いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「10年前にはあった仕事」に想いを馳せ、「10年後も食える仕事」を考える


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 新型コロナの影響もあって、これまでの「仕事」のやり方が、どんどん変わってきているのです。
 病院でも、これまで「直接患者さんを診ないと薬を出せない」というのを堅持してきた医療者たちが、リモート診療を受け入れざるをえなくなっていますし。
 
 僕はずっと、「どんどんAIやロボットが進化してくれば、人間の仕事として残るのは、いわゆる『士業』とか、高度の専門知識を要するものだろう、と思っていたのです。
 
 でも、現実はそうじゃないみたいなんですよね。

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 この本の著者は、「仕事の未来」を5つのカテゴリに分類して解説しています。

・ロボティクス失業――機械やITに置き換わり、失業リスクが高い

・手先ジョブ――人間の手先が必要不可欠で、永遠に残り続ける

・職人プレミアム――テクノロジーとは無縁で、雇用は安定

・AI・ブロックチェーン失業――中核業務は無人化・自動化が不可避

・デジタル・ケンタウロス――AIを乗りこなし、人間の強みを発揮


「頭を使う、ホワイトカラーの仕事」には、AIで効率的にできてしまうものが少なくないのです。

 著者はそれらを「AI・ブロックチェーン失業」としています。
 銀行や証券会社は、オンライン化によって、どんどん仕事がなくなっているのです。アプリの使い方さえわかれば、リアルタイムで、数百円くらいの手数料で取引できるのに、証券会社の窓口で株を買う人は、昔からの付き合いか、ネット取引に適応できない高齢者くらいですよね。
 だからといって、片っ端から銀行員や証券会社員とリストラするわけにもいかない。
いまから30年近く前、僕の同級生にも高偏差値の大学を卒業して銀行に就職した人がけっこういたのです。彼らは銀行という安定しているはずの職場が、こんなことになるとは想像もしていなかったのではなかろうか。

 レンタルDVD店も、いつのまにか閑散としています。
 そりゃ、「家から出て店で借りる」「家で観る」「店に返す」というプロセスより、「オンデマンド配信で家に居たまま観る」ほうが手軽ですよね。なんといっても、「返しに行く」というのは、けっこうめんどくさいし、遅れると延滞料金も取られてしまう。
 うちの小学生と幼稚園の子どもたちは、CDで音楽を聴いたことが無いのではなかろうか。少なくともCDを買ったことはなく、気に入った曲はダウンロードで買っています。
 僕はパッケージやCD、DVDのような「記録媒体」が手元に残ったほうが得した気になるのですが、子どもたちには、そんな感覚は一切なさそうです。
「所有する」ということに対する意識が、劇的に変化しているのです。

 ちなみに、前掲書では、AIでデータを集約しながら、創造性を加えなければならない仕事は「デジタル・ケンタウロス」(ケンタウロスは半獣半人間の伝説の動物)として、最後まで人間に残り続けるそうなのですが、そんな仕事ができる人間というのは、ごく一部だけでしょう。

 あと、AIやロボットは巨大なデータの処置や単純作業はお手のものなのですが、「細かくて微妙な力の調節を必要とする手作業」は苦手としています。

職種でいうと、コンビニの店員は、まさにこの作業を行っている.単なるレジ打ちではなく、おでんや「ファミチキ」のようなホットスナックを手に取り、宅配の荷物を受け付け、タバコを棚からとり……と、その業務内容は多岐にわたって同時並行で進む。

また、寿司職人の仕込みから握りに至る手作業のような、料理人の包丁さばき全般もこの「手先ワーク」の代表である。

農業の大半の作業も、この手先ワークだ。たとえば、イチゴを1つずつ綺麗に12個、2層に並べて、パックに詰めていく作業など、アマゾンのピッキングよりも難しい。機械化したら、潰れてしまうだろう。


この「手先ワーク」の場合、時給が高い仕事は少なめで、「人間がやったほうが(雇用する側にとって)安上がり」という場合も多いのです。
中途半端に勉強するよりは、文字通り「手に職をつけて」器用さで勝負するか、あるいは、機械より安い従順な労働力であることを受け入れるか。


実際のところ、AIによって「生産性の上昇」が進んでいくとしても、それが「人が働かなくても済む世の中」につながるのかどうか、僕は疑問に感じています。


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この本のなかでは、アルバイトから「地域正社員」になろうとして、2015年の秋からユニクロで働き始めた女性の話が紹介されています。
 彼女は当時、乳児を抱えていました。

 当初は週に「一日4時間×3日=週12時間」という契約で働きだした。しかし、一年以上働いた中野さんは、ユニクロの雇用実態に対して憤りをあらわにする。
ユニクロでの勤務は、日雇い以下の雇用形態でした。店舗のご都合主義に振り回されました。度重なる、直前の出勤要請を受け、ストレスだらけの一年間でした。ストレスが高じて、母親にも負担をかけているし、生まれてきたばかりの我が子のわがままを聞いてやる気持ちの余裕すらなく落ち込む日々がつづきました」
 中野さんは入社すると店舗の従業員が参加していたLINEへの招待があり、すぐに参加した。それ以降、LINEを使っての緊急の出勤要請や、店舗での連絡事項の共有などが流れてくるようになった。


(中略)


 通常、ユニクロの店舗では、一ヵ月以上前に月次の出勤スケジュールを提出する。それによって、シフト担当者が月次のスケジュールを作り、それから週次のスケジュール、日次のスケジュールに落とし込んでいく。しかし、中野さんの働く店舗では、大前提となる月次のスケジュールの部分で大きく削られるのだという。
「月次では週4、5日出勤できるというシフト表を出しても、結局、週に2、3日ぐらいでシフトが組まれるんです。あとは、直前に出勤要請が入り、それに応えて10日ぐらい出勤する感じですね。結果的には、月に20日前後の出勤となることが多かったんですが、いつくるのかわからない出勤要請に振り回されて、家事や育児が二の次になってしまいました。閑散期になると、朝の7時15分から12時までのシフトが入っていても、9時の開店前になると、もう上がってください、って声がかかることが何度もありました」
 そう語る中野さんの口調に、悔しい気持ちから涙声が混じる。


(中略)


 中野さんの話を聞きながら、私は大いに呆れていた。
 店長やシフト担当者は、人件費を削るだけ削ってシフトを組んで、人手が足りなくなると出勤要請をかけ、人手を集める。自分たちのマネジメント能力のなさを、LINEを使ってスタッフに押しつけている。繰り返される出勤要請からは、スタッフの負担を軽減しようという思いやりはほとんどみえなかった。
 いつ出勤要請があるかわからないというプレッシャーから、中野さんは、
「真っ暗なトンネルの中を一人で歩いているような気持でした」
 と語る。
 月の給与は、4万円台から、10万円台までで、繁閑差に合わせて上下した。2016年の年間の給与は、額面で80万円にも届かなかった。それでも、中野さんの生活が、成り立ったのは、正社員として働く母親と同居していたからだ。


 この本には、実際の出勤要請のLINEの画面も掲載されているのですが、これを見ると、LINEそのものが嫌いになりそうです。
 便利なのは間違いないんだろうけど、これじゃあずっと「自宅待機」させられて、招集を待っているようなものだよなあ。
 本当に「効率よく、なるべくお金を払わずに人間を使うためのシステム」ばかりが、進化しているような気がします。
 この店長だって、会社の方針とか、自分の評価をあげるために、こんなことをやっているのだろうけど……


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世界金融危機のあと、自営業者が100万人以上も増えた。その多くが、インターネットなどを通じて単発の仕事を請け負う”ギグ・エコノミー”という働き方を選んだが、彼らに労働者の基本的な権利はほとんど与えられていない。
週5時間働けば、(イギリス)政府が定義する「失業者」には含まれなくなる。
しかし、そのような仕事で家賃を払うのは至難の業だ。たとえフルタイムの仕事に就いていたとしても、バラ色の未来が保証されているわけではない。
近年のイギリスで続く所得の減少は、ここ150年でもっとも長期にわたるものだ。

 インターネットを利用して、自分が空いている時間に、好きなように稼ぐ……と言われると、なんだかとても自由で新しい働き方のような気がするのですが、著者の体験談を読んでいると、これは
「コンピューターがつくった『もっとも効率が良いスケジュール』に合わせて、安く買いたたかれた労働者が酷使されるシステム」
ではないのか、と考えずにはいられなくなるのです。

 極限まで「効率化」され、「生産性が高い」社会は、そこで暮らす人間に「幸福」をもたらすのか?

 もちろん、「働きたくない人は、ベーシックインカムで好きなことをして暮らす」ような世の中になれば良いのかもしれませんが、結局のところ、「われわれは、働かずに生きることを幸福と感じられるのか?」という疑問もあるんですよね。


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 世の中に「ブルシット・ジョブ」が増えているのは、大概の「頭を使う仕事」は、もう、コンピューターが集約的にやったほうが簡単で速い時代になってしまった、という事情もあるのかもしれません。


 もし、世界が本気で、かなりの犠牲を払うのを承知のうえで、世の中を「AI化」しようとすれば、かなりの数の失業者とともに、いろんなことが効率化されるはずです。

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 この「メーター検針員」という仕事は、すみやかに全部スマートメーター(人間が検針しなくても、データをネット経由でセンターに送れるメーター)に切り替えてしまって、メンテナンス要員だけにすることは十分可能だと思うのですが、そこで働いている人たちや、受注している会社の利権も含めて、ソフトランディングに向かっているのでしょう。

 効率化と利権というのは表裏一体、みたいな場合もあるし、医者も、手先を使う外科医の仕事は人間にしかできなくても、症状やデータをもとに可能性の高い疾患を挙げて、診断していく内科医の仕事は、その気になればけっこう早い段階でAIに置き換えられるのではないか、とも思うのです。
だから、個人的には今の「医学部ブーム」みたいな潮流には危険を感じているのですが、医者の場合は「職能団体としての既得権益を守る力の強さ」があることは大きい。
 ただ、銀行と同じで、一度「効率化」に舵を切れば、一気に「大勢の医者がリストラされる時代」が押し寄せてくる可能性はあります。


 仕事というのは、世の中が変われば、無くなるものがあるのと同時に、新しく生まれるものも当然出てくるのです。
 アフィリエイターとかYouTubereなんて、僕が子どもの頃には想像もできなかった仕事ですし。
 ホームページビルダーで個人サイトをつくっていた時代は、『侍魂』の健さんが「ブログに広告を載せませんか、と言われた」という話をしているのをみて、「個人のホームページで、そんなことが起こりうるのか……」と驚いてから、まだ20年くらいしか経っていないのだよなあ。


 10年後がどうなるか、なんて僕にはわからないのですが、「お金を払うから、人に感謝される仕事をやらせてくれ」みたいな人が溢れている世界は、そんなに遠くないような気がします。

 あと、「先のことはわからないからこそ、いま、自分がやりたいことを大事にしたほうがいい」と僕は思います。


10年後の仕事図鑑

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