いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

ZOZOの前澤友作社長の退任会見をみて思い出した、面白い「起業家」「起業物語」の本


www.businessinsider.jp


 ヤフーとZOZOの業務資本提携とZOZOの前澤友作社長の退任には、僕もけっこう驚きました。いや、最近のZOZOの成長の停滞と前澤社長の肝いりではじめたZOZOスーツの不振、ZOZOを支えてきたメーカーに離反の動きが出ていることなどを考えると、きれいな引き際になるラストチャンスだったのではないか、とも思うのですが。もちろん、結果論なんですけどね
 退任されてみると、前澤社長というのは面白い人だったな、という気がしてきたんですよ。ずっと「ツイッターでフォロワーにお金をばらまくなんて下品だ」と思っていたのに。
 
 僕自身は、まったく冒険的な人間ではなく、今の仕事も「これなら、自分が生きている間は食べるのに困ることはないだろうし、それなりに人の役に立ちそうで、バカにされたりもしないだろう」という、消去法みたいな理由でやってきたのですが、その反動なのか、本や映画で語られる「起業や起業家の物語」は、昔から大好きだったのです。
 起業というのは前半に「努力!友情!勝利!」という、『週刊少年ジャンプ』みたいなストーリーがあって、その後に「裏切り、勢力争い!没落!」というワイドショー的な趣味を満足させてくれる要素も登場してくることが多いのです。
 「人間の良い面、悪い(困った)面」が、けっこう赤裸々にあらわれてくるのですよね。

 というわけで、僕が読んできて面白かった「起業・起業家の本」を御紹介していきたいと思います。



(1)スティーブ・ジョブズ
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 上梓されてから、もう8年も経つんですね。
 この本を読んでいくと、ジョブズとともにアップルで過ごしてきたひとたちのなかで、ジョブズの「パートナー」をずっと努めてきた人が誰もいないことがわかります。
 それがアメリカの企業文化なのかもしれませんが、日本の企業の「創業物語」のような「忠実なパートナー」は、ジョブズには存在しなかったのです。
 ジョブズは、スカリーのように、自分から三顧の礼で迎えた人物でさえも、しばらくすると強く批判し、排除していきます。
 もちろん、アップルという会社にとっては、それが「正解」だったのでしょうけど。
 ジョブズ自身も、一度はアップルを追われています。

 もし、ジョブズがアップルに復帰する前に命を落としたり、引退していたら……
 あるいは、もう少し長生きして、アップルの舵取りを続けていたら……
 ジョブズはけっこう「パワハラ的なこと」もやっていますし、歴史的な評価も変わっていたのではないか、と思います。
 あの若さで亡くなったのが「幸運」なはずがないのですが、引き際というのは大事であり、いちばん難しいことなのだろうな、と考えてしまいます。



(2)フェイスブック 若き天才の野望
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フェイスブック 若き天才の野望

フェイスブック 若き天才の野望


 映画『ソーシャル・ネットワーク』でも描かれていたのですが、マーク・ザッカーバーグは、フェイスブックがある程度大きくなっても、「広告はクールじゃない」と、『フェイスブック』のシンプルなデザインにこだわり、外部の投資家からの資金援助も極力避け、「金を稼ぐこと」よりも「使いやすいサービスであること」「ひとりでも多くの人が『フェイスブック』に登録してくれること』を優先しました。
(いまは、それなりに「稼ぐ」方向にシフトしているようですが)

 この本のなかで、いちばん印象的だったのは、マーク・ザッカーバーグの「インターネットと人間への信頼」、そして、「彼らがインターネットを通じて、人間と社会を変えようとしていること」でした。

「本当の自分にならない限りフェイスブックにはいられない」
 フェイスブックの透明性急進派のメンバーたちは、ザッカーバーグを含め、可視性を高くすればするほど良い人間になれる、と信じていた。たとえば、フェイスブックのおかげで、最近の若者たちは彼氏や彼女をだますのが難しくなったという人もいる。さらには、透明性が高いほど寛容な社会が生まれ、誰もが時に悪いことや見苦しいこともする、ということをやがて受け入れるようになるとも言う。透明性が不可避であるという前提は、2006年9月にニュースフィードを開始した時にも真剣に検討された。透明性は人の行動をすべて同一に扱い、その結果個人のアイデンティティーのすべてを、どんな状況からでも同じ情報のストリームへと伸縮させる。


 これが本当に「正しかった」のかどうか。
 悪いことをする人は、自分のプロフィールを偽ろうとするからなあ。



(3)渋谷ではたらく社長の告白
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 昔読んだときには、「僕にはこんなバイタリティなんてないからなあ」と、家にもほとんど帰らず、顧客開拓をしていた藤田社長たちの話の「熱さ」に辟易していたのです。
 あらためて考えてみると、あれからずっとサイバーエージェントは続いていますし、日本でIT系企業の「起業家の告白本ブーム」を切り開いた一冊だと思います。



(4)人生ゲーム 人生は1マス5年で考えよう
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人生ゲーム 人生は1マス5年で考えよう

人生ゲーム 人生は1マス5年で考えよう


懐かしいおもちゃの話が出てきますし、タカラという日本を代表する玩具メーカーの歴史が概観できる本ですので、興味を持たれたかたは、読んでみる価値はあると思います。
徒手空拳の町工場から、試行錯誤しながら這い上がってきたタカラは、太平洋戦争後の「世界のなかでの日本」の姿でもあるのです。

 人生も同じです。ビジョン、究極の目標はあった方がいい。でも、それをはっきりと意識することは難しい。ですから、まずは目先の5年先を考えて、自分をいかに成長させていくかを考える。この5年をどんどん積み重ねていくうちに、あなたの中にあった人生の究極の目標がはっきりとしてくるはずです。
 つまり、人生は人生ゲームなのです。1マス5年で、自分を成長させていく人生ゲームです。そして、「あがり」はあなたの究極の目標です。その「あがり」がなんであるか。億万長者なのか、幸せな人生なのか、それは1マス5年の人生ゲームで、山を越え、谷を渡るうちに次第にはっきりとしてくるでしょう。
 いちばんよくないのは、スタート地点に立ち止まってルーレットも回さずに、ゴール=目標がなにであるかを考え続けてしまうことです。

 まずは動いてみよう、そうしなければ始まらない。
 これは、成功した起業家に共通した考え方だと思います。
(失敗した人もそうだったのかもしれませんが)



(5)不格好経営―チームDeNAの挑戦

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 多くの「インターネット企業」が、ネットのことを知りすぎている、あるいは知っているつもりでいすぎたために、モバイルを「これまでネットでやってきたことと地続き」だと考えてしまったのに対して、DeNAは「モバイルにはモバイルに特化したやり方が必要なのだ」ということを、いちはやく理解し、取り入れたのです。
 これが、DeNAを「勝ち組」にした要因だったのではないかと思います。

 僕にとって参考になりそうなところもいくつかありました。

 わが社がコンサルティング会社からも人材を積極的に採用しているのは、コンサルティング業界は人材の流動性が高く、人材の供給源になっているためであり、コンサルティング経験を評価しているからではない。できるだけ染まりきっていない、優秀な人材を採用するようにしている。そしてこれまで述べたような違いを説明し、加えていくつか具体的なアドバイスもする。


 ・何でも3点にまとめようと頑張らない。物事が3つにまとまる必然性はない。
 ・重要情報はアタッシュケースではなくアタマに突っ込む
 ・自明なことを図にしない
 ・人の評価を語りながら酒を飲まない
 ・ミーティングに遅刻しない


 柔軟な発想をすること、効率的に動くこと、信義や約束、時間を守ること。
 この5つの項目のうち、最後の2つは「社会常識」とも言えるものです。
 DeNAのような「上下関係へのこだわりが少ない、若い会社」だからこそ、こういう最低限のことは守るべきことだと、著者は考えているんですね。
 それでも、WELQ問題は起こってしまったのだよなあ……


(6)ツイッター業物語
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彼らは、自分たちの居場所を求めてサンフランシスコに集まり、世界を変える「Twitter」を開発することになります。
最初、彼らは「仕事仲間」であるのと同時に、「友達」だったのです。
誰かの部屋に集まり、ずっと雑談をしたり、パーティをしたり、新しいアイデアを実現しようとしたり。
ところが、Twitterが多くのユーザーに認められ、世界の動きに大きな影響を与える可能性が出てくると、そこに目をつける賢い投資家たちがあらわれます。
投資家たちは、仲間のひとりを指差して言うのです、「アイツは、この大きな会社を経営するのには、向いていないんじゃないか?」と。
たしかに、仲良しグループでは巨大な会社を動かしていくことができないのは、わかりきっているのだけれども、創業の苦楽をともにしたはずの「仲間」たちが、バラバラになり、憎み合いすらしていくのは、読んでいていたたまれないものがありました。
彼らが一時Googleに所属していたときには、みんなで口を揃えて「Googleのエリート大学出身の連中なんて大嫌い」だったのに、Twitterという「金鉱」の前では、「一緒に闘ってきたはずの仲間」が諍いをはじめてしまうのです。
それは「Twitterのため」だったのか、それとも、彼ら自身の夢やプライドのためだったのか……

ある人物が、ある人物を「自己中心的で、経営者に向いていない」と追放し、追放した人物が、今後は「優柔不断で、決断力に欠ける」と追放される。
会社から完全に籍を抜いてしまうのは「外聞が悪い」というのと、昔からの仲間への遠慮もあって、「名目だけ」会社に残しておいたつもりだったのに、それが仇になってしまう。

下世話ではあるのですが、「ザ・創業物語」みたいな本です。



(7)海洋堂創世記
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海洋堂創世記

海洋堂創世記


この本は、1980年代、ガレージキットのブームが起こり、「マニアが集まる模型店」から、「日本を代表するフィギュアメーカー」への階段をぐんぐん上がっていく海洋堂と、そこに集まった人々の姿を、当時、その場所にいて、海洋堂のスタッフとして過ごしてきた著者が描いたものです。


著者自身もガレージキットを作っていて、かなりの技術もあったこともあり、この「海洋堂ホビー館」で、いつの間にかアルバイトをすることになります。
そしてそこには、さまざまな「原型師」たちが生息していました。

 ある時期からは、関東からやってきた原型師の田熊勝夫もホビー館に住んでいた。田熊君は、茅場町にあった初代ホビーロビーに、フルスクラッチしたサンバルカンのフィギュアを持ち込み、あまりに出来が良かったので、そのまま原型師デビュー、海洋堂の社員になってホビー館に住み込むことになった。
 アマチュアからいきなり業界最大手でプロになるという、ある意味で夢のようなエリートコースを歩んだ田熊青年だったけど、創生期のガレージキット業界は貧しかったので、田舎から出てきた彼を待っていたのは、大阪の衛星都市にある巨大で埃くさい倉庫の二階のタコ部屋のような場所だった。
 あの頃のホビー館によく似た建築物を、十数年後になってテレビのニュースで見ることになる。1995年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の施設、サティアンである。大勢の人間が居住できる施設であり、工場であり倉庫でもあるオウムのサティアン海洋堂ホビー館は凄く似ていた。どちらも一般社会から切り離された空間である。


サティアン」かあ……
そこにあったのは、ガレージキットへの「信仰」みたいなもの、あるいは、世の中の「普通」に馴染めない人たちにとっての「居場所」だったのかもしれませんね。
僕にとってすごく印象的なのは、いまとなっては、オタクの中の「ハプスブルク家」、すなわち「オタクエリート」とさえみなされる海洋堂原型師たちの生き様でした。



(8)売上を、減らそう。
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売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放

売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放


会社として成長すること、大きくなることを「捨てる」ことを著者は選択したのです。
 佰食屋は、どんなにお客さんが来ていても、「100食限定」を変えることはないそうです。
 営業はランチのみで、早いときには14時半には最後のお客が食べ終わり、営業終了。
 ただし、早く営業が終わったときも、早退はなしで、仕込みや清掃などを丁寧にやるのだとか。
 以前、「営業が早く終わったら、早く帰れる」ような仕組みにしていたところ、接客や清掃がどうしても雑になってしまいがちだった、とのことでした。
 そんな「甘い」経営をしていて、店を続けていけるのか?
 僕もそう思ったんですよ。
 ところが、けっこううまくいっているみたいなのです。

「成長至上主義」を捨てる、というのは、これからの新しい潮流になっていきそうな気がします。
 


 というわけで、8冊、駆け足で紹介してきたのですが、「野心」や「向上心」にあふれた起業物語もあれば、「なんとなく目の前のことをやっているうちに、会社が大きくなっていった、とか、「成長を目指すより、自分たちが生きていけるだけ稼いで、仕事以外の面で人生を充実させるために起業した」という事例もあるのです。
 たしかに、他人に使われる立場であれば、自分の働き方をセーブするのは難しい。

 僕はこの年齢になって、人が人らしく生きるには「経済」というものが不可欠である、ということを痛感するようになりました。
 これまでは「お金の話なんて」と敬遠しがちだったのですが、経済関係の勉強を少しずつしています。

 「起業」というのは、「経済を動かすことに徒手空拳の状態から向き合った人たちの物語」でもあるのです。
 まあ、そんなに大仰な言い方をしなくても、「こういう本って、ハマる人はハマるから、食わず嫌いは勿体ないですよ」ということで。



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