いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『ほこ×たて』不適切演出問題と『ゲーセン少女』の記憶

参考リンク(1):フジ「ほこ×たて」不適切演出で放送中止(日刊スポーツ)

参考リンク(2):「ほこ×たて」結果捏造事件の騒ぎすぎな現状について - novtan別館

参考リンク(3):僕は「フィクションに騙されて、現実逃避したいバカ」です(琥珀色の戯言)


まず、前置きとして。
僕はあの『ゲーセン少女』に対して、参考リンク(3)のように当時は考えていたのですが、いまは「やっぱり、フィクションはフィクションであると、なんらかの形で明示するべきだ」と思っています。
あのときは、「実話だと信じた人たちをバカにするような風潮」に過剰に反発していました。ごめんなさい。
まあ、その明示のしかたが難しいというか、あまりに「ウソですよ、フィクションだからね!」とズンズン迫ってこられるような感じだと興醒めなので、さりげなく、かつ、確実にやってほしい、というのが希望なんですけど。


ただ、こういうことに関しては、人それぞれ「察することができる範囲」というのが違うのも事実で、「『実話』だとことわっていない小説なんだから、フィクションに決まってるだろ」とか「テレビのバラエティ番組なんだから、ほんとに『ガチンコ』ってわけないだろ」というような共通認識がどの程度成り立っているのかは、なんともいえない面がありますね。
『ゲーセン少女』にしても『2ちゃんねる発なんだから』実話っぽい、と感じた人と、釣りだろ、と疑った人と両方いたわけだし。


今回の『ほこ×たて』の内容については、「演出」というより、「編集による意図的な内容の改変」とか「捏造」のレベルだと言っていいでしょう。

 同局によると、20日放送の2時間スペシャルの「絶対命中スナイパー軍団VS絶対逃げるラジコン軍団」で事実とは違う対決シーンを捏造(ねつぞう)し、放送されたことを、出演してラジコンカーを操縦した広坂正美氏が23日、勤務先のHPで告発していたが、同局広報部はこの日、「おおむね事実」と認めた。


 さらに広坂氏は、12年10月21日に放送された猿との対戦の際、番組側が、動物虐待と指摘されても仕方ない演出をしていたという趣旨の告発している。


 「猿がラジコンカーを怖がって逃げてしまうので、釣り糸を猿の首に巻き付けてラジコンカーを引っ張り、猿が追い掛けているように見せる細工をしての撮影でした」

 ちなみに、告発者によると「最初の1分間はスナイパーが撃たない『内規』だったのに、それを破って狙撃された」なんて話もあったそうです。
 これが明らかな「ヤラセ」にあたるかどうかはさておき、「視聴者には知らされないルール」が存在していたというのは、誠実だとは言い難い。

 
 しかし、その一方で、「バラエティ番組なんだから、そういうこともあるっていうのは、視聴者もわかっているんじゃない?」という言い訳も、できなくはない。
 「バラエティ番組」っていうフィールドそのものが、「フィクション」であることを示しているはず、っていう。
 じゃあ、スタート直後に「撃破」されたら、そんなの面白い?
(僕は、それはそれで、総合格闘技の「秒殺」みたいで面白そうだ、という気もするんですけどね。ただ、メーカー間の勝負とかだったら、なかなかそうもいかないかもしれません)
 

 こういう事例がひとつ発覚すると、「これまでの対決もみんな、『ヤラセ』だったんじゃない?」って思いますよね。
 おそらく、全部がヤラセだったわけではなくて、撮影してみて「このままでは面白くない」とか「企画段階ではいけそうだったけど、実際にやってみたら対決として噛み合っていなかった」なんていうケースには、こういう「演出」が加えられていたのではないでしょうか。
 普通に対決して面白ければ、制作するほうも、それがいちばんラクだったでしょうし。
 本気で、自分の専門分野のプライドをかけて出場していた人たちは、本当にかわいそうだと思います。
 そして、そういう人たちが出ていたからこそ、「ガチンコ」だと信じていた視聴者も、やっぱり「騙された!」って怒るのは当然です。
 それで「実害」が自分に出ているわけではないので、そんなに怒る必要はない、という人もいるでしょう。

 ただ、告発者からすれば「ああいう演出で、ラジコン界やラジコンに賭けてきた自分の人生が汚されるのを許せなかった」のでしょう。
 損得だけでいえば、不満を感じながらも宣伝効果を享受していたほうがトクだったかもしれないけれども。
「面白い番組をつくるためなら、バラエティ番組なら、(その前提を承知していない)個人のプライドや大事なものを踏みにじってもいいのか?」
 やっぱり、それは「やってはいけないこと」でしょう。
 いつか、自分が「被害者」になるかもしれないのだから。


参考リンク(2)での、

今回の件ははっきり言ってこれだと「騒ぎすぎ」だと思いますよ。


ほこ×たて」というなかなかおもしろいことをやっていた番組が捏造に手を染めてバラされて「真剣勝負だと思ってたら捏造?ツマンネ」と視聴者の信頼を失った(結果としてスポンサーに損をさせたかもしれないがそれはテレビ局の問題)、というだけの話に過ぎません。健康被害も出てなければスーパーから納豆が消えたりもしてない。

というのは、なるほどそうだよなあ、と思います。
少なくとも「視聴者」にとっては。
でもね、被害者にとっては「たかがラジコンの勝負じゃないか」ってわけじゃないんだよね。
あの告発者は、人生かけてあれをやっているわけだから。


僕はこの『ほこ×たて』の今回の件って、「被害者がひとり」で、「自分には実害がない」からこそ、メディアの傲慢に警鐘を鳴らさなければならない、と思うのです。
「あなたには関係ないから、いいじゃないですか」
そう言われて「まあそうだな」なんて思っているうちに、「自分の番」がやってくるかもしれないのだから。


制作側は、テレビのバラエティ番組をずっと作っていたり、お金をたくさん使っても「面白い映像」が撮れていなかったりすると、いろんな感覚が麻痺してしまうというのもわからなくはないんだけど、だからこそ、視ている側の「NO」が必要なのではないかな。

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