これと似たようなことを僕もやっているなあ、と思いながら読みました。
僕の場合は、2時間の映画のDVDだったら、1日1時間で2日間に分けて、ということが多いです。ただ、それ以上細かく「分ける」ことは無いかな。
正直、平日の夜に2時間映画を観る時間を確保するのは難しい。
いろんなことがひとまず片づいて、寝る前に何か、とは思うのですが、映画を最初から最後まで観るというのは、けっこうハードルが高いんですよね。
「半分だけ」のつもりで、続きが気になって最後まで観てしまうことも、もちろんあるんですけど。
映画館に行くのは、「映画館に行くと、映画を2時間集中して観るしかない環境にいることができるから」でもあるんですよね。
家でDVDを観ていると、途中でなんらかの用事ができたり、スマホを確認したりしてしまいます。
逆に「半分ずつ観ればいいや」と思えるようになってから、家で映画のDVDを観る頻度は以前より高くなりました。
fujipon.hatenablog.com
3年くらい前に書いたものなのですが、20代くらいまでは、「上映時間150分」と書いてあると、「おお、これは気合の入った大作だな、楽しみ」であり、「100分」とかをみると、「ああ、なんか手抜きしながらなんとか一丁上がり、みたいなアクション映画なのかな」とか考えていたんですよね。
でも、最近は「140分越え」を映画館で観るのは、けっこう覚悟が要ります。長いなあ、って。
トイレとか、心配にもなるし。
そもそも、映画館で観ていても「時計が気になる」ので、家でみていたら、なかなか集中を持続するのは難しいのです。
fujipon.hatenablog.com
ちょうどこのエントリにも、冒頭の人と同じようなことを書いています。
僕は最近家で映画のDVDを観るときには、2時間の作品なら、「1時間×2日間」みたいに分けて観ることが多いんですよね。
2時間集中力が続かないし、家だとなおさら、途中でスマートフォンや読みかけの本が気になってしまうのです。
こんな感じだからこそ、あえて「集中しなければいけない映画館」に行くというのもあるわけで。
レンタルDVDを借りてきても、「いつでも観られる」と油断してしまって、結局1週間観ないまま返却日、なんてことも少なくありません。
映画って、本来は「2時間くらい通してみるもの」としてつくられていると思うんですよね。
ただ、最近は「テレビドラマの映画化」とか、「低予算でつくられて、DVD販売まで含めて回収する映画」も多いので、「テレビのスペシャル番組」と「映画」の境界はそんなに無いのかもしれません。
そして、スマートフォンの普及もあって、みんな時間を細切れに、効率的に使う傾向があって、前置きが長かったり、最初は落ち着いていて、少しずつ盛り上がっていったり、という作品は観るのがめんどくさく思われがちな気がします。
こういったことを何度か繰り返してふと考えついたのが、「通勤中にiPodで見る動画コンテンツに最適な尺はおよそ90秒」だということです。私自身の体験から得た仮説でしたが、のちにYouTubeや視聴時間の解析などからも裏打ちされ、定説となりました。
ただ最近では、テレビ代わりにYouTubeを見ている若年視聴者も増えており、90秒では物足りないらしく、「どうしてこんなに短いんですか?」と聞かれることもあります。
当然のことながら、単純に時間を90秒程度に収めるだけでは見てもらえません。90分の長編映画なら最初の10分で観客を引き込まなければいけないというセオリーがあります。いわゆる「つかみ」です。これが90秒のYouTube動画の場合だと最初の10秒が勝負。動画の冒頭、アバンタイトル(オープニング前に流れるシーンのこと)の段階で、ちらっとオチを匂わせるくらいの勢いが必要です。
では、90秒を超える尺ではいけないかというと、そんなことはありません。90秒で視聴者が離脱するということであれば、60秒から90秒にかけて起承転結の「転」をあてて、その後が気になるような構成で回避することも可能です。長編映画にしろテレビドラマにしろ、飽きずに最後まで注目できる作品は、それぞれのシーンや話の区切りのなかで山場がちゃんとあるものです。
たしかに、人気があるyouTubeの動画って、前置き無しでけっこう唐突に本編が始まる感じのものが多いので、この「10秒ルール」を意識しているのだと思われます。
映画でも「最初の10分が勝負」なんですね。
ただし、そういう傾向は、「最初から大騒ぎで、騒ぎっぱなしのまま2時間経ってしまう映画」みたいなものの増加を生んでいます。
アクション映画とか、「全編アクション」みたいなのが多くて、それはそれで、メリハリがないような気もするんですよね。
観客って、贅沢だよなあ。
このなかで、村上春樹さんが川上未映子さんにこんな話をされています。
村上:どうして読者がついてきてくれるかわかりますか?
——それは?
村上:それはね、僕が小説を書き、読者がそれを読んでくれる。それが今のところ、信用取引として成り立っているからです。これまで僕が四十年近く小説を書いてきて、決して読者を悪いようにはしなかったから。
——「ほら、悪いようにはしなかっただろう?」と。
村上:そう。つまり「これはブラックボックスで、中身がよく見えなくて、モワモワしてて変なものですけど、実は一生懸命時間をかけて、丹精込めて僕が書いたものです。決して変なものではありませんから、どうかこのまま受け取ってください」って僕が言ったら、「はい、わかりました」と受け取ってくれる人が世の中にある程度の数いて、もちろん「なんじゃこら」と言って放り出す人もいるだろうけど、そうじゃない人たちもある程度いる。そうやって小説が成立しているわけです。それはもう信用取引以外の何ものでもない。つまるところ、小説家にとって必要なのは、そういう「お願いしまう」「わかりました」の信頼関係なんですよ。この人は悪いことしないだろう、変なこともしないだろうという、そういう信頼する心があればこそ、本も買ってくれる。「どや、悪いようにはせんかったやろ?」と関西弁でいうとちょっと生々しくなるけど(笑)。
——それはいわゆる「この本を読んだら感動できる」とか「泣ける」といった、共感を約束するものではないじゃないですか。
村上:全然。
——まったく違いますよね。
村上:うん。感動なんかできない。泣けもしない。むしろ、なんだかワケがわかんなくなるかもしれない。
僕は『ドラゴンクエスト』の新作をやるたびに「あれ、『ドラクエ』の最初のほうって、こんなにかったるいものだったっけ?」って思うんですよ。
でも、そこで「『ドラクエ』だから、大丈夫だろう」と遊んでいるうちに、馴染んできて、面白くなってくる。まあ、途中までやったら、クリアしないとなんかもったいない、というのもありますし。
ブランドとか続編ものというのは、「そのおかげで、観客が少しだけ辛抱強くなってくれる」というメリットがありそうです。
ちなみに、こんな「映画の観かた」をしている人もいるのです。
fujipon.hatenadiary.com
ヌーベルバーグの旗手として知られるフランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダール曰く「映画は15分だけみればわかる」そうです。実際、ゴダールは冒頭の15分を見ると、映画館を出て次の映画を見にいっていたといいます。
ゴダールの場合は、映画代より時間がもったいない、というのと、作り手としての視点から、こういう観かたをしていたのだと思われます。
単純に気が短い人だった、という可能性も否定はできないけれど。
あらためて考えてみると、映画館ならさておき、100円で借りられる旧作の映画DVDであれば、15分観てつまらなければ「時間のほうが勿体ないから、それ以上観ないで返却する」っていう方針のほうが、合理的なのかもしれませんよね。
ただ、本とか映画って、「つまらないもの」や「つまらなそうにみえて、案外面白かったもの(あるいはその逆)」もある程度は経験しておかないと、「自分にとっての面白さ」みたいなものがわからないような気もするのです。
「DVD化されているコンテンツは、DVDならではの観かたをすることが許されるはず」だと僕は考えています。
むしろ、「1時間で終わって、料金が安い映画」がもっとあっても良いんじゃないかな。
そういえば、長男とはじめて一緒に観た映画が『きかんしゃトーマス』だったのですが、「上映時間70分」だったんですよね。
けっこう短いなあ、もう40分くらい経ったけど、子供は一生懸命観ているし、もうちょっと長くても良いんじゃない?
……と思っていたところ、50分を過ぎたあたりで、急速に「つかれた〜まだ終わらないの?」とソワソワしはじめたのです。
他の席にも、同じような子供たちがたくさんいて。
ああ、この「1時間ちょっと」っていうのは、子供が我慢できる時間に合わせて設定されているのだな、と納得しました。
そう考えると、大人向け映画の「だいたい2時間」っていうのも、長年の経験と実績の積み重ねてこの時間になっているのでしょう。
いくらみんながせっかちになった、すぐにクライマックスを求めるようになった、と言っても、「ちょうどいい時間」というのは、そう簡単には変わらないものなのかな。
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