いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「『ルパン三世』アニメ化50周年」の年に『カリオストロの城』をはじめて映画館で観てきた話


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 最近はこういうニュースを見るたびに、『カリオストロの城』を映画館で観ることができるのも僕の人生でこれが最後かもしれないな、という気分になるんですよね。
 飽きるほど観てきた映画なのだけれど、そういえば、これまで映画館のスクリーンで観たことはなかったのです。


 2週間限定公開の最終日の10月14日がちょうど休みだったので、朝から車で1時間かけて、いちばん近い上映館に行ってきました。
 平日の朝の回ということもあって、観客は5人。もったいないといえばもったいないけれど、『カリオストロの城』は『金曜ロードショー』でもう飽きるほど観たしな……という人が多いというのもわかります。
 僕も「自分がどのくらいこの物語を記憶しているか」を確認しに行くような感じでしたし。

 

あらすじ
世界的な怪盗ルパン三世一味はモナコの国営カジノの大金庫から大金を盗み出すが、それが真券同然の精巧さで知られる幻の偽札「ゴート札」であることに気づく。「偽物に手を出すなかれ」のルパン家の家訓に従い札束を撒き散らすように投げ捨てたルパンと次元は、ゴート札を標的としてその出処と疑われているヨーロッパのカリオストロ公国に向かう。


 この映画、1979年に公開されたのですが、僕がはじめて観たのはテレビ放映されたときでした(何回目かは不明)。
 観て、本当に感動したんですよ。

 世の中には、こんなに面白い映画というのがあるのか!って。

 当時の僕は、ひとりで映画を観に行ける年齢ではなかったし、親も映画に興味はなく、『ドラえもん』の第一作『のび太の恐竜』につき合ってくれたことがあるくらいだったんですよね。
 ビデオデッキが一般家庭に普及しはじめたのは1980年代半ばくらいですし、レンタルビデオショップがたくさんできるのはもっと先の話です。
 観たい映画を観るには、ひたすらテレビ放映を待つしかない時代だったのです。
 『スター・ウォーズ』がはじめてテレビ放映されたときには、長々と前説というか、テーマ曲のオーケストラ演奏とかまで行われ、「いつになったらはじまるんだ……」とジリジリした記憶があります。


 はじめて観た『カリオストロの城』は、ルパンの動きの面白さ、ヒロイン・クラリスの魅力、カリオストロ伯爵の悪党っぷり(しかし、今あらためて観ると、伯爵はけっこうモテそうだよな、とも思う)、時計塔でのクライマックス、そしてラストの恰好良さと清々しさ、もう、こんな完璧な映画があるのか!という感じでした。


 あれから何度も観ているはずなのだけれど、この映画だけは何度観ても面白いのです。

 あらためて考えてみると、はじめて観てから40年近く経って観てもやっぱり面白いってすごいよね。
 いま初見だと、さすがに「古さ」もあるだろうし、僕の場合は「思い出補正」もあるのだけれど。

 
 で、今回、久しぶりに観ての感想。

 冒頭の車で逃げているクラリスが追手に迫られているシーンで。


次元「どっちにつく?」
ルパン「おんな~!」


 こんなセリフに、いちいち、僕の「フェミニストに怒られそうセンサー」が反応してしまうことに苦笑。
 やたらとタバコを吸いまくり、遠慮なくポイ捨てするルパンと次元。
 いやほんと、時代は変わっていますよね。

 喫煙関係は、最近テレビで放映されているときは、けっこうカットされているシーンが多いのかもしれません。
 でも、ルパンと銭形警部が地下迷宮で同じタバコを一緒に吸うシーンとか、もうそれだけでふたりの距離感が伝わってくるんですよね。

 そして、風景描写がかなり丁寧にされていて、カリオストロ公国の雰囲気を見せるためのシーンが多いと感じました。

 次元と五ェ門が活躍する場面もそんなにないんですよ。とくに五ェ門。
 次元が「おっぱじめようぜ」と、クラリスのティアラをかぶって銃を撃ち、五ェ門が「今宵の斬鉄剣は一味違うぞ」と斬鉄剣を閃かせるシーン、なんだか観ていて泣けてきました。
 クラリスの魅力と二人の漢気、があの場面でけで伝わってくるのだよなあ。
 銭形警部の「ルパンを追っていて、たいへんなものを(ゴート札の製造工房)見つけてしまったぁ~」のわざとらしさには、なんど観てもニヤニヤしてしまいます。
 そして、40年以上経っても「政治的な圧力」みたいなものは変わらないよなあ、と感慨深いものがありました。

 この年齢になって観なおしてみると、結局のところ、『カリオストロの城』でのルパンって、いろんな工夫をして難題を解決しようとするのですが、ことごとくあと一歩のところで失敗しているんですよね。でも、そのたびに超人的な跳躍力や生命力で、なんとかしているのです。ルパンが伯爵を倒した、というわけではないし。あの指輪の謎も、むしろ「カリオストロに長年伝えられてきた言葉とあの指輪があり、みんな時計塔を観続けてきて、なぜ誰も答えに気づかなかったのか」と疑問になるくらいです。でも、あの「お宝」の「俺のポケットには大きすぎらあ」っていいながらルパンとクラリスが散策するシーンは、なんだかいいよね。やっぱり今みてもよかった。

 そして、ルパン自身がすべてを解決したわけではない、というのが、この『カリオストロの城』の面白さなのかもしれません。
 あの時計塔のシーンも何度みてもカッコいい。僕はこの映画のおかげですっかり「時計塔フェチ」になってしまい、『悪魔城ドラキュラ』とか『イース3』とかで、時計塔のシーンが出てくるたびにゾクゾクしてしまいます。ゲームで多く出てくるところをみると、この映画の影響を受けた人は、いろんなところにいるんでしょうね(時計塔のシーンのルーツがこの映画かどうかはわからないのだけど)。


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(↑のエントリ、『カリオストロの城』ファンの皆様はけっこう楽しめると思います)

 この映画があまりにもよくできていたがために、多くの人が『ルパン三世』=『カリオストロの城』というイメージを持ってしまった、という面もあるのです。


「BSアニメ夜話 Vol.01~ルパン三世 カリオストロの城」(キネマ旬報社)より。

(名作アニメについて、思い入れの深い業界人やファンが語り合うというNHK-BSの人気番組の「ルパン三世 カリオストロの城」の回を書籍化したものです。この回の参加者は、岡田斗司夫さん(作家・評論家)、乾貴美子さん(タレント)、大地丙太郎さん(アニメ監督、演出家、撮影監督)、国生さゆりさん(女優)、唐沢俊一さん(作家・コラムニスト)です。

岡田:あの、原作者のモンキー・パンチさんは、やっぱり、この『カリオストロの城』を、すごい評価しているんですけども、この後ですごくやりにくくなったと言っているんです。


国生:そうだと思う。


岡田:だってモンキー・パンチの原作版のルパンって、女を裏切るし後ろから撃つんですよ(笑)。


国生:そうそうそう。


大地:そうなの?


国生:そうなんです。


乾:いい人ですよね? この作品だと。


唐沢:悪人ですからね、もともとは。


岡田:この作品になったら、急に目がつぶらで、いい奴になってるんですよ。


唐沢:だからルパンではないんですよ、だから。


岡田:そう、はい。


唐沢:あの、はっきり言うとコナンなんですよね。


岡田:コナンです!


一同:あぁ~。


岡田:未来少年コナン』。


唐沢:この作品を語るときには、絶対にその前に、宮崎駿という人間は本当に無名っていうかね、よっぽどのアニメ好きでないと名前を覚えられていなかった、宮崎駿の名前は、あのコレ(『カリオストロの城』)でどんと出たんだけれども。実はその前に『未来少年コナン』という、NHKでやっていた作品があって、それで、そのファンたちがもっと宮崎駿を見たいと。あの、その後(『未来少年コナン』の後番組)で始まっちゃったのが『キャプテン・フューチャー』だったから。その宮崎駿の、あのコナンをもういっぺん観たいというような声に応えて、その『コナン』を作っちゃった。だから、そのルパンファンは、特に最初のファースト・ルパンの、特に前半の大隈正秋演出のルパンが好きだった人間とか、あるいはモンキー・パンチの原作が好きだったルパンファンにとっては、これは、もうルパンではない、と。女の子を抱かないルパン、最後にキスをおでこにするだけで帰るルパンは、これは原作を否定しているじゃないか、という声があったんです。


岡田:はいはい。


乾:大地さんは、このルパンをどう思います?


大地:いや、これがルパンなんだよ!


一同:(笑)。


 少なくとも後年は、原作者のモンキー・パンチさんも、『カリオストロの城』をリスペクトしていた、という話もあるのです。『カリオストロ』がなかったら、ルパンシリーズが50年も続いたかどうかわかりませんし。

 『カリオストロ』後のルパンをみていると、原作寄りのハード路線と、『カリオストロの城』の「いい人ルパン」の間をずっと揺れ動いている、という感じもするんですよ。どちらかに偏りすぎると、もう一方が「それは違うんじゃないか」と軌道修正をしながら続いてきたのです。


 もうすぐ50歳のオッサンが観た感想としては、とにかく面白い。どのシーンもすごく愛おしい。
 この映画って、本当に「作者はこれが言いたかった」みたいなテーマを思いつかないんですよね。
 だからこそ、これだけ長い間、多くの人に見続けられているような気がします。


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