このエントリ、僕も自分のいろんな古傷をえぐられるような気分で読みました。
この質問への鴻上さんの回答というのは、僕もあまりしっくりこなかったのですが、鴻上さんは原則的に「質問者に寄り添う、質問者を否定しない」というスタンスでこの相談をやっているからなのだろうな、とも思うんですよ。
そもそも、「不機嫌がコントロールできない」というのはけっこう幅が広くて、「ニコニコしていることができず、ついムスッとしてしまう」「愛想よくふるまえない」という軽度なものから、「キレて怒鳴り散らして、波がおさまったら『あれ、自分は何かしたっけ?』みたいな態度になる」というレベルまで、さまざまなのです。
僕がこれを読んで最初に思い出したのが、この本のことなんですよ。
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(ちなみにこれ、いま『Kindle Unlimited』の読み放題に入っています)
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普段からピリピリしている人で、「あいつには近寄らないほうがよさそうだ」という共通認識ができあがっていればいいのですが、「攻撃的な人」は、誰に対しても、その攻撃性を剥き出しにしているわけではないことも多いのです。
自分の近くにいる人の攻撃欲を見ぬくことはとても難しい。
「いやいや、化けの皮なんてすぐにはがれる」とお思いになるかもしれない。でも実際には、自分が攻撃を受けていることに気づかないままでいる人はとても多い。
他の人がターゲットになっている場合は、比較的簡単に見破ることができる。気づきにくいのは、自分自身がターゲットにされているケースである。先ほど紹介した女性の事例からもわかるように、自分が痛い目に遭うまでは、はっきり認識するのが難しく、時間がかかることが多いのだ。
しかも厄介なことに、攻撃欲のある人は、攻撃していることを周囲に気づかれないように隠蔽する達人であることが多い。先の女性も、「先輩は、私の憧れです」などという歯が浮くようなおべんちゃらを真に受け、安心して愚痴をこぼしたり、新しい企画について相談したりしていた結果、気づいたときにはもう手遅れだったわけである。
このように、相手を直接攻撃するわけではなく、遠回しに打ちのめそうというタイプから身を守ることは、なかなか難しい。そういう人は虚実とり混ぜて語るし、誠実そうにふるまっていたかと思うと突然計算高さをのぞかせる。こうした二面性もあるので、一体どういう人なのかわかりにくく、周囲がころっとだまされることになりやすい。
みんな、それなりに「自分は人を見る目がある」と思い込んでいるわけです。
そういう「攻撃欲のある人」の中には、特定のターゲットに対してのみ、その「攻撃性」を全開にするタイプの人もいます。
ターゲット以外の人には、穏やかで、礼儀正しそうに見えたりもするため、「あの人にそんなことされるなんて、お前のほうに落ち度があるんじゃないの?」なんて、周囲からはまともに取り合ってもらえず、かえって孤立を深めてしまうこともあります。
また、「特定の人にだけキレる」というのを「他人を支配する技術」として利用するタイプの人もいるのです。
これらの「攻撃的な人」「キレる人」の多くは、「本人には、自分がキレて他者に大きなストレスをかけている」という自覚が乏しいのです。
「ちょっと言い過ぎたけど、相手はあんなにひどいことをしたのだから、仕方がない」とか、「自分のほうが正しいのだから」ということで、本人には、「キレる自分を正当化する回路」ができあがってしまっている。
そういう意味では、冒頭の鴻上さんへの質問者は、「自分は感情のコントロールができていない」という自覚があるので、マシなほう、と言えるのかもしれません。
「特定の相手にだけ、極端なキレかたをする人」の存在は、そのターゲットにとっては、「ひどく打ちのめされ、周囲からも孤立させられがちになる」という、大変危険な存在なんですよね。
いろんな対処法が紹介されているのですが、縁を切れる人であれば、「物理的に距離を置く、接触しないようにする」のが一番です。
僕のいくつからの経験でも、彼ら、彼女らは「ときどき反省しているようなそぶりを見せるけれど、根本的には変わらない」のです。そして、ほとんどの場合、僕が距離を置くと、他のターゲットに攻撃を開始します。
特定の誰かが気に入らない、というよりは、何かを攻撃したい、という本能みたいなものがあって、攻撃しやすいターゲットに衝動的に反応する、という感じです。
肉食獣が空腹時にシマウマをみかけたらとびかかるのと一緒です(いや、おなかが空いていなくても、遊び半分でなぶりものにする、というのが近いかもしれない)
では、「身内」をターゲットにする人に対しては、どうすればいいのか?
これは、正直なところ、僕にもよくわからないのです。
大人どうしであれば、やっぱり「距離を置く」しかないのだと思う。
カウンセリングとか、傾聴というようなことを言う人もいるけれど、それが奏効するのは、本人に病識があって、治そう、という意思がある場合だけです。
大概の場合は、アルコール依存症と同じように「キレ依存症」になっていても、「今回はちょっと言い過ぎ、やりすぎたけれど、自分の意思で今後はコントロールできる」と信じつつ、同じことを繰り返します。
なるべく、避けろ。できれば、逃げろ。
それが、いまの僕の答えです。
ここまでは他人事のように書いてきましたが、正直に言うと、僕自身も「キレやすい自分」を、けっこう長い間もてあましているのです。
このエントリで、「追加注文が嫌いな料理人」の話をしているのですが、僕自身も、「予定にない突発的なアクシデントや、いつ、何が起こるかわからない状況」というのが、ずっとストレスだったんですよ。
当直で次々と救急車が来るたびに「もうダメだ……勘弁してくれ……」と泣きたい気分でした。
(でも、こういうのって、自分が特別なのか、大概の医者がみんなそうなのか、というのは、なかなかわからないですよね。「当直、急患大好き」なんていう人は、ほとんどいないのも事実だから)
そういう当直中のイライラとかひどい緊張感が年々ひどくなっていて、自分でも、このままでは、いつか、とんでもないことをやってしまうのではないか、と不安で仕方がなかったのです。
ここまで、「キレる」ということに対して、「そういう人たちは、もうしょうがない」というスタンスで書いてきたところがあるのですが、その僕自身も、発達障害的で、キレやすい大人でもある。
……それを認められるようになるまで、こういうことを、何十万字書き続けてきたことか。
そんななかで得たひとつの知見としては、「キレる人」というのは、ひとくくりにできるようなものではなくて、もともとの性格的に「他人を攻撃せずにはいられない人」もいれば、「自分が置かれている状況に対応しきれないと、スイッチが入って、パニックになってしまう人」もいる、ということなんですよ。
おそらく、この両者がミックスされたタイプもいるのだと思います。
これは、うまく状況に対応できずに、あるいは、うまくガス抜きをすることができずに、「キレてしまった」人の話なのですが、こういうタイプの「突然キレてしまう人」には、ある程度予防とか対応が可能なのです。
ごく簡単にいうと、「自分の状況をこまめに表出すること」と「自分を買いかぶらないこと」。
周囲からは「突然、キレた」ように見えるけれど、本人にとっては「ずっと水位がギリギリだったダムが、ついに決壊した」ものですし。
いま、僕自身は当直・救急なしの職場で、のんびり働いています。それでいて、そんなに給料が安くなった、というわけでもないのが、この業界の不思議なところでもあるのですが。
で、どうなったかというと、そういえば、当直や救急のプレッシャーにさらされていた頃に比べると、イライラして声を荒げるようなことはほとんどなくなったし、夜中に何度も目が覚めて、携帯電話を確認する、という習慣も消えてしまいました。
正直、まだバリバリに働いていたり、『白い巨塔』的なキャリアの頂点を極めようとしている同級生がいたりする中で、QOL重視にシフトしてしまった自分を恥ずかしい、と感じることもあるのです。でも、自分をラクにして、上機嫌でいられるようにする、というのは、世の中を変えるような仕事ができそうもない僕にとっては、周囲や世界への最低限の配慮なのだと思うことにしています。
いやほんと、人間の「性格」だと思われているものの多くは、環境や状況によって変わるんですよ。
どんなにキレやすい人でも、ハワイのビーチで寝ころびながらキレまくるのは難しい。
「変えられるものなら、環境を変える」ほうが「自分や相手の性格や考え方を変える」よりも、ずっと、うまくいく可能性は高いのではなかろうか。
前半に書いた「他人を攻撃せずにはいられない人」も、環境を変えれば、別人になりうるのかもしれません。
最大の問題点は、「彼ら、彼女らは、それが深刻な問題であると本人は感じていない」ことにあるのだとしても。
あと、小さな工夫ではありますが、「スマートフォンに自分の子ども(子どもでなくても、自分の大事な人や大好きなキャラクターでも良いです)の写真を表示しておいて、イラっとしたときにはそれを見る」というのを僕はやっています。これは、僕が子ども思いの立派な人間だから、というわけではなくて、「子どもの写真をみたらクールダウンする」という条件付けを自分に行い続けているのです。
年を重ねると、いろいろ枯れるのだろうと予想していたけれど、自分を飼いならすのは、いくつになっても大変です。
まあでも、正直なところ、「たまにキレることがあるくらいのほうが、自分に負荷をかけすぎず、うまくいくこともあるのかな」という気も、ときどきします(しかるべきときに、ごくたまに、ならね)。
最後に『怒る』ことについて、僕がこれまで読んできたなかで、いちばん参考になった本を紹介しておきます。
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この本、「キレそうになる自分」に不安な人は、ぜひ読んでみていただきたい。僕にはとても参考になりました。
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