いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『真田丸』第1回「船出」を観て

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体調不良で寝込んでいたにもかかわらず、観ました『真田丸』の第1話。
三谷幸喜さん、『ギャラクシー街道』で、けっこう派手に転んでしまったあとなのでどうなんだろう?と思っていたのですが、この『真田丸』の第1話は、自らも大河ドラマが大好きで子どもの頃から観ていたという三谷さんの思い入れが詰まっていたと思います。


オープニングの「3D地図監修 シブサワ・コウ」にKOEIフリークとしては、ちょっと驚きつつスタート。


一緒に観ていた妻が「今回は子ども時代が無いんだねえ」と言っていたのですが、確かに、大河ドラマで歴史上の人物を主人公にする場合、第1回はその子ども時代を演じる子役からスタートし、第1話の最後くらいで、シリーズの主役を演じる役者さんにバトンタッチ、というパターンをよくみかけます。
ところが、この『真田丸』は、当時の真田信繁(幸村)が15歳、お兄さんの信之は16歳の時点、それも武田家滅亡直前からはじまります。
その前の子ども時代については、まったく描かれず。
15歳、16歳にもかかわらず、堺雅人さん、大泉洋さんが演じるという、ある意味潔いキャスティングでした。
内心、「この二人で10代半ばは厳しいだろ……」と思いつつも、武田家滅亡という大きな歴史の流れの前では、ツッコミを入れるどころではなく。


三谷幸喜さんの「大河ドラマ好き」「歴史好き」の視点が濃密に感じられるドラマではありました。
僕はそれなりの歴史マニアだと自認しています。
いきなり武田家が滅亡しそう、という時点からはじまるのは、ドラマを盛り上げるという意味でも正解だったと思うのですが、あまり日本史に詳しくない人には、ちょっと説明不足ではなかろうか、という気もしたんですけどね。
でも、そこでクドクドと歴史的背景を「ちゃんと説明する」ことで、リズムが悪くなったり、導入部で脱落する人が出てきたりするよりも、分かる人はディテールで喜んでくれればいいし、歴史マニアじゃない人には、「名門・武田家が、歴史の波に飲まれて滅んでしまう悲劇」「つかみどころがない策士・昌幸と真面目な信之、純情な信繁というキャラクター設定」だけ伝わればいい、という思い切りの良さこそが、成功の要因なのかもしれません。


それにしても、三谷さんやっぱり上手い。
武田勝頼が「もし、父、信玄が生きていたら、この状況で、どうしただろう……」と述懐するシーンがありました。
で、僕はそれを観ながら、「いやいやいやいや、信玄だったら、そもそもこんなことにはならなかったはずだろうよ」とツッコミを入れていたんですよ。
ところが、その後、勝頼の口から出た言葉は、まさにその「……父上が存命だったら、そもそもこんな事態にはなっていなかったか……」という自嘲だったのです。


これだけで、武田勝頼というのは、偉大な父親と比較されることに苦悩し、たしかに信玄に匹敵するほどの能力はなかったのだけれども、少なくとも自分を客観視することはできる能力はあり、単なる「無能な二代目のボンボン」ではなかった、ということがわかります。
そして、同じ内心を共有することによって、なんだか僕は勝頼にものすごく感情移入してしまいました。


「私も知らなかったんです」と本人たちに言わせながら、なぜ長男が源三郎で、次男が源次郎だったのか、という蘊蓄を視聴者に説明するシーンとか、爪を噛む徳川家康、飯に汁をかけまくる北条氏政など、「歴史マニアへのくすぐり」も面白すぎる。


信之、信繁兄弟に対する武田勝頼のふるまいをみていると、なんだかこの第1話だけで、武田勝頼の名誉が救われたような気がします。
武田勝頼は、真田昌幸の進言に従って岩櫃城に入るのではなく、譜代の家臣たちの意見に沿って岩殿城に入ろうとして、小山田信茂たちの裏切りにあったのです。
その結果を知っている後世の人間からすれば、「武田勝頼の無能さ」を示しているのだけれど、こうして当時の情勢を鑑みると、「勝頼が甲斐を捨てられなかった」のはやむをえないことでもあったんですよね。


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個人的には、勝頼が岩櫃城に入り、真田昌幸とともに織田軍と交戦していたら、どうなっていたのだろう?という「歴史のif」を想像せずにはいられないのです。
後世の大軍相手の軍略をみると、昌幸なら武田滅亡を防ぐ、あるいは遅らせることができたかも、とは思うんですよ。
でも、現実的に考えると、あの状況下で武田勝頼を擁していれば、織田軍からは徹底的に攻撃されたでしょうから、真田一族も武田家とともに滅んでしまった可能性のほうが高いのではなかろうか。
結果的には、武田勝頼が岩櫃城に来なかったからこそ、その後の真田家はあった、とも考えられます。

信繁が勝頼に「亡くなった人にいつまでも囚われていても仕方がありませんよ」と思わず口にしてしまう場面がありました。
でも、その後の信繁の人生とその終焉は、ある意味「亡くなった人に囚われつづけるもの」であったわけです。


この第1話を観ていて感じたのは、三谷幸喜という人は、大河ドラマの視聴者を信頼しているのだな、ということでした。
説明は少なめで、過剰な感情描写もないし、「わかる人だけわかればいい」という細かい設定も満載です。
予備知識が無い視聴者に対しても、押し付けがましい「親切さ」より、「物語としてのダイナミズム」を重視しているのでしょうね、きっと。
「のちに関ヶ原の戦いで10倍以上の徳川勢を相手に奮戦する昌幸も〜」とか、初回から、今後のネタバレがけっこう多いのにも驚きました。
要するに「歴史を知っている人が観ても、面白いドラマにするからね」という自信のあらわれかと。
たしかに、この第1回もそうだったし。


堺雅人さん主演ということで、期待していた『真田丸』なのですが、第1回は予想以上の滑り出しでした。
「良いドラマ」というだけではなく、「良い大河ドラマ」になりそうな予感がします。



真田丸 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)

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NHK大河ドラマ歴史ハンドブック 真田丸 (NHKシリーズ)

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