いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「メールマガジンを週1回出さなければならない人生」

参考リンク:家入氏の有料謝罪メルマガを買ってみた - Hagex-day.info


週に1回発行のメールマガジンが、1回も発行されておらず、読者側から抗議しないとお金も返ってこないというのは、さすがにひどい話です。家入さんのメールマガジンを購読している人の大部分は、家入さんのファンだと思われますので、もしかしたら、「まあ、そういう不安定なとことがある人だっているのは、わかってんだけどさー」というくらいのスタンスで、状況を見守っているのかもしれません。


家入さんは、著書『もっと自由に働きたい』のなかで、こんなふうに仰っています。
(この本の感想は、こちらで書きました)


(以下『もっと自由に働きたい』からの引用)

 僕は、大きな野望があったわけでも、成し遂げたい事業があったわけでもなく、消去法で社長になった。会社勤めが嫌で、結婚して子どもができたタイミングで、妻子を養えるくらいの収入を在宅仕事で得たい、そして家族と一緒にいたい、という思いで起業を思い立った。


 逃げる準備として、僕はやりたいこと、やるべきこと、やりたくないことの3つの軸で考えた。僕の場合は、


 やりたいこと=家族と一緒にいる、

 やるべきこと=家族を食べさせるための最低限のお金を稼ぐ、

 やりたくないこと=会社に勤める


というところからスタートした。

 僕は見たくないメールがきたら、下を向いて削除することがある。見たくない未読メールがたまって気が滅入る。そんなときは、モニターという現実から目を背けて、下向いてデリート。たったメール1通で、憂鬱になったり、ビクビクしてしまうくらいなら、見なければいい、気にしなければいい、と僕は思っている。重要なメールはまたくるし、必要なら電話がかかってくる。心配しなくていい。

(引用おわり)


 「週に1回、メールマガジンを発行する」っていうのは、けっこう大変なことだと思うんですよ。
 しかも、「お金が取れるレベルのもの」となればなおさら。
 堀江元社長のメルマガは1億円の収入があるそうですが(月間なのか年間なのかは不明)、メルマガのためのスタッフがちゃんといますし、津田さんもスタッフを抱えています。
 東野圭吾さんが『歪笑小説』という出版社の内幕をネタにした短編集を書かれていたのですが、そのなかで、「なぜ、文芸誌というのは、途中から読んでもわかがわからないような連載小説を載せているのか?」という問いを登場人物が投げかけていました。
 答えは、「締め切りがないと、作家というのは、なかなか書いてくれないから」。
 村上春樹さんみたいに、すべて書き下ろしで長編小説を発表する人は、非常に珍しいのです。
 職業作家でされ、1ヵ月単位、あるいは、新聞の連載小説であれば1日単位での「目標」を設定して、編集者が督促しなければ、コンスタントに作品を生むのは難しい。
 
 
 またこれで「家入バッシング」が起こるのではないかと思うのですが、家入さんの場合、「明らかに不向きであろう、定期発行の有料メルマガ」とかを出すことにしてしまったのが、間違いだったとしか言いようがありません。
 僕は家入さんのように生きられる人間ではないですが、家入さんが著書で書いていた、「世間のお約束に縛られない働きかた」は、ある種の人たちには「救い」になると感じていました。
 家入さんが家入さんらしく生きようとすればするほど「週1回発行のメルマガ」なんていうのは、「めんどくさくなってしまう」のは自明の理なんですよね。
 「そういうことをしたくない」という生き方を切り開いてきたはずの人が、名前が売れ、ネットで一稼ぎする方法として薦められ、「週1回くらいなら書けるだろ」と、生き方を曲げてしまった。
 逆説的ですが、「週1回、ちゃんとメルマガを書けるような人なら、こんな生き方はしなくてよかった」はずなのに。


 お金が絡むというのは、実にめんどくさいことなのです。
 無料のメールマガジンなら、不適切な記載で「炎上」する可能性はあろとしても、「金払っているのに」とは言われない。
 タダであれば、年1回発行でも「回数が少ないのが嫌なら読むな」で、致し方ない。


 これ、もう全額返金して、「向いてないのでやめます」「あとは気が向いたときに無料でやります」とするしかないんじゃないかな。
 

 ずっとネットをやっていてつくづく感じるのは、「他人というのは、よっぽど面白いか、役に立つか、そのどちらかじゃないと、読んでくれないものなんだな」ということです。
 お金が絡むとなれば、なおさらなんだよね。
 自分のプロモーションとして、無料でかなりのものを書いているプロもいることを思えば、有料メルマガというのは、ごくひとにぎりの勝ち組以外にとっては「労力のわりには、続けていくのは困難で、ワリに合わない」商売なのだと思います。


 ただ、「家入さんのことは嫌いでも、家入さんみたいな生き方しかできない人がいる」ことは、事実なんですよ。
 というか、「家入さんのような生き方がなんとか許される時代になった」のは、悪いことじゃないんだよ、たぶん。
 せっかく、「会社に毎日通わなくてもいい人生」を手に入れた人なのに、その代わりに得たのが「メールマガジンを週1回出さなければならない人生」だとしたら、せつないとしか言いようがない。


 ところで、今回の家入さんの弁明を読んでいて、村上春樹国境の南、太陽の西』の、この言葉を思い出しました。

「幾つかのことに気をつければそれでいいんだよ。まず女に家を世話しちゃいけない。これは命取りだ。それから何があっても午前2時までには家に帰れ。午前2時が疑われない限界点だ。もうひとつ、友達を浮気の口実に使うな。浮気はばれるかもしれない。それはそれで仕方ない。でも友達までなくすことはない」

 実際に、友人の死にショックを受けておられたことはまちがいないでしょう。
 でも、「友達を口実に使う」のは、やはり、適切ではないと思います。

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