いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

セブンイレブンの窓際から、雑誌が消える。

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 コンビニエンスストアの雄・セブンイレブンが一日あたりの売り上げをさらにアップすることを目指して、店舗レイアウトを全面的に新しくすることにした、という記事です。
 僕にとっていちばんインパクトが強かったのは、この部分でした。

 つまり、店の壁面は、レジカウンターとイートインを除けば、食料品・飲料品で埋め尽くされており、さながら食品スーパーのようなのだ。その一方で、窓際一面にあった雑誌・書籍コーナーは、店中央にある小型の棚に移され、その規模もかなり縮小されていた。


 コンビニというものを僕がはじめて知ってから30年くらいなのですが、その頃からの「定番レイアウト」だった、「窓際の雑誌・書籍コーナー」が、店の中央部に移され、規模も縮小されることになりそうです。
 店の外から立ち読みしている人が見えるから、防犯効果も狙っているのだ、というような話も聞いたことがあるのですが、それに頼らなくても、セキュリティは確保できている、ということなのでしょうね。
 そもそも、あれが本当に防犯になっていたか、というのも、よくわからないところがありましたし。


 お菓子や日用品などはあまり買わない僕は、コンビニの外壁に沿って、雑誌売り場から飲みもの売り場、弁当・総菜売り場を巡ってレジへ、というパターンが多かったんですよね。
 雑誌は、20年前ほど読まなく、買わなくなったけれど、それでも、表紙くらいはひととおり眺めていました。
 そして、20年前には隙間なく並べられていた書棚の雑誌が、最近はどんどん減ってきていて、隙間が目立つコンビニが多いことも感じていたのです。
 出版不況、雑誌が売れない、というのもさんざん耳にしてきたので、今回のレイアウト変更も、驚いた、とか、それはないだろう、というより、「ああ、ついに『その時』が来たのだな」と。


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 大変ありがたい記事で、これを読むだけで「コンビニにおける出版物の現在のポジション」の概略がわかります。
 2001年のコンビニ1店舗あたりの出版物売上高が1200万円あまりだったのが、2015年は、335万円。
 4分の1近くにまで落ち込んでいるのです。
 また、コンビニの総売り上げのなかの出版物の比率は、2001年が7%くらいだったのが、2015年は、1.8%。
 昔より売れてなさそうだし、書棚も、いつのまにかスカスカになったよなあ、なんて思ってはいたし、僕自身もコンビニで雑誌を買う機会は激減しているのですが、それにしても、こうして具体的な数字を出されると「そんなに売れなくなっていたのか……」と驚いてしまいます。



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 以前、といっても10年前になってしまうのですが、こんな本を読みました。
fujipon.hatenadiary.com

 この本のなかで、著者は「コンビニで売ってもらえるかどうか」が、エロ漫画雑誌にとっての死活問題であることを何度も語っておられます。
 子どもも大勢やってくるコンビニでの「成人向け図書」のありかたを問題視する声はずっとあって、その一方で、客側にもそれなりのニーズはあったのです。
 それも、インターネットの普及でどんどん売れなくなってはきたみたいですが、ネットで買い物をする、とか、ネットで動画をみる、というのは、ネットに親しんでこなかった高齢者にとっては、ネチュラル・ボーン・ネット世代に比べると、敷居が高い。


 2006年の『文学賞メッタ斬り!リターンズ』という本のなかで、島田雅彦さんが、こんなことを仰っておられます。

 あと知ってますか、集英社の<<週刊プレイボーイ>>って読者の年齢が低いように思うでしょう? じつは結構高くて、40近いんですよ。その証拠に、45の僕が定期購読してますから(笑)、年齢上げちゃってるんだけど。でも他の週刊誌も<<週刊現代>>とか<<週刊ポスト>>とか、軒並み読者の平均年齢高いですよ。一番高いのが<<週刊文春>>だそうです。


 『週刊プレイボーイ』って、20歳前後くらいの若い男が、他の雑誌の下に隠してレジに持っていく雑誌なんじゃない?と思っていたのですが、電子書籍がほとんど普及していなかった10年前でも、読者の年齢層はこのくらいだったのです。
 スマートフォンタブレット端末じゃないと、雑誌のグラビアを堪能するのは難しいでしょうし。
 「紙の本や雑誌を読む習慣」を長年続けてきた人にとっては、そう簡単に「じゃあ電子書籍に」とはならない。


ddnavi.com
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 「物心ついたときからネットがあった人たち」のなかで、わざわざコンビニで雑誌を買う人は少ないはずです。
 『週刊少年ジャンプ』や『マガジン』は、読みやすさと値段の安さから、紙媒体がまだまだ主流のようですが(購買層に、自分のクレジットカードを持っていない学生が多いというのもあるし)、いわゆる「総合週刊誌」は、かなり淘汰されてきています。
 『文春砲』でおなじみの『週刊文春』のスクープ記事も、ネットでだいたいのところはわかるので、わざわざ『週刊文春』を手にとって読む、という人はそんなに多くはないはず。
 それでも、ネットやテレビのワイドショーで仕掛けないと話題にならない、というジレンマもある。
 既成のメディアはダメだ、ネットのほうが即時性にすぐれているし、便利だし無料、と言う人もいるけれど、結局のところ、ネットでのニュースや情報を支えているのは、これらの既成のメディアが取材した記事ではあるんですよね。
 一般人が「自由な立場で」発信しているはずなのに、「ただ、モノを売って儲けたい」というだけの記事が氾濫しているのをみると、マスメディア云々じゃなくて、お金が絡むと、人間というのはこうなってしまうのかな、と。


 脱線してしまいましたが、僕がコンビニに通い始めた30年くらい前、コンビニでよく買っていたのは、『週刊少年ジャンプ』『マガジン』、『ファミ通』『週刊アスキー』、そして、『シティ情報ふくおか』『競馬ブック』などです。コンビニ向けの総集編漫画で、『美味しんぼ』とか『北斗の拳』もよく読んだなあ。
 比較的ラクだと思われる当直の前には、パチンコ雑誌を持っていって読むのが楽しみでした。
 まだ田山幸憲さんが存命で、『パチプロ日記』を連載されていた頃ですね。
 当時は、『週刊現代』が仕掛けたヘアヌード・ブームがあって、雑誌がけっこう元気な時代ではありました。
 あの頃は、なんであんなに雑誌を隅々まで読む時間があったのだろう、と今となっては不思議な気がします。
 

 『シティ情報ふくおか』は、福岡文化圏内では情報誌としてかなり人気があって、流行の店を知ったり、コンサート・舞台の情報や先行予約を利用したりしていました。
 その後、『九州ウォーカー』が参入してきて、どちらが勝つか(個人的には、宣伝が多い『九州ウォーカー』よりも、『シティ情報』のほうが好みだったのですが)、と言っているうちに、ネットの普及で「情報誌」は、あっという間に下火になっていきました。
 コンサート情報も地元の店も、ネットで検索できる。
 もう、『ジャンプ』『マガジン』はだいぶ前に読まなくなったし、『週刊アスキー』は電子版だけになってしまったし、『ファミ通』も買わなくなって、かなり経ちます。
 そういえば、スポーツ新聞も買わなくなったなあ。
 これは雑誌の質云々じゃなくて、僕がそういう世代ではなくなったというのもあるのでしょうけど。


 『週刊朝日』や『週刊文春』も主な記事はYahoo!ニュースで採りあげられています。
 以前はちゃんと取材した記事や面白い対談はネットでは読めないことが多かったのですが、最近はむしろ、ネットに「面白い記事」を優先して出しているのではないか、という気がします。
 雑誌という媒体では、どうしても「その雑誌の読者を想定して」記事にしなければならなかったものが、ネットで配信することによって、よりニッチなところを狙っても、それなりの評価をしてもらえるようになったんですよね、きっと。
 『週刊文春』の記事であれば、50万人の想定読者のなかの10万人を喜ばせなければならない。
 でも、ネット向けなら、5000万人のアクティブネットユーザーのなかの100万人を目指せばいい。
 もちろん、こんな簡単な話ではないのだろうけど。


 現状では、ネットで読まれてもあまり儲からない。それでも、ネットで露出しないと読んでさえもらえない。
 ネットでは記事単位で読まれることがほとんどなので、雑誌全体のカラーを統一してみせることも難しくなりました。
 雑誌一冊隅々まで読むような時間はないな、というのも実感ですし。
 
 
 この『セブンイレブンの店舗レイアウト変更』で、『ジャンプ』や『マガジン』や『週刊文春』が存続危機に陥る、ということはないと思いますが、これまでもどんどん売り場が縮小されてきた「成人向け」や「ギャンブル雑誌」や「ゲーム雑誌」「地元の情報誌」「旅行雑誌」などは、止めをさされるところが多いのではないかと予想しています。
 売れないのだから、クレームの対象になりやすい「成人向け雑誌」とかは、もう取り扱うのをやめてしまおう、という店も多いのではなかろうか。


 通勤・通学の経路にちょっと寄れる書店があるような都会暮らしの人にはあまり関係ないかもしれませんが、地方都市では、「車を運転してショッピングモールに行って、混雑する駐車場に停めてだいぶ歩いて紀伊國屋」か「TSUTAYA」か「コンビニ」しか本や雑誌を買う選択肢がない、というのも珍しくないんですよ。
 コンビニでなんとなく買っていた雑誌が売られなくなったら、わざわざ紀伊國屋TSUTAYAまで行くか、と問われたら、「もう読まなくていいや、どうせ、そろそろやめようと思っていたし」って言う人も多いはず。
 でも、実際に「売れなくなっている」のだから、どうしようもないですよねこれは。
 むしろ、売り上げの2%弱になるまで、あんな目立つ場所に雑誌を置き続けていたセブンイレブンは、良心的な書店だったのかもしれません。
 
 
 しかし、もう「時間の問題」であったとはいえ、長年コンビニで雑誌を眺めてきた人間としては、けっこう寂しいものですね。
 中身は読まなくても、どんな雑誌が多く並んでいるか、とか、週刊誌の表紙に書かれているトップ記事のキャッチコピーを見るだけでも、「時代の流れがわかる気がしていた」のだよなあ。


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コンビニ店長の残酷日記(小学館新書)

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「週刊文春」編集長の仕事術

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