いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『鮨 水谷』の「外国人ドタキャン問題」について

www.nikkan-gendai.com


まあ、『日刊ゲンダイ』だからなあ……などとも思いつつ、この記事を読みました。

「水谷」はカウンター10席で、夜のおまかせコースが2万円からという超高級店。常連客によると「金持ちの白人がしょっちゅう来て、大声でしゃべっている」という。外国人を受け入れている店なのに、莫氏へのヒドい対応は何なのか? 莫氏の電話を受けた店の担当者に取材すると、こんな言い分だった。


「店の雰囲気づくりのため、海外の客と日本人客の比率を半々にしています。海外の客については予約をしたのに来ないなど、トラブルが多発したので、ホテルのコンシェルジュ、もしくはカード会社を通じた予約だけに限定しています」


 ただ、莫氏は海外からの旅行客ではなく、日本に永住している。


「旅行客かそうでないかは、電話だけでは判別できません。海外の客には、一律でこういう対応をしています」


 この記事に対して、ネット上では、こんな反応がみられているのです。kabumatome.doorblog.jp



僕としては、「店の雰囲気づくりのため、海外の客と日本人客の比率を半々にしています」という理由はいかがなものか、と思うんですよ。
「半々だから平等だろ」っていうのは、ちょっとおかしな気がするし。
でも、『市況かぶ全力2階建』で紹介されている「高級飲食店の内情」を読むと、これは、『水谷』のほうも大変なのだろうなあ、と。


ただ、この『市況かぶ全力2階建』で紹介されているツイートを読んでいて、気がかりなところがあったんですよね。


元の『日刊ゲンダイ』の記事では、「海外からの外国人客」に対する差別ではないか、という話だったのに、「中国人富裕層はドタキャンが多い」という話になってしまっていると感じました。


僕自身が飲食店を経営しているわけではないので、本当の「内情」みたいなものはわからないのですが、以前読んだ『三つ星料理人、世界に挑む。』という本のなかに、こんな話が出てきます。


d.hatena.ne.jp

 問題点を強いて挙げるとすれば、外国人、主にフランス人のお客様でしょうか。


 外国人のお客様は<銀座小十>でも迎えていましたし、そう違いはないだろうと思っていたのですが、彼らにとっても日本はアウェー。それなりに日本のルールに従ってくれていたのでしょう。


 ホームであるパリでは、伸び伸びといろんなことをしてくれるのです。
 一番問題なのは、キャンセルが多いことです。予約日時にいらっしゃらないのは日常茶飯事。もちろん、連絡もありません。
 極端なときは、予約の半分くらいが来店しない……という日もあります。こちらから連絡すると、悪びれた様子もなく、「ちょっと都合が悪くなっちゃって」と言う程度。連絡すらつかないお客様も多いのです。


 不思議なことに、そういうときはふらりと「入れる?」というお客さんがいらしてくれるので、食材を無駄にするようなことはなく済んでいますが……。
 お国柄、とでもいうのでしょうか。聞けば、どこの店も同じ状況のようです。
 日本から旅行に行く場合、予約がとれないような人気店には当日に連絡してみると、意外と入れるかもしれません。どこの店でも、当日キャンセルが多いようですから、

この本は、2007年秋に、レストランガイド『ミシュラン』で3つ星に輝いた『銀座小十』の店主の、「パリに本物の日本料理店をつくる」という挑戦の記録です。


これを読むと、『水谷』だけがドタキャンされまくっているわけではなく、中国人だから「ドタキャン常習犯」というわけでもない、ということがわかります。
少なくとも、フランス人は、高級飲食店のドタキャンを自国内では頻繁にやっている。
どうも、外国人(少なくともフランス人と中国人)は「一度予約を入れた店への忠誠心」は、あまり強くないみたいです。
彼らがいいかげんすぎるのか、日本人が律義すぎるのか。
ただ、こういうのって、おそらく「彼らにとっては、当然のこと」になってしまっているのでしょうから、日本の常識を押しつけようとしても、うまくいきそうにないですよね。


ちなみに、先日『ネプリーグ』で観たのですが、「日本に来る外国人の49%が、中国籍」なのだそうですよ。


2人に1人は中国人で、夜のコースが2万円からという『水谷』で食事ができるような人は、まず「富裕層」なわけで、「中国人富裕層」というのは、最大のボリュームゾーンなわけです。
来る人の数が多ければ、問題を起こす人も多くなるのは当然です。


「鮨」の食材は、とくに『水谷』のような高級店では、一部の熟成を要するもの以外、その日に仕入れたものを、その日のうちに食べてもらうのが大原則で、キャンセルされて、代わりのお客さんがいなければ、捨ててしまうしかない。閉店間際に半額セールとかやるわけにもいかないだろうし。
店にとっては、本当に切実な問題だと思います。
こういう「ドタキャン」のために、素晴らしい店が潰れてしまうのは、あまりにも悲しい。
(『水谷』のような高級店に一生のうち何度行く機会があるか、と考えると、僕が悲しむのは非現実的ではあるけれど)


これって、最初に「店の雰囲気づくりのため、海外の客と日本人客の比率を半々にしています」とか言ってしまったのが問題をややこしくしてしまったのではないかなあ。
「食材の関係で、キャンセルされた場合に店の損害が大きいので、初めてのお客様には、ホテルのコンシェルジュ、もしくはカード会社を通じた予約のみにさせていただいております」と国籍不問で明言しておく、それ以外のいちげんさんのアプローチの方法として、ネット予約であらかじめカード番号を入れてもらう、ということで統一してしまえば、良いのではなかろうか。
客単価が高いとはいえ、10席だけの小さな店だから、そういうのも難しいのかな……


こういうのって、「文化的背景が違う人たちに、こちらの常識を求める」のはあまりにもハードルが高いので、システムで対応するしかないと思うのです。


店主には「いや、鮨ってそんなもんじゃなくて、もっと気軽に食べられるものだろう」という矜持があるというのもわかります。
そういう意気も、『水谷』の魅力のひとつなわけですし。


ただ、ずっと店を続けていく、いろいろな国のお客さんを受け入れる、ということを考えるのであれば、変えていくしかないのかな、と。


「本日のドタキャン情報」みたいな感じで、飛び込みでも入れるときはネットでアナウンスするというのも、ひとつの手かもしれません


こういうのって、今後、東京オリンピックなどで、日本が「世界標準」にさらされる際に、避けては通れない問題です。
「自分とは異なる常識を持っている人たち」と、どう付き合っていくのか。


「中国人が悪い」という結論にしてしまえば簡単なのだろうし、そういうふうに思い込ませたがる人やサイトは少なくないけれど、そういうのを見たときには、ほんの少しでいいから、立ち止まって、「本当にそうなのか?」と考えてみていただきたいのです。


「どこの国の人か」が問題なんじゃなくて、「いいお客さんかどうか」(あるいは、「いいお客さんにできるかどうか」)だと思うんですよ、大事なのは。


鮨水谷の悦楽 (文春文庫)

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