いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『ダンジョン飯』と「3DダンジョンRPG」と僕


こちらはKindle版。

内容紹介
九井諒子、初の長編連載。待望の電子化! ダンジョンの奥深くでドラゴンに襲われ、金と食料を失ってしまった冒険者・ライオス一行。再びダンジョンに挑もうにも、このまま行けば、途中で飢え死にしてしまう……。そこでライオスは決意する「そうだ、モンスターを食べよう!」スライム、バジリスクミミック、そしてドラゴン!! 襲い来る凶暴なモンスターを食べながら、ダンジョンの踏破を目指せ! 冒険者よ!!

夜中に目が覚めてしまって、なんか眠れないな、という状況で、Kindleの売上ランキングを眺めていたら、目に留まったこのマンガ。ついつい買って読んでしまいました。
タイトルと内容説明をみて思ったのは、「こんなマイナーというか、重箱の隅をつつくような内容のマンガが、Kindleランキングの1位になっても良いのか?」ということだったんですよね。


30年以上、「テレビゲームマニア」(というか、僕の個人的な主張としては、マイコンゲームからのマニアと、ファミコンから入ってきた人たちは、抱える「罪悪感」が違う、っていうのがあるんですけど。「マイコンは勉強に使える!」とか「将来コンピュータの時代が来る!」とか親に宣言してたし)をやっていると、『ダンジョン』という言葉が、多くの人に説明抜きで通じる時代になったことが、ものすごく不思議でもあるんですよ。
おそらく、『ダンジョン』がこれほど一般化(?)したのは、『ドラゴンクエスト』のおかげなんじゃないかな。


以下は、以前(2007年)に書いたものです(けっこう長いです。3行で言うと「ダンジョンRPGは、現時点では『Wizardry』にはじまり、『Wizardry』に終わっているのではないか」ということです)。

 コンピューターゲームの世界における「3DダンジョンRPG」のルーツにして集大成は、なんといっても『Wizardry』で、1981年にアメリカのSir-Tech社からApple2用に発売されたこのゲームは、「3DダンジョンRPG」のみならず、『Ultima』と並んで、「RPG」というジャンルそのものを切り開いた傑作でした。ここでも何度か書いているのですが、『ドラゴンクエスト』の堀井雄二さんは学生時代に『Wiz』にハマりまくっていて、『ポートピア連続殺人事件』のファミコン版のダンジョンには「もんすたあ さぷらいずど ゆう」という『Wizardry』の敵とのエンカウントのときに出る表示が「落書き」されています。


 そして、日本国内で、この「3DダンジョンRPG」の魅力を世に知らしめたのは、1984年に発売された、BPSの『ブラックオニキス』と、その続編の『ファイヤークリスタル』でした。当時の日本のマイコンの外部記憶装置はカセットテープが主流だった時代で、英語+高価なApple2+フロッピーディスクという『Wizardry』が「黎明期の日本のマイコンゲーマーたちの夢」だった時代に、この『ブラックオニキス』が日本語(しかもテープ版)で遊べる「3DダンジョンRPG」として当時のゲーマーたちに与えたインパクトは本当に大きなものだったのです。


 「3DダンジョンRPG」の歴史を語る際に、僕はここでちょっと考えこんでしまいました。もちろん、その後も「3DダンジョンRPG」というジャンルが完全に消滅することはないのですが、結局のところ、「3DダンジョンRPG」がコンピューターゲーム界で「主役」だったのは、この時期だけだったのかもしれません。


 その後も「3DダンジョンRPG」としては、海外では本家『Wizardry』の続編や『Might&Magic』シリーズなどが気を吐き、日本国内では『ファンタジアン』や、SF的なストーリーを取り入れた『ザ・スクリーマー』、ホラー調の『ラプラスの魔』、コンシューマーでもファミコンディスクシステムの『ディープダンジョン』、そして『女神転生シリーズ』などがヒットしてきましたが、RPGの主流は、「ウルティマ型」の「フィールド探索型」になっていきます。
 そして、「1つの巨大なダンジョンが『世界』であり、その奥に『ゴール』がある」というタイプの純粋な「3DダンジョンRPG」は、現在ではほとんど見られなくなりました。
 考えてみればそれも至極当然のことで、最初に「3DダンジョンRPG」が考え出されたひとつの理由というのは、当時のマイコン(そして、そのゲームを作る人々)には容量的な制約が厳しく、「ダンジョン」という「限定された世界」でないと描ききれなかったという面があったのです。


 「フィールド探索型」のRPGの魅力が「ストーリーを進めていくこと」「新しい世界を見つけること」であるのに対して、「3DダンジョンRPG」の面白さというのは、その世界のなかでのキャラクターの成長を愉しむという「システムに組み込まれる(あるいはそれを超える)喜び」でした。しかしながら、コンピューターの映像的な表現力が増すにつれ、見た目が寂しく、マッピングなどが必要で「作業的」になりがちな「3DダンジョンRPG」は、次第に衰退していきます。「ダンジョン」という概念そのものは「フィールド探索型」のアクセントとして残存しましたし、『ザナドゥ』のような「アクションRPG」を生むための土壌にもなったのですが。

 また、「ダンジョンという限定された世界を徹底的に描ききる」というコンセプトの『ファンタシースター』や『ダンジョン・マスター』というゲームも発売されました。


 しかしながら、「3DダンジョンRPG」には、今までのところ『Wizardry』を超えるインパクトを持った作品は出ていないのです。結局のところ、「3DダンジョンRPG」の基幹となるのは「キャラクターの成長システム」であって、それは、『Wizardry』の時点で完成されていたからなのかもしれません。僕が思うに、「3DダンジョンRPG」の楽しさ、「ゲームのシステム的な制約の中で最高の強さのキャラクターを作り上げる」あるいは、「迷宮の完璧な地図を完成させる」という行為って、「プログラミングの楽しさ」ひいては「コンピューターを扱う面白さ」にものすごく似ているのではないでしょうか。
 だから、初期のマイコンフリークたちは、「3DダンジョンRPG」に適応できる人の割合が高かったのだけれど、コンピューターの普及とともに増加してきた「ゲームだけできればいい」「メールとインターネットだけ」というようなライトユーザー層にとっては、「めんどくさいだけの面白くないゲーム」だと感じた人が多かったのかもしれません。
 『ダービースタリオン』とか『俺の屍を越えてゆけ』のような「システムに組み込まれるタイプのゲーム」はけっして滅んだわけではないので、潜在的なニーズはけっこうあるのではないかという気もしますが、「3DダンジョンRPG」にハマっていたような人たちは、もう、オンラインRPGに行っちゃってるのかなあ。


 『世界樹の迷宮』が、もっともライトユーザーが多いゲーム機であるニンテンドーDSでどんな評価をされるのか、僕はけっこう楽しみにしています。


 これからもう8年も経っているので、「答え合わせ」ができるところをしておくと、『世界樹の迷宮』は、メインストリームにはならなかったものの、根強いファンを獲得し、シリーズ化されて続いています。やっぱり便利ですよねオートマッピング
 で、「みんながオンラインRPG」に行くこともなく、こちらも、「一定の人気を保っている、ひとつのジャンル」となっている感じです。


 さてさて、前置きが長いのはいつものこととして、『ダンジョン飯』の話。
 内容紹介の、「『そうだ、モンスターを食べよう!』スライム、バジリスクミミック、そしてドラゴン!! 襲い来る凶暴なモンスターを食べながら、ダンジョンの踏破を目指せ! 冒険者よ!!」
 これを「ちゃんとした連載マンガ」に昇華してしまうなんて!


 僕は、マニアックなダンジョンRPG+ゲテモノグルメの組み合わせが、こんなに世の中に受けいれられている、ということが、すごく意外だったんですよ。
 もちろん、『Kindleランキングで1位になる」というのは、『大ベストセラー』とイコールではないのでしょうけど。
 昔からのRPG好きは、「RPGのキャラクターは、食事や排泄はどうしているのか?」とか、「死体を生き返らせるっていうけど、状況的にとんでもないことになっているのではないか?」なんていう話を、同好の士と一度と言わずに二度三度としたことがあるはずです。
 そのへんに真面目に取り組んで、「食糧を確保しないと飢え死にするゲーム」とか、「キャラクターがロストすると生き返らないゲーム」とかも世に出たのですが、結果的には、そういう「生活重視RPG」は、主流にはなりえませんでした。
 だって、めんどくさいものね。


 この『ダンジョン飯』って、そういう「ああ、僕も昔は『ダンジョン』というシステムに、こんなふうにツッコミを入れて面白がっていたなあ……」というのを、思いだしてしまうマンガなんですよ。
 ダンジョンの浅い層には、冒険初心者たちが集っていて、ワイワイガヤガヤやっている。
 「死体蘇生専門」で食べている僧侶、なんていうのもいたり……
 そういえば、オンラインの『ファイナルファンタジー』では、「辻ケアル」っていう、通りすがりの冒険者を快復させてくれる人がいるって聞いたことがあります。


 僕にとっては、このマンガの「グルメ」的な部分はけっこうどうでもよいのです(というか、実際の料理の参考にはならないのは百も承知で、大真面目に類似の食材の知識を動員して描かれていることには微笑ましくなってしまうのですが)。
 「ダンジョンなんて、あるわけないだろ!」(いやまあ、世界史的には、それらしい場所もあるんですけどね)、という「常識」に囚われずに、こういう「フィクションの世界を突き詰め、突き抜けてやろうという作品」が生まれ、それを喜んで読んでいる人がこんなにたくさんいるって、なんだかとても嬉しいなあ、と。


 30年前の自分に、教えてやりたいよ。
 お前が一生懸命「ATTACH」というわかるはずもない英単語を求めてひたすらいろんな動詞を入力しまくったり、牢屋で鉄格子を叩きまくったり、蛇の魔王をやっつけたつもりが自分が魔王になっちゃったりしながら通ってきた道の先は、袋小路じゃないのだ、ということを。



アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈2〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈2〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈3〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈3〉 (角川文庫)