いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

もしあなたが5人のSMAPのひとりならば

というタイトルを読んだ人のほとんどが、「何寝言いってるんだよ、オレがSMAPだったらとか、考えるだけアホらしいだろ」と思うであろうことを確信しつつ。


あなたはある大きな商社に勤めています。
年齢は40歳で、同期のなかでは出世頭。もうすぐ部長の椅子に座ることが確実視されていて、将来は取締役までいくのではないか、と自他ともに認めている有望株です。
そんななか、あなたの周囲が、突然キナ臭くなってきました。


あなたは入社当時は同期のなかでも目立たない社員でした。
仕事をがんばってはいるのだけれど、あまり大きな結果に結びつかず、何をやっても「それなり」。
そのうえ、あなたが所属していた部署は、だんだん世間のニーズが減ってきていて、成果を出すのも難しい。
ああ、なんかもう、袋小路にハマってしまったんじゃないかな……
会社の首脳部にとっては、あなたは「歯車」のひとつであり、とくに接点はありません。
よくしてもらった、悪くされた、なんて印象もない。


ところが、そんなあなたに転機が訪れます。
先輩社員の中沢課長(仮名)が、埋もれていたあなたをなぜか高く評価してくれて、自分の課へ引き抜いたのです。
中沢さんは、あなたに仕事のやりかたを教え、これまでとは違った層の顧客を開拓し、会社にも貢献しました。
中沢さんのやりかたは、あなたにも合っていたようで、あなたの成果もこれまでの袋小路とは大違い。
あなたは「デキる社員」として、社内でも一目も二目も置かれるようになったのです。
中沢さんは、社内でも順調に出世し、あなたをさらに引き上げてくれました。
あなたは「中沢営業部長の右腕」と自他ともに認められる存在です。


中沢さんについていきさえすれば、自分の将来は明るい……はずだったのですが。


同族企業であるその商社は、最近ゴタゴタしてきました。


もう80代半ばの高齢の現会長は、自分の子どもの専務を後継者にと考えているのですが、専務は我が子ながら、ちょっと人望に欠けるのです。
創業者に比べると、カリスマ性に劣るのはしょうがないとは思いつつ、やはり不安は残ります。
しかも、専務は現場から圧倒的に支持されている中沢営業部長と折り合いが悪い。
専務は部長を「使用人」だとみていて、部長は専務を「二代目のボンボン」だとバカにしている。
中沢営業部長の能力はよくわかっているし、自分なら使いこなせると思う(そして、中沢も自分には逆らわないはずだ)けれど、専務の代になったら、どう動くかわからない。
有能だが、野心もあるヤツだから、自分(会長)がいなくなったら、クーデターを起こして折り合いの悪い専務を追い落としたり、有能な社員と顧客をまとめて独立するかもしれない。


そこで社長は、自分の目が黒いうちにと、中沢部長を排除することにしたのです。
難癖をつけて、辞めさせることにした。


これはひとつの賭けでもあります。
有能な社員を切り捨てることには、業務上も、会社への社員の信頼感にも、大きなマイナス要因となってしまう。とはいえ、中沢部長をこのままにしておくと、自分がいなくなったあとの心配は尽きません。
自分がいなくなっては、旗色は悪くなる一方だから、やるなら、今しかない。


中沢さんが辞めると聞いて、あなたは驚くしかありませんでした。
あなたにとって、会社と中沢さんは同じベクトルを向いていて、中沢さんの敷いてくれたレールを突っ走ることが、会社に貢献することだった。
そういう手応えは、ずっとあった、はずなのに。


中沢さんは、あなたに言うのです。
「オレはもうこの会社にはいられないから、独立して自分の力を試してみるよ。だが、お前はまだ若いし、この会社での実績もある。オレの派閥だと見なされているから、居心地は悪いかもしれないが、残ったほうが苦労はしなくてすむ。だから、ついてきてくれとは言わないよ」


さて、あなたなら、どうしますか?
会社に残るか、中沢さんについていくか?


なんだか長々と書いてしまいました。
「『課長・島耕作』で、中沢部長がハツシバを出て新しい会社をつくると言ったら、島耕作はどうするのか?」あるいは、「『スター・ウォーズ』で、オビ=ワン・ケノービジェダイから独立して新しい組織をつくると言ったら、彼の弟子であるアナキン(闇落ちする前)は、どうしたら良いのか?」と考えたほうが、わかりやすいかもしれません。



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SMAP解散問題」がこんなに世間の耳目を集めているのは、日本を代表する人気グループだから当然ではあるのです。
しかしながら、僕みたいな『SMAP×SMAP』を時々観る程度、という人間も、彼らの今後の身の振り方について興味を持たずにはいられないのです。
彼らはCMとコンサートとたまにみんなで出演する歌番組と『SMAP×SMAP』以外では、ほとんど「ソロ活動」をしているのだから、外的要因がなければ、「独立」はあるとしても、あえて「解散」する必要はないはずです。
お金のこととか、事務所内での自分たちへの評価とか、内情はいろいろあるのかもしれないけれど、「SMAPの一員」でいたほうが、メリットは大きいはず。
というか、今回の世間の反応をみると「ゴタゴタでSMAPが解散した」という履歴は、彼らにとっては何もプラスにはならないでしょう。
そもそも、すでに「至高の存在」であって、仮にソロ活動に専念するとしても、これ以上仕事も増やせないのではなかろうか。
SMAPのメンバーって、僕と同じくらいの世代なのですが、『夢がMORIMORI』でキックベースボールをやっていた時点では、彼らがこんな国民的アイドルグループになって、森口博子森脇健児よりもずっと芸能界で長生きするとは予想していなかったし(というか、アイドルなのに仕事選んでないな、って思ってました)、『あすなろ白書』で、木村拓哉が取手君役と聞いたときには、事務所の力で押し込まれたんだろうな、と感じていたんですよね。
掛居君役の筒井道隆(一時、筒井康隆の息子説、とかありましたね)よりも俳優としてビッグになるとは。
それにしても、あのクリスマスの夜に取手君が一生懸命バイトしてつくったお金で買ったプレゼントを受けとった次の場面で、いきなり二人で朝を迎えてしまう園田なるみの切り替えの速さには驚いた。ええーっ、もう寝ちゃうの?と。


まあでも、あれこれ考えてみると、バラエティ適性があって、マネージャーの恩恵を最も受けたであろう中居さんが「独立派」で、バラエティにはあまり興味を示さず、役者として成功している木村拓哉さんが「残留派」なのは、わかるような気もします。
思い返してみると、「SMAP以前」って、ジャニーズのアイドルって、バラエティで積極的にイニシアチブをとることはなかったものなあ。
妻と話していて、「でも、キムタクだってバラエティに出てるよ。『さんタク』とか」と言われたのですが、そこで出てくるのが年1回のお祭りという感じの『さんタク』ですからね。
マネージャーの「これまでのアイドルはやらなかったバラエティ路線の開拓」への感謝の程度にも個人差はあるのでしょう。
ただし、これが全部マネージャーの功績かというと、必ずしもそうではないし、ジャニー喜多川さんが、SMAPに「ユーたちはジャニーズのドリフ(ターズ)になりなさい」と言ったという逸話も聞いたことがあります。
いくらマネージャーが奮闘していたとしても、事務所の方針と決定的に解離していれば、その路線変更は実現しなかったはずで、「マネージャーにはもちろん恩があるけれど、会社を恨んでいるわけでもない」というのもわかるんですよ。


それに、処世として考えると、「個人」と「組織」では、やはり「個人」のほうが頼りにするリスクは高い。
僕もたまに「○○先生がいるから、あの医局に入ろうと思うんですが、どうでしょうか?」なんて相談を受けることがあるのですが、そのときには「特定の人をアテにして、自分の未来を決めないほうがいいよ」と答えることにしています。
「まかせとけ!」って言いながら、すぐ転勤したり、辞めちゃったり、ということはよくあることですから。
本人は良い人でも、上の都合で飛ばされることだってあるし、絶対に病気にならない人なんていないし。
「その医局でいちばん冷や飯を食ってそうな人も参考にしたほうがいいよ」とも言います。


この問題が人々の、なかでも日頃あまりSMAPに興味がない人々にも注視される最大の理由は、SMAPほどの「国民的グループ」が、事務所の「お家騒動」に巻き込まれてしまい、どちらについても、相手に不義理になってしまう状況での選択を迫られているから、なのだと思います。
あの女性マネージャーが事務所から切られてしまった経緯を報道で知ると、中国の歴史のなかで、建国の功臣が、天下が定まったのち、謀反の疑いでとらえられたときのことを想像してしまうのです。
捕らえられ、引き立てられてきたその功臣は言います。


「私が謀反を起こそうとした証拠があるのですか?」
その言葉に、皇帝はこう答えました。
「お前が謀反を起こしたかどうかが問題ではない、お前に謀反を起こすだけの実力があるのが問題なのだ」


大坂の陣の前の豊臣家にしてもそうなのですが、権力者側は、将来の不安を取り除くために「自分の子孫を脅かすリスクがあるもの」は、難癖をつけてでも滅ぼしておく、という選択をすることもあるのです。
実際に、豊臣恩顧の現役大名たちは、例外なく徳川家康についたわけで、不利な状況下で、ひとりの人間の「義理」とか「筋」を通すことは難しい。家族のためとか、天下のためとか、言い訳はいろいろできますし。
だからこそ、そのなかで義理を貫いた人々の行ないは「美談」として語り継がれます。
真田幸村(信繁)が、大坂冬の陣のあと、「50万石やるから徳川方につけ」と言われたという話がありますが(史実かどうかはわかりませんが)、それを断ったからこそ、「真田伝説」は完成しているのです。


「せかいの はんぶんを おまえに やろう」

 はい/いいえ


いやほんと、こんな難しい「選択」を迫られなくてすむのだから、僕は自分が5人のSMAPのひとりじゃなくて、本当によかったと感謝せざるをえません。


「世論」を味方にして事態の打開を謀っている策士がどこかにいるのではないかと、僕は邪推しているんですけどね。
芸能界はなんといっても「客商売」だから、「ファンの後押し」があれば、「やむなく(今後のためには、このポーズが大事)元サヤ+ペナルティなし」にもできるだろうから。



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