いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

Webの世界での「先行者利益」について

hatebu.me


マストドン』かなり話題になっていますね。
最初に名前を聞いたときには「恐竜?」とか思ったのですが、正直、もう新しいWEBサービスを使いこなす時間もなく、これ以上いろんなところに書いても、ただでさえ薄い内容がさらに薄っぺらくなっていくだけなので、とりあえず様子見、という感じです。
マストドン』について、ざっと知りたい方は、とりあえずこのリンク先を読んでみてください。
というか、僕も未だによくわかっていないんですが、とりあえず少しわかったような気分にはなります。


news.yahoo.co.jp


ツイッターの亜種みたいなものなのか、というのと、『マストドン』というのは、ツイッターであまりにもたくさんの人、多くの事物をフォローしすぎて(さりとて、人間関係もあってそう簡単にはフォロー外しもできなくて)、タイムラインが追えなくなったり、あまりにも内容があちらこちらに飛んでしまう人たちへの「整理整頓」に役立つのかな、というのと。
僕なんかその典型ですよね。
あまりにもいろんなところにつながりすぎてしまって、無難なことしか言えなくなっている、あるいは、宣伝のツールになってしまっているという「Twitterフェイスブック化」が顕著なのです。
まあ、ヘイトスピーチを濫発したり、有名人に因縁つけまくったりしているだけのアカウントも困ったものですが。


fujipon.hatenablog.com


これは3年半くらい前に書いたものなのですが、Twitterのシステムが古くなったというわけではないと思うんですよ。

さまざまな機会に、意識的、あるいは無意識的に、僕たちは人間関係をリセットし、大事な友人だけを再インストールしているのだ。
そうしないと、すぐにメモリがいっぱいになってしまう。
だいたい、ごく一部の「生涯の友人」「家族」を除けば、「人生のステージ別に、必要な友人は異なる」ものだし。


端的に言ってしまうと、mixiが衰退したのは、サービス内容が問題になったわけではなくて、必要不可欠でもなく、大事にしたいと思うわけでもない相手との付き合いを、そろそろリセットしたい、と多くの人が考えているからではないかと僕は思う。


 Twitterも、そろそろ「断捨離」のタイミングになってきたのだけれど、Twitterで「フォロー切り」をするのは難しい。でも、これからは『マストドン』メインにします、ということであれば、穏便に「フォローしている人、されている人の整理」ができる。
 ただ、マストドンそのものには、僕は現時点ではあまり惹かれませんでした。
 みんながやるようになったら、やればいいか。


 ……そこで、冒頭のエントリの話になるわけです。
 冒頭のエントリのタイトルは『気になるサービスを「今度使ってみよう」と思う人はWeb系のお仕事は向いてない』なのですが、僕が20年近くインターネットに生息してきて痛感するのは、「Web系のお仕事じゃなくても、ネットで多くの人に読んでもらいたい、フォローしてもらいたいというのであれば、新しいサービスには積極的に参入するべきだ」ということなのです。
 なぜかというと、新しいコミュニティでは(これはネットとは限りませんが)、参加者は、とにかく知り合いや友達をつくりたいと考えがちなので、フォローする、されるハードルが下がりやすいんですよ。


 Twitterをはじめたときのことを思い出してみてください。
 そんなに趣味が合わなくても、ちょっと気になった人をどんどんフォローしたり、「おすすめ」されたアカウントを片っ端からフォローしたりしていませんでしたか?
 Facebookでも、そんなに仲良くないけど、面識はあるくらいの人に「とにかく友達を増やそう」と、友達申請していませんでしたか?
 で、慣れてくると、「ああ、あの人も見てるのか……」と呟くのがめんどくさくなったり、毒にも薬にもならないはずだった人が、やたらと絡んできて、「なんで友達にしちゃったんだろうなあ……」なんて嘆いたりすることになるのです。
 

 この『いつか電池がきれるまで』って、僕自身にとって予想外の数、読者登録していただいているのですが、こんなどこの馬の骨かわからないオッサンのくだらない文章ばかりのブログがそうしてもらえているのは、ひとえに、このブログが『はてなブログ』の初期から運営されているからなのです。
 『はてなブログ』黎明期の、まだ全体の数が少ない時期に「せっかくだから、何か読者登録したいな」という人たちが、登録してくださっただけなんですよ。
 ほら、新しいゲーム機を買ったら、とりあえず何かゲームソフトを買いたくなるじゃないですか。『ゼルダの伝説・ブレスオブワイルド』は素晴らしいゲーム(みたい)ですけど、せっかくハードを買ったんだから、もう1本くらい、とか。人は、新しいものに接すると、舞い上がって、受け入れるハードルが下がってしまう。
 残念ながら、『ニンテンドースイッチ』の現時点でのハード1台あたりのソフト購入数は、日本では1.5本くらいだそうで、『とりあえずゼルダ……うーん、あと1本……しかしこのラインナップでは……ディスガイア? あっ、マリオカート!(ただしWiiU版の焼き直しっぽい)みたいな感じみたいですけど。


 あと、読者登録数の話でいうと、そういうランキングみたいなもので上位に入っていると、それだけで目立つ機会が多くなります。


fujipon.hatenadiary.com


「ベストセラーになるための近道は、まず、売れるということ」「売れていることをアピールすること」なのです。
 なんだかとても矛盾した話のようなのですが、著者は「出版が産業へと移行していくきっかけ」として、『アンクル・トムの小屋』の事例を挙げています。

 1852年3月27日、本が出版されてからたった一週間後のこと、ジューエットはまず新聞雑誌に以下のような広告を掲載する。「ビーチャー・ストウ女史の筆になる奴隷性反対の傑作小説は奪い合いとなっております! 5000人がもう購入済み!」その二週間後、この最初の広告の商業的成果に大満足したジューエットは、奮発して「ノートンズ・リテラリー・ガゼット」紙の欄を一段の半分買い取り、そこに未曾有の成果を大文字で喧伝している。「1万部完売! 二週間で1万部が売れたのですから、どれほどすさまじい人気なのかはおわかりでしょう。製紙機が3台、印刷機が3台、昼夜を問わず稼働し、百人を超える製本職人が休みなしに働いていますが、それでも注文すべてに応じるには至りません!」
 途方もなく売れているということ。それが印刷技術にまつわる細部まで説明されることでさらに信憑性を増し、自分たちが目にしているのは例外的な事件なのだということを読者に知らしめる。『アンクル・トムの小屋』を一冊手に入れて、あなたもこの事件に立ち会ってみたらどうですか、という呼びかけとなっているのである。
 ジューエットはさらに追い打ちをかけてゆく。6月15日になると、もはや一段の半分だけでなく、「ノートンズ・ガゼット」の一ページをまるごと買い取って、「アメリカの書籍販売の歴史に前例のない売り上げ」、つまり8週間で5万部が売れたということを宣伝するのである。


(中略)


 全体として見れば、こういった数字はすべて疑わしいものであり、大いに水増しされたものでしかあり得ない。おそらく、『アンクル・トムの小屋』が、アメリカでもヨーロッパでも途方もないヒット作であったということは、間違いないだろう。しかし、これまで挙げた発行人たちが、よりたくさん売ろうとして調子に乗って喧伝したような莫大なものではなかっただろうし、奴隷性反対の闘士たちがその後ばか正直に語り継いだような驚異的なものでもなかったはずだ。というわけで、販売部数三十万部の大台は、アメリカでは1858年になってから、すなわちこの小説の出版から6年後になって、ようやく達成されることになる。またこれは、あの天才的なジョン・ジューエットが三十万部売れたと派手にふれまわってから、じつに5年後のことである。


 芥川賞を獲った又吉直樹さんの『火花』は、200万部をこえる大ベストセラーになっているのですが、『火花』の広告にも「○○万部突破!」というのが、大きく書かれていました。
 どんな宣伝文句よりも、「いま、これが売れている本です! すでにこんなにたくさん売れて、みんな読んでますよ!」というのは、「効果的」なのです。
 もちろん、『火花』の数字は水増しされていないでしょうけど、アメリカで「奴隷解放運動の大きなきっかけになった本」として知られる『アンクル・トムの小屋』の時代から、「○○部突破商法」は存在していたことになります。
 いまの書店で、売れている本が平積みにされているコーナーみれば、一目瞭然。
 「○○万部突破!」「もうすでに×刷!」
 これがオビにいちばん大きく書いてある「ベストセラー」の、なんと多いことか!


 「早くはじめて先行者利益で頭ひとつ抜け出し、それをアピールしてさらに注目を集める」
 これが「王道」なんですよね。
 もちろん、100%うまくいくわけじゃないけれど、最も成功を期待できる方法のひとつであることは間違いありません。
 

 政治の世界で「面白そうな政策だからとりあえずやってみる」とか、医療で「新しい薬だから、誰かに使ってみる」とかいうのは他者や多くの人に悪い影響を与える可能性があるので許されませんが、個人が新しいWebサービスを試してみる、というのには、そんなに大きなリスクはありません(もちろん、あまりにも変なことを発信しなければ、ですよ)。
 もし、そのサービスのなかで「デカい顔」をしたければ、とにかく早く参入するというのは、芸能人でも有名人でもない存在にとっては、数少ない有効な戦略なのです。
 いやほんと、サービス初期であれば、「フォローしてもらえるハードル」は、低くなるから。
 逆に、何年か使い続けていると、フォロワーを増やそうと思う機会も少なくなりますよね。これ以上増やしても、タイムラインを追いきれないしなあ、なんて考えてしまう。
 そして、Twitterでフォローしている人のなかで、「本当に読みたい人」を別のリストにしてしまったりする。


 というわけで、『マストドン』で一旗揚げようと思っている人は(まあ、こういうのは『マストドン』に限らないのだけれど)、とにかく早く登録して使ってみたほうが良いと思います。
 先行者利益って、Webの世界では、本当に大きいから。


 『マストドン』がそんなに流行らなかったらどうするんだ!
 そうお考えの皆様もたくさんいらっしゃると思います。
 僕も正直、そんなに流行るとは予想していません。ちょっとややこしいサービスだし、実感として、ツイッターでさえ「めんどくさい人」が多いなかで、『マストドン』には、「さらにめんどくさい人」が集まっている印象もあるので、少なくともツイッター以上には流行ることはなさそうです。
 でも、こういうのって、株や馬券を買うわけではないので、「失敗しても、たいして痛くないし、当たればデカい」という感じで良いのではないかな。


 現に、僕もいろいろ新しいサービスに登録しては、飽きたり、ほとんどみてもらえなかったりで、挫折を繰り返しています。
 ブロマガとかnoteとかその他のブログサービスとか……
 とりあえずスイングしてみて、運良く当たったら儲けもの、そこを深く掘ってみる、そのくらいのつもりで試してみたほうが良いのではなかろうか。


 そもそも、『琥珀色の戯言』って、その前にやっていた『いやしのつえ』っていうホームページに書けなかったことを書くブログとして誕生し、この『いつか電池がきれるまで』は、その『琥珀色の戯言』の裏ブログだったのです。
 というか、『はてなブログ』に移ってきてからの『琥珀色の戯言』は、現状、あまり読まれていないんですよね。Googleの検索基準の影響なのか、書く側のマンネリ感みたいなものが、伝わって飽きられているのか……


fujipon.hatenadiary.com
twitter.com


 というわけで、ゴールデンウイーク中だし、今日はみんな京都競馬場に出かけているだろうから、露骨に宣伝しておきますね。


 本当に面白いものは、どんな時代でも突き抜けることができるのだろうけど(『はてなブログ』のなかには、実際にそういうブログもありますし)、先行者利益に恵まれた感満載のブログを書いている人間としては、「もっと流行ったら、一般的になったら、やろう」と思っているのなら、なるべく早く新しいサービスに乗っかってみたほうがいいですよ、とおすすめしておきます。
 

 ただ、こんな話を長々として、最後に言うのもなんですが、そもそも、「無名の人間が、ネットで一旗揚げる」ということそのものが、すでに「新しい発想ではなくなっている」のも事実なんですよね。ネットでの「ライフスタイルネズミ講」とか、もう、新しい生き方でもなんでもない。
 いまや「ネット発の書籍」が大ヒットするのは、カープのルーキー・加藤投手が無四球完封するくらい難しい。
(ただし、「ヒットさせるためにネットから仕掛ける書籍」はけっこうあります)。
 いまのインターネットは、「何かを発掘する」よりは、「すでに知られているものを、より多くの人に広めるためのツール」になっているのです。


 とりとめのない話を書いてしまいましたが、あなたがこんなつまらなくて長いな文章を読んでしまったのも「先行者利益」に乗せられてしまったからなんですよ。
 というか、なんでこんなエントリを書いてしまったのか。
 春だから、かねえ。


これがマストドンだ!  使い方からインスタンスの作り方まで (NextPublishing)

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ベストセラーの世界史 (ヒストリカル・スタディーズ)

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