で稼いで有名にもなっているのに、競馬でも目立たなくて良いじゃないか」と思ってしまうのです。
 キタサンブラックは人気の高さもアンチの多さも馬主の知名度が大きいのではなかろうか。
 とにかく無事に回ってきてくれればいいよ、っていうのも「そりゃ金に困ってないからだろ!」とか内心悪態をついていたりもするわけです。
 もっとも、金に困りまくっている人が馬主になっているはずもないし、考えてみれば、50年間馬主をやってきて、なかなか重賞も勝てなかった北島さんが、血統としては極めて地味なキタサンブラックを見初めて、人生の晩年でこんな幸運に恵まれたというのは、319分の1という抽選を突破しても、約3分の1は時短7回という地獄のようなパチンコ台を売りまくって高額馬を買いあさり、ついにG1を制覇した某馬主よりも、よっぽど「良い話」ではあるんですけどね。
 まあでも、キタサンブラックがほとんど内枠を引いたり、勝ったあとに馬主の歌謡ショーが行われたりするのをみると、これは本当に「公正競馬」なのだろうか、と思わなくもないです。いや、公正じゃないならないで、それを前提に当てればいい、もしくは買わなきゃいいんだろうけどさ。


 ずっと「嫌い」だったはずのキタサンブラック
 強いな、と思って買うと単勝1.4倍で惨敗し、こんな不良馬場じゃ何が起こるかわからんな、と疑っていると復活し、やっぱり強かった、と本命にすると、落鉄し、ゴール直前で差されて3着になるキタサンブラック
 逃げ・先行という脚質もあり、つねに見せ場はつくってくれるし、最近の競馬人気の復活には、キタサンブラックの力は大きいと思うんですよ。
 僕もいつのまにか、キタサンブラックを応援するようになっていました。
 というか、出てくるレースは、買わないとなかなか当たらないし(買っても当たらないけど)。
 馬主や騎手が派手というか目立つ人なので、華やかなイメージもあるのだけれど、血統的に考えれば、こんなに活躍して、幅広い距離でG1を勝つ馬になるなんて信じられないんですよね。
 引退レースの有馬記念、なんとか花道を飾っていただきたい。
 中山を包むのは、「キタサンコール」か「ブラックコール」か、はたまた「ユタカコール」か。観客は、どれを選択するのだろう?
 ……とか思い込んでいると、かえって謎の惨敗をしそうな気もしなくはないんだよね、「ネット競馬予想を見る馬」だからな、キタサンブラック……

 
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