いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

ふたりの「山口メンバー」


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 まあなんというか、僕自身も若い頃、飲み過ぎて記憶をなくしてしまい、翌日、二日酔いで起き上がるのもままならない状態で、お世話になった人たちに謝り、「何かヘンなことしてなかった?」と尋ねてまわったこともあるので、偉そうなことは言えないな、とは思うんですよ。
 それでも、40代半ばになった人気タレントが、未成年をこんなふうに深く傷つけてしまった、ということは許されることではありません。
 会見での松岡昌也さんのコメントを読むと、これまでもアルコールに関係した問題をしばしば起こしていたみたいですし。
 おそらく、本人はあんまり覚えていないのでしょうから(そういう体験をしたことがない人には理解できないのが当たり前なんですが、本当に「覚えていない」んですよ)、気がついたら崖から落ちていたようなものなんでしょうけど、だからといって、被害者の心の傷がリセットされるわけでもない。
 そういうことを起こしやすい飲酒癖があることを知っていながら、酒をやめるため、他者に被害を及ぼさないための治療や環境整備を十分に行っていなかったのは事実なので、「病気だから仕方がない」とも言えないし、言ってはならないと思います。
 TOKIO脱退とか芸能活動休止どころじゃない。


 以前、こんなエントリを書きました。

fujipon.hatenablog.com


 結局のところ、人は「罪をつぐなう」ということができるのだろうか。
 山口達也さんは不起訴ですから、刑事罰を受けることはないけれど、被害者の不快極まりない記憶は、ずっと残り続けるはずです。
 それを考えると、復帰とか考えることすらおこがましいのではないか。
 少なくとも現在の時点では。
 そもそも、もし将来的に復帰を考えたとしても、あの事件の記憶があるかぎり、山口さんへのニーズがあるかは疑わしい。今回の事件は、時間が経っても『しくじり先生』(もうレギュラー放送はなくなってしまいましたが)でネタにするのが許されるような話じゃないですし。アルコール依存だけならともかく。


 そんなことを考えていたなかで。


 2018年5月1日の夜、マツダスタジアムで、広島対巨人戦が行われました。
 カープの先発は中村祐太、巨人の先発は、山口俊。
 僕は医療関係者のひとりとして、昨年、この山口俊投手が起こした事件のことは強く印象に残っています。


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 病院の救急外来で暴れる酔っ払いって、そんなに珍しくはないんですけどね。悲しいことだけれど。
 山口投手のような身体が大きくて力が強い人に暴れられたら、さすがに怖かっただろうと思う。
 山口投手、事件を起こしてからしばらくは、「野球界の恥」「もうクビにしろ!」など、さまざまな批判を受けました。
 昨シーズンは、ほぼ謹慎になったものの、FAからの複数年契約だったこともあり、高額年俸でチームに残り、今シーズンはこの広島戦まで3連勝と活躍していました。


 試合の経過について書き込みがされるネットの掲示板では、山口俊投手に関して、「山口メンバーを打ち崩せ!」と、山口達也さんの事件と結びつけてのバッシングが多々みられていたのです。
 それはさすがに品がなかろう、と僕は思っていたのですが。


 でも、以前、山口投手から顔面にぶつけて骨折し、長期欠場を余儀無くされたカープの会澤捕手へ、また2打席連続のデッドボールというのには、さすがにはらわたが煮えくりかえりました。
 カープの今村投手が巨人の長野選手の頭部にぶつけてしまった際、謝罪した今村選手に、長野選手が「お前のほうこそ大丈夫か?」と声をかけてくれたという話を聞いて以来、アンチ巨人ではあるものの、それなりに敬意を持たなければ、と思ってはいたのですが。それにしても酷すぎた。
 

 山口俊投手の去年の暴行事件も酒に酔って、だったんですよね。
 山口達也さんの事件をきっかけに蒸し返されてしまったのは彼にとっては不運ではあるでしょう。ちょうど名字も同じだし、「巨人軍」と「ジャニーズ事務所」という巨大組織に守られている、というのも似ているといえば似ている。


 5月1日の試合は大乱調で負けてしまったとはいえ、山口俊投手は、今シーズン野球選手として「復活」し、すでに3勝をあげています。
 もちろん、ヤジはたくさん聞こえてくるでしょうけど、巨人ファンなら、「あいつが投げる試合だけは巨人を応援しない」という心境にもなりづらいはず。

 
 人の罪の軽重を量る、というのは難しいけれども、山口俊投手がやったことは、そう簡単に許されることではない。救命の現場で酔って暴れて、怪我をさせたり、ものを破壊したりしたわけですから。働いていた人たちには、トラウマになっただろうとも思う。
 山口達也さんのやったことに比べたら、たいしたことじゃない、とは言えない。


 それでも、こうしてマウンドで投げ続けている山口さんをみていると、結局のところ、人というのはけっこう忘れやすいし、一時的にバッシングされても、そこで自暴自棄になったり、辞めてしまったりせずに、おとなしく嵐が過ぎ去るのを待てば、なんとかなってしまうことも多いのではないか、という気もするのです。


 5年前の、この事件のことも思い出しました。
www.nikkei.com

 いまから思うと、この県会議員は、議員を辞職し、ちゃんと謝罪して、しばらく身を潜めておけば、みんな忘れてしまい、今頃は「あの頃は尖っていたなあ」なんて苦笑しながら話せていたかもしれないんですよね。
 僕にとっては、このくらいの「感じの悪い、自分を特別扱いしてほしい患者さん」ってけっこういるよなあ、という感じでしかなかったし。
 目立たないようにしつつ、リングにしがみついていれば、いつのまにか嵐は過ぎ去ってしまう。
 炎上させるほうも、自分に関係のない事例に対する「怒り」は、そんなに長続きはしない。


 ただ、僕はそうやって、みんなが忘れてしまうことが、悪いことだとも思わないんですよ。
 山口俊投手の場合、もしあの事件で解雇され、プロ野球の選手でなくなったら、どうなったのか?
 その後に残るのは「暴行事件の前歴と問題の多い飲酒癖がある、30歳の身体が大きくて力の強い、ひとりの男」でしかありません。
 そういう人が、華やかなプロ野球の世界から、突然、社会に投げ出されて、月給20万円のサラリーマンとしてやっていけるだろうか?
 反社会勢力に取り込まれたり、自暴自棄になってもっと大きな犯罪を起こしたりというリスクがかなり高いと思うのです。
 ボクシングの元世界チャンピオンが身を持ち崩し、いつのまにか反社会勢力(暴力団とか)の一員となっていた、という話も少なからずありますし。

 
 率直に言うと、罪をつぐなわせる、反省させる、ということで、その人も周囲も不幸にする方向に徹底的に追い詰めるよりは、なんかスッキリしなくても、(反社会的じゃない)能力を活かせることを続けてもらうほうが、お互いにとって良いのではないか、ということなんですよ。


 人の命を奪ってしまった、というような、取り返しのつかない事例に関しては、そうはいかないし、僕個人の意見としては、「命には命でつぐなうしかない(それでも足りない)」とも思うけれど、刑事事件として起訴には至らず、示談が成立しているような場合には、「許したことにする」ほうが、社会の安定にもつながるはずです。
 

 山口達也さんの事件に関しては、職業がタレントということもあり、「マウンドで結果を出せば」みたいな話ではないのもわかりますし、相手にはトラウマがずっと残る可能性が高い。
 少なくとも、アルコール依存に対する治療をまずしっかりやって、それからの話だとは思う。
 ただ、極楽とんぼの山本さんがあの事件で謹慎してから現在まで、行くあてもなくさまよっているのを見ていると、「みんなが認めるような『反省』をしてみせるというのは大変難しい」というのもわかります。結果的に「反省してるっぽいことをいろいろやってみる芸人」みたいになってしまい、それをみて、みんな「やっぱり反省してないな」の繰り返し。山本さんの場合は、中途半端に芸能界に未練のある行動を繰り返しているのも良くなかったのだろうけど。


 僕は「未成年にそんなことをするなんて、もう二度と人前に出てくるな!」と思っていたんですよ。いや、今でも半分くらいはそう思っているんだけれど、こういう記事を読んで、考え込んでいます。


www.hochi.co.jp
www.sanspo.com

ただ、娘にも山口にもこれからがあります。この過ちで一人の人間の未来がすべて奪われてしまうことは私達も望んでおりません。


 覆水盆に返らず、というか、やってしまったことは、もう、無かったことにはできない。
 被害者は全く悪くないのだけれど、「それがきっかけで、他人の人生が終わってしまう」というのは、被害者にとっても「きつい」ことだと思う。
 少なくともあの事件までは、山口さんを憎んでいたわけではないだろうし。
 事件がきっかけて、加害者がどん底に落ち、しかもアルコール依存とかだったら、逆恨みされる不安もある。
 それならば、ちゃんとアルコール依存の治療を受けて、手順を踏んで復帰し、活躍してくれていたほうが「安心」できる面もあるのではなかろうか。


 今でさえ、Twitterでは一部の「ファン」から、被害者に対して「ハニートラップ」とか「部屋に行く方が悪い」とかいう中傷もされていて、正気か?って思っています。
 本当のファンなら、そんな誹謗中傷が誰にとってもプラスにならないことに気づけよ(そもそも、そんなことを言っている人自身の評価も損ねているし)。


 すぐにどうのこうの、という話ではありません。
 一度そういうイメージがついてしまうと、タレントとしては、難しいだろうな、とも思う。
 それでも、「第三者がいつまでも罪を責め続けることが、最善とは限らない」ということは、考えてみていただきたいのです。


fujipon.hatenadiary.com

加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)

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