いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

高木京介投手の「供述」と「道を踏み外さずに生きる」ということ

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また「巨人」かよ、しかも他の3人が無期失格処分になったあとも誤魔化そうとしていたなんて、悪質なヤツだな、まあ、ナベツネが辞任したことで野球界に貢献したと言えなくもないか、などと「アンチ巨人」の僕は、溜飲を下げていたのです。


しかしながら、上記の「供述内容」を読んでみると、なんというか、他人事じゃないような気もしてきたんですよね。
いや、僕自身が野球賭博をやったり、裏世界の人とそれを知りながら積極的に関わる、ということはないと思うけれど、人間が普通に歩いている道って、細い平均台の上みたいなもので、ちょっと足を踏み外せば、簡単に「堕ちる」ものなのだよな、って。


みんなが憧れるプロ野球選手、しかも、人気球団の選手という立場を考えれば、野球賭博なんかに関わるのは、傍からみれば「割に合わない」し、「どうしてそんなことをするのだろう」っていう感じですよね。
僕だったら、絶対にしない、と思ってしまう。
子どもたちの夢を壊しやがって、とか言いたくもなる。


でも、当事者にとっては、どんなに憧れていた存在でも、自分がプロ野球選手になった後も、ずっと「憧れていた時期のモチベーション」を保ち続けるのは難しいのではなかろうか。
ちょっと前にカープに入団した選手が個人ブログに「広島おもんねーわ」「練習だるい。しょうもなさすぎる」と書いて、球団に厳重注意されたのですが、実際、プロ野球選手だからといって、スポットライトが当たる時間というのはごく一部の選手のごく一部の時間だけで、残りは地味で出口の見えない練習地獄だったりするのですよね。
(まあ、カープのこの選手はあんまりというか、プロに向いてなかったんだろうな、とは思うけど。ちなみにこの選手は数年で戦力外になりました)


どんな「憧れの職業」でも、実際になってしまえば、それは「ただ、そこにあるもの」で、「その中での激しい競争」もあります。
そこでストイックに努力を続けられる人ばかりなら良いのだろうけれど、たぶん、そういう人ばかりではない。
やる気満々で入団しても、同じことのくり返しだったり、チームメイトとの力の差を見せつけられたり、なかなか結果が出なかったりすると、煮詰まってしまうというか、自暴自棄になったり、判断力が低下してしまってもおかしくない。
そこで、圧倒的な力を発揮できたり、たゆまぬ努力を続けられる人は、「一流プレイヤー」として生き残っていけるのだろうけど。


医者とかも、そうですよね。
僕の場合はそれほど憧れて就いた仕事ではなかったけれど、大部分の人は、この職業に大きな希望を抱いています。
そして、働き始めてみると、現実とのギャップに苦しむのです。
ごく一部の最先端の研究者を除けば、病気の治療法にオリジナリティなんて要求されないし(患者さんからしたら、そんなの思いつきで試されたらたまらない)、生死の境目から、ドラマチックに「生」のほうに引っ張ってくるような事例は、ほとんどない。
高齢者が施設と病院を行ったり来たりしていて、家族が「また入院です」と溜息をついていることもある。
大部分の仕事は「自分じゃなくても、他の医者にできること」だし、酒臭くてケンカ腰の患者さんに外来でいきなり怒鳴られてわけもわからないまま謝罪したり、上司に理不尽に怒られたり。
夜中の呼び出しも、最初は「おおっ、テレビドラマの医者みたいだ」って気分が高揚するのだけれど、仕事に慣れてくると「ああ、もう今日は家から出たくない……」と思うこともあるのです。
この呼び出しを無視したら、自分はどうなるだろう、とか、想像してみることもある。
結果的には、そういうときに「なんとか自分自身を叱咤激励して、起動してきた」ので、低レベルながらもこの仕事で食べていけているわけなのですが、そこで「堕ちる」かどうかって、ごくわずかな違いなんじゃないかな。
これからだって、うまくこの細い平均台を渡っていける保証はない。
そこで真摯に対応しすぎて、いろんなものを背負いすぎて潰れていった人も、何人かみてきました。


高木京介選手は、同僚に「ちょっとやってみない?みんなやってるからさ」なんて言われて、サラリーマンが仕事帰りに賭け麻雀をするような感覚で「乗った」のかもしれません。
そういう「誘い」に対しても「付き合いが悪いと思われたくない」から、乗ってしまう人だっている。
自分から積極的にやる、という人じゃなくても。


こういうのって、どんな理由やきっかけであれ、一度関わってしまうと、抜け出すのは難しいんだよね。
関わっていたことそのもので、脅迫されたりもして。


貴重な左腕の中継ぎとして、存在感をみせていた高木投手。
入団時からコンスタントに一軍で登板しており、デビューから139試合連続登板機会無敗という記録も持っています(2015年シーズン終了時)。
高木投手自身も、こんなことになるとわかっていたら、絶対にやらなかったと思うのだけど……


プロ野球選手にとって「野球賭博」は絶対にやってはいけないことだし、他の選手の処分後も隠していたことは「悪質」です。
「言えなかった」「自分がこのくらいしか関わっていないのに……」という気持ちも、この供述が事実なら、わからなくはない。
だからといって、軽い処分で済ませるわけにはいかないとは思います。
しばらく隠しておいたほうが罪が軽くなるというのは、おかしな話だし。


ただ、ずっとこの細い平均台の上を歩き続けるっていうのは、けっこうキツいことだよな、と、あらためて考えずにはいられないのです。
「ちょっとストレス解消」とか「気分転換」とか「普段がんばってるから、このくらいいいだろ、どうせバレないだろうし」とかいうのは、「こちら側の理由」でしかありません。
そこで足を踏み外すかどうかって、本当に「紙一重」なんですよね。


彼らは、自分がやったことに対して、責任をとらなくてはならない。
プロ野球の競技としての公正さへの疑念を深めてしまった罪は、あまりにも重い。
その一方で、いままで野球ばかりしていて、周囲からは「ヒーロー」だった人が、踏み外してしまったあと、この若さでいきなり野球を失い、世間から後ろ指をさされながら、どうやって生きていくのかというのを想像すると(正直、なかなか想像できないんですが)、いたたまれない気持ちにもなるのです。


赤い心

赤い心