いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

三浦知良選手の「50歳現役」と武幸四郎騎手の「38歳での引退」


number.bunshun.jp


現在書店に並んでいる『Number』の922号は、「キング・カズ」こと三浦知良選手の50歳を迎えて(そして、Jリーグ開幕を控えて)の特集でした。


僕はサッカーにはそんなに詳しくないのですが、僕が高校時代にJリーグの開幕戦を寮で観ていたときから「そこ」に居続けている三浦知良、という選手に対しては、シンプルに「まだ現役を続けているなんて、すごいよなあ」と思っています。
でも、ここ10年くらいの三浦さんに対しては、「あれほど活躍し、日本のサッカーの代名詞ともなった選手が、50歳になってまで、短い出場時間で客寄せパンダのような存在として『現役』にこだわる必要があるのだろうか……三浦さんだったら、指導者としてのニーズもあるだろうし、解説者やタレントになったほうが、金銭的にはもっと稼げるはずなのに……」とも感じていたんですよね。
「現役選手であるための、現役」みたいにみえてしまうのです。
実際、この大ベテランが現役であることを維持するために、若い選手の枠や出場時間が削られているわけです。
フル出場、あるいはそれに準じた活躍ができていれば、何歳であっても関係ないけれど、最近の状況は、そうは言いがたいものだしなあ。


その点では、この「レジェンド」を「聖域」として「ずっと続けていて偉い!」と称賛しつづけている大部分のメディアにも、違和感はあるんですよね。
東日本大震災後のチャリティマッチで、三浦選手がゴールを決めたときには「ああ、決めてくれたのがカズさんでよかった!」って心底思いましたし、掛け値無しの「スター」であることも間違いないんだけれど。


www.daily.co.jp

これだけ話題になり、集客効果も見込める存在であることも事実ですし。


この『Number』には、本人へのインタビューや中田英寿選手との対談が掲載されています。

これを読んでいて痛感したのは、三浦知良、という選手の凄さは、試合での活躍にだけあるのではない、ということでした。


一志治夫さんの独占インタビューより。

三浦知良確かに50代で現役でプレーしていることはすごいのかもしれません。でも僕は、節制し、情熱を持って、ただ年を重ねて永らえていけばいいと思っているわけではないんです。いま言った練習にしてもみんなと同じようにできなければ嫌だし、チームに対してどう貢献できるか、どんな素晴らしいプレーができるのかというのがあって初めて、年齢を重ねている意味があるのだと思います。そういう意味では、他の選手と何も変わらない。ベテランであることは間違いないけれど、グラウンドに出ればただの一選手です。ピッチに立てば、年下の選手とまったく同等。その意識はずっとぶれていない。
 だから、「1週間に1、2回しか練習をやらなくていいです。でも、選手として続けてください」と言われてやって、それをみんなからすごいと褒められるのは違う、といまの僕は思う。もしかしたら、55歳の僕はそれでもいいから続けたいと思うかもしれない。でも、いまはまだそういう考えはないんです。みんなと同じフィールドで、全力でやっていたい。
 サッカー界では、練習をちゃんとやらないで、調整だけで試合に来る人は、どんなに実績がある選手でもいいとは思われません。他のチームから移籍してきた選手は、前のチームのベテランでちゃんとやってなかった人のことを良く言わないですから。だから、うちのチームにきて、僕がやっているのを見て、「カズさんはこれだけ毎日やっていて休まない。僕は他の人から聞いてはいましたけど、実際に見るまでは信じられなかった」と言われたりする」


また、中田英寿さんとの対談では、こんな話をされています。

カズ:今年、横浜FCに何年か日本でプレーしているオランダ人の選手が入ったんだけど、この前一緒に走っている時に、「なぜあなたがキングと呼ばれているか他のチームにいる時は分からなかった。対戦したときも49歳のこの人がなんで試合に出ているのか疑問だった。きっとお金のため、人気があるからという理由で続けているんだろうって思っていた。でもここに来て一緒にやって、あなたがキングと言われ、サッカーを続けている理由が初めて分かった」と言われてすごく嬉しかった。近くにいないと分からないことってあるよね。僕は続けるにもいろんな続け方があると思う。


 三浦知良選手の場合、サッカーに対する情熱やストイックな練習ぶりが、チームメイトに良い影響を与えている。
 それは、試合やその結果しか見ない人には、伝わらない。
 そういう姿勢が周囲に与える影響は、広島カープでの黒田博樹さんのような存在なのかな、とカープファンとしては思いつつも、「でも、黒田さんは引退した年も10勝を挙げて、ローテーションを守っていたんだよなあ」とも考えてしまうのです。
 黒田さんがどんなにストイックに頑張っていても、成績が振るわなければ、他の選手に、あんなに強くは伝わらなかったはずです。


 「試合での活躍だけが現役選手の価値じゃないんだ」
 そういう存在は「あり」なんだろうけど、三浦知良さんの場合は「大スター」なだけに、それでいいのだろうか、とも思うのです。
 裏方さんなら、「存在意義は練習を見ないとわからない」で良いのです。
 でも、プロサッカー選手って、試合で活躍するために練習をしているし、それでお金を貰っているわけじゃないですか。


 もちろん、本人が「まだやりたい」と思っていて、「まだやってほしい」という受け皿があるのなら、他の誰かが「やめろ」なんて言う筋合いはありません。
 でも、横浜FCというチームにとって、これは本当にプラスになっているのだろうか。


 昨日、武豊騎手の弟である武幸四郎騎手が、現役最後の騎乗を終えました。
(その他にも何人かの騎手・調教師が引退しています)
www.sankei.com


 デビューした週にオースミタイクーンで重賞を勝ったのをみて「何なんだこの武一族っていうのは!」と驚いたのですが、騎手生活を通じて、GIレース6勝を含む重賞28勝、通算では693勝という「『武豊の弟』としてはやや物足りないが、一騎手としては立派」な実績を残し、38歳での騎手引退、調教師への転身となりました。
 年齢的には、まだ十分乗れたとは思うのですが、最近は成績も低迷気味で、お父さんの武邦彦調教師の後継、というのもあったのでしょう。


 「騎手引退」とは言うけれど、「調教師になれる」というのは、すごいことなんですよね。
 調教師試験というのはかなり難しいらしい(「東大に入るより難しい」と言う人もいました)ので、合格するのは大変だったはず。
 38歳というのは、ある程度成功した騎手が辞める年齢としては「若い」けれど、調教師として活躍できる時間がたくさん残されている、とも考えられるのです。


 三浦知良選手と、武幸四郎騎手。
 どちらの生き方が正しいというわけではなくて、本人がやりたいようにやるしかないのでしょうけど、「実績を残してきた人が、活躍できなくなってきたときの引き際」について、考えずにはいられない2月の終わりでした。
 もっとも、ほとんどの選手は「自分の引き際を自分で決めることはできない(クビになったり、怪我で辞めざるをえない)」のですけどね。


Number(ナンバー)922号[雑誌]

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とまらない(新潮新書)

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