いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

好漢・バリントンとの早すぎる別れ

 朝起きて、スマーフォンでネットをみていたら、「広島・バリントンの退団が決定」とのニュースに悶絶。
 いや、またどうせ憶測記事かなんかだろう、と思っていたのだが、有力スポーツ誌や時事通信までが報じていて、万事休す。
 ああ、先日、「バリントンに現状維持のオファー」というのを聞いたときには、カープのフロントも、ああみえて、けっこうわかってるじゃないか、と嬉しくなったのだが、新外国人・左腕のクリス・ジョンソン投手との契約が成立したことにより、バリントンへのオファーは取り下げられたとのこと。
 最初は、バリントンのほうから断られたのなら、しょうがないよなあ、他球団からもっと良い条件提示があったのかなあ、と諦めていたのだが、カープの側からの「お断り」だったとは……
 クリス・ジョンソンは良い投手なのだろうし、そうじゃないと困るのだが、バリントンがこの4年間にカープに、広島の街に示してくれた愛着と、中4日で、援護がなくても(ときどきイライラしたりしながらも)投げ続ける姿を思うと、こんな形で退団してしまうのは、あまりにも悲しすぎる。
 そもそも、外国人投手で、10勝をコンスタントに続けられるピッチャーは、そうそういるものじゃない。
 メジャーリーグだって良い投手が欲しくて日本にスカウトを送り込んできているくらいなのだから、良い投手はメジャーに戻ったり、日本の金満球団に引き抜かれたりするものだ。
 にもかかわらず、バリントンは、給料が安く、仕事がきついカープに、4年間も在籍してくれた。
 カープにやってきた最初の年に大活躍したバリントン
 スポーツ紙では、日本の金満他球団からの引き抜きの噂が絶えなかった。
 僕も内心、「マネーゲームになって、どこか他のチームに行ってしまうんじゃないかな……」と思っていた。
 カープの外国人は、活躍しなければクビだし、活躍しすぎてもどこか「もっと条件の良いところ」に行ってしまうのが常だから。
 カープでの最初の年の終わり、バリントンは、去就について問われて、こんなふうに答えていた。
カープが私を必要としてくれているように、私もカープを必要としているんだ」


 巷で言われているカープの契約では、おそらく、初年度のオフに日本の他球団への移籍はできなかったと思われる。
 だが、メジャーに戻る選択肢はあったし、その誘いもあったそうだ。
 年俸でゴネまくれば、日本の他球団へ行くことだって、不可能ではなかったかもしれない。
 だが、バリントンは、そうしなかった。


 メジャーリーグのドラフト1位、しかも、全体のなかで最初に指名された(メジャーリーグのドラフトは、完全ウェーバー制)バリントンだったが、メジャーではなかなか確固たる地位を築けず、メジャーとマイナーと行ったり来たりの生活だったそうだ。
 メジャーリーガーでさえ、シーズン中は移動で大変なのに、アメリカでは、メジャーとマイナーのそれぞれのチームの本拠地が違うことが多い。ボーダーラインの選手は、移籍も多い。
 日本人選手でも、田口壮選手が、そういう「エレベーター生活」の厳しさを本に書いていた。
 度重なる引っ越しで、一ヵ所で家族と落ち着いた時間を過ごせなかったのも、バリントンが日本への移籍を選んだ理由のひとつだったそうだ。


 バリントンは、いや、バリントン一家は、異国の地方都市である広島での生活を本当にエンジョイしていた。
 試合に応援にかけつけた家族を、お立ち台の上から誇らしげに見つめるバリントン
 広島の街を自転車で移動し、ファンに声をかけられると、気さくに接してくれたそうだ。
 

 2年前、大きく負け越しても、カープとしては珍しい2年契約を結んだのも、バリントンという人が、いかに信頼されていたかの証だろう。
バリントンなら、複数年契約でも、怠けることはないから」

 
 今年のバリントンは、前半戦はチーム全体の好調もあり、勝ち星を重ねていたが、序盤に打ち込まれたり、一気に大量失点する場面が多くなってきてはいた。
 今年の成績は、9勝8敗、防御率4.58。
 これまでの3年間、2.4、3.2、3.2だった防御率は、大きく下がってしまった。
 今シーズンの終わりに、バリントンは怪我をして、1軍から外れることになった。
 その間、新外国人のヒース投手が活躍し、存在感を見せた。
 ただし、CS前にフェニックス・リーグではバリントンは好投し、順調な回復ぶりをみせている。
 

 カープ球団としても、バリントンのこれまでの実績と安定感、カープファンからの信頼などと、成績の悪化や怪我などと天秤にかけて、悩んだのだとは思う。
 とりあえず、現状維持(推定年俸は1億3000万円)で、一度残留オファーを出してもいる。
 だが、結果的に、バリントンは「切られて」しまうことになった。
 正直、「劣化」してきているように、僕にも見えてはいた。
 とはいえ、1年に10勝できるピッチャーなんて、そんなにはいないのだ。
 外国人投手がみんなバリントンメッセンジャーなわけがなく、鳴り物入りの元メジャーリーガーが、数試合投げただけで「野球の質が違う」とかなんとかゴネて帰国していくケースを、僕はずっと見続けてきた。
 そして、何よりも、こんなにカープを、広島の街を愛してくれていた外国人選手を、チームが苦しいときに「私もカープを必要としている」と言って、年俸を過度につり上げることもなく残ってくれたピッチャーを、こういうふうに「切って」しまうのは、あまりにもせつない。
 わかっている、これは僕の勝手な思い込みであり、感情論だ。


 だが、リハビリ中にもかかわらず、土砂災害の被害にあった地域を訪問し、犠牲になった女の子が自分のファンだったと聞き、自筆の色紙を託した優しい男と、こんなふうに別れるのは、あまりにもつらい。
 プロ野球は「ビジネス」だと言うのだろう。
 それはそうなのかもしれない。
 バリントンの成績がどうしようもなければ、僕だって諦めがつく。
 バリントンの側から、「もっと良い条件で働きたいから」と言うのであれば、それも仕方がない。
 でも、なんでこんな形になってしまったのだろうか。
 再契約を期待していただけに、つらすぎる。


 「引退したら、カープでピッチングコーチをやりたい」と冗談めかしながら、チームへの愛着を語っていたバリントン
 もう、カープのユニフォーム姿は見られないのかと思うと、本当に寂しい。


 だが、もし来年ジョンソンが大活躍したら、諸手をあげて球団の「決断」を支持する自分がいそうで、そんな想像をするのもまた、とても気が滅入る。


 どんな素晴らしい選手にだって、人生にだって、「終わり」はある。
 こうして、良い思い出だけを残して別れるのも、悪くはないのかもしれない。

 
 ああ、でも、来年バリントンがヤクルトのユニフォームを着てマツダスタジアムのマウンドに上ったら、どんな顔をして観れば、いいんだろうなあ。
 4年間、ありがとう、と言ってしまえるほど、僕はまだ、この退団を割り切れていない。
 
 それでも、バリントンには、これからも幸せでいてほしい。
 これもまた、僕の勝手なお願いなんだけど。 


参考リンク:ローレン・バリントンさんから、カープファンへのメッセージ

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