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いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「EU離脱派」が勝利し、「『政治的に正しい(politically correct)』正論」が死んだ日

http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20160624-00000039-ann-intheadlines.yahoo.co.jp


bylines.news.yahoo.co.jp



まさか、こんな歴史の転換点に、突然立ち会うことになろうとは。
「拮抗しているとか言うけれど、結局は『残留』ということで丸くおさまるんだろうな」と思っていたんですよ。


EUに残留するメリット・デメリットは、この記事がまとまっているような印象を受けました。

www.jiji.com
www.nikkei.com


いま、イギリスがEUから離脱するメリットというのは「EUの決まり事に縛られず、移民制限などの独自の政策をとれる」ということと、「EUへの拠出金を出さなくてすむ」ということなのです。


『ヨーロッパから民主主義が消える』という新書のなかで、こんな話が出てきます。

 EUに納めている額と、受けている額をプラスマイナスしたとき、持ち出しの国はドイツ、デンマークルクセンブルク、イギリス、スウェーデン、オランダ、ベルギー、オーストリア、フランス、フィンランドなど12カ国で、あとの16カ国は実入りのほうが多い。もらう国々にとっては、EUからの補助金はすでに重要な収入源の一つだし、もらうのが当然という空気さえできている。EUの予算編成における問題を一言でいうなら、豊かな国から貧しい国へお金が流れるという構造が定着してしまっていることだろう。


fujipon.hatenadiary.com


 イギリスの低所得層が「なんで俺たちの生活も苦しいのに、働かないEUの他国に援助してやらなければならないんだ」と考えるのも気持ちとしてはわかるんですよね。


fujipon.hatenadiary.com

 この本には、こんなことも書かれています。

 2009年に、イギリスで生まれた男の子の名前でいちばん多かったのが「ムハンマド」でした。イスラム教徒の出生率が高いからです。


 それがどうした、グローバル化の自然な流れじゃないか、と思うのは、自分の身のまわりに、異なる生活習慣を持つ人たちがどんどん増えていき、賃金の安い移民に仕事を奪われる、という想像をしたことがないから、なのかもしれません。


 今回の「イギリスのEU離脱」に関しては「商圏、活動範囲が広くなることを望む富裕層、政治に『理想』を求める若者たち」と「目の前の苦しい『現実』を少しでも早く改善してほしい、という人たち」が、拮抗していて、ついに、後者が前者の「きれいごとの壁」を打ち破ったように、僕にはみえました。
 戦後の「平和教育、人権教育直撃世代」の僕には「それでも、人間は平等で、移民を差別するようなことがあってはならない」という理想主義者的なところがあるし、弱者を救済するのが政治の役割だ、とも考えています。
 「欧州はひとつ」という理念も、心地よく聞こえるし。
 ただ、そういうのって、自分の足元が明るければ、という前提ではあるんですよね。
 これまでの世界、とくに西側の民主主義世界では、そういう「差別」や「排斥」は悪いことだ、という大前提がありました。いくら自分の生活が苦しくても、そういうことはしてはならない。
 それは、人間の、政治の敗北である、と。


 ところが、今回の国民投票では、そういう理念を「持てる者たちの理想の押しつけ」だと考えている人が大勢いるのだ、ということがわかったのです。


 人類のための崇高な理想ではなく、自分の身の回りのささやかな幸せのための権利を優先して、何が悪いのか?
 


 今回の結果に、最近読んだこの本の一節を思い出しました。

 トランプ氏は、アメリカ国民が何を望んでいるかを知っている。大量の不法移民の流入とイスラム過激主義によるテロリズムは、アメリカ国民に経済的、そして治安上の、ぬぐい去ることのできない根本的な不安をもたらすものであり、単なる一過性の問題ではない。そして本章で筆者が述べたとおり、移民の問題は格差の問題と密接に絡んでいる、今世紀のアメリカ内政上の最大の問題である。
 この大問題に対する処方箋を何ら示すことなく、冷静になって慎重に判断すべきだと「政治的に正しい(politically correct)」正論を吐くだけの既存の政治家に安心できず、怒りさえ覚える国民がいる。 
 トランプ氏は、このような国民の真っ当な不安感、焦燥感そして怒りに率直に向き合っている。これまでワシントンの経験の長い政治家の「政治的正しさ」にがんじがらめにされた物言いに辟易して政治から離れていた人々が、トランプ氏に帰ってきているのである。それが彼の人気の原動力になっており、この点がトランプ現象の一つの本質である。

 
 この本の著者は、2013年から2015年までテキサス州のヒューストン総領事を務めており、アメリカの「空気」に外交官として触れてきています。
 日本では(というか僕にも)、「なんであんな目茶苦茶な主張をする人が、共和党の大統領候補にまで上り詰めたんだ?」とキワモノとして認識されているトランプ氏なのですが、「政治的に正しい(politically correct)」正論の無力さと、その「正しさ」を主張しながら、自身は経済界と結びついてボロ儲けしている「政治家」たちに辟易した人々が「とにかくそういう綺麗事をぶっ壊してくれそうな人」を求めているのが現実なのです。
 グローバル化のなかで、格差が開いていき、「とにかく本気で変えてくれそうな人」が求められている。多少混乱があるかもしれないけれど、このままでは、座して死を待つのみ、なのだから。

 
 EUについて、『世界史の極意』のなかで、佐藤優さんがこう仰っています。

では、EUはなぜ生まれたのか。その最大の目的は、ナショナリズムの抑制です。二度の世界大戦を経て、あまりにも大きすぎる犠牲者を出してしまった。ドイツ人もフランス人も戦争だけはしたくないと強く思って、それがEUという形に結晶しているわけです。


 EUというと「人や物資の往来の自由」や単一通貨ユーロのような経済的な面が語られることが多いのですが、EUは、第二次世界大戦という苦い経験を経てつくられた、ヨーロッパの安全保障の枠組みでもあるのです。
 国境をなくすことによって、国どうしの軍事的な紛争をなくすことがEUの大きな目的でしたし、それはこれまで果たされてきました。
 もちろん、NATOという軍事的な枠組みもあり、イギリスがそこから外れるというのは現実的はないかもしれませんが。
 今回の「離脱派」の見解として、「このままではイギリスはEUの供出金などで損ばかりしてしまう。EUを離脱しても、イギリスの経済は強いのだから、ヨーロッパ諸国と有利な自由貿易協定を締結できるはずだ」というのがありました。
 いいとこどり、しようとしている「裏切り者」に対して、周囲の国がそんなに甘い態度をとってくれるかどうか。
 逆に「大陸封鎖令」が200年ぶりに復活しないともかぎりません。
 そんなにうまくいくものなら、EUの「持ち出しの国」は、どんどん離脱していく可能性が出てきますし。


 ひとつだけ言えることは、今日、「『政治的に正しい(politically correct)』正論」が死んだ、ということです。
 いや、「政治的な正しさ」に従わなくても良い、ということに、世界が気づいた日、と言うべきかもしれませんね。
 これまで、ギリギリのところで保たれていた「均衡」は、破られてしまった。
 この先にあるのは、分裂なのか。
 それとも、この経験が再統合へのきっかけとなっていくのだろうか。