いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

車を買うときに、販売店の「接客」をどれくらい重視しますか?



 このツイートに2万以上の「いいね!」がついて、大勢の人から、「車のディーラーでのさまざまな体験談」がコメントされていたのです。

 僕自身は、この7年くらい同じ車に乗っていて、ディーラーには定期点検と車検をお願いしているくらいのつきあいなのですが、7年前に比べると、ディーラーの「新車を売ろうという圧」がだいぶ下がってきているように感じます。それ自体は、めんどくささが減って、大変ありがたいことではあるのですけど。

 僕がこのツイートへの反応をみて驚いたのは、2021年でも、ディーラーの「接客」を「どこで車を買うか」の判断基準のひとつにしている人が大勢いる、ということでした。

 もう、20年以上の前の話になるのですが、大学時代、就職していた先輩に「車を買いに行きたいんだけど、ひとりだと不安だから、一緒に付いてきてくれない?」と頼まれたことがあるのです。

 先輩もまだ20代後半くらいでしたし、もし自分が販売店の人に強く勧められて困ったときに、誰か一緒にいたほうが助かる、と考えていたのでしょう。
 200万円くらいする買い物をする機会なんて、そんなに無いから、プレッシャーもあったと思います。

 ついていく僕のほうは、お世話になっている先輩の頼みでもあり、自分がお金を出さなくてもいい立場で新車を買う疑似体験ができるのは面白そう、という軽い気持ちだったのですけど。

 まず、某トヨタ(全然某じゃない)に行って、先輩が購入を考えている車をチェックしました。

 そこで、ディーラーの人とも話したのですが、これがもう、こちらがまだ若いというのをみて、冷やかしだと思ったのか、ものすごくぞんざいな態度で対応され、「どうせ買わないんでしょ」と考えているのが伝わってくるのです。試乗も「ちょっと今日は無理ですねえ」でした。

 「お前がいなかったら、文句言って出てきたかもしれん」と先輩も呆れていました。普段着ではありましたが、そんなにヘンな格好でもなかったと思うのですが……

 次に先輩は、もう一台候補として考えている車がある、ということで、ホンダのディーラーに行ったのです。
 そこの店員さんは、まさに神対応でした。
 ぜひ乗ってください、触ってください、と勧められ、熱のこもった説明もしてくれました。かなりの値引きもありました。
 
 提示された価格は、少しホンダの車のほうが安いくらい。
 
 先輩は「とりあえず、検討してみます」ということで店を出てきて、しばらく悩んでいました。
「どっちがいいかなあ……接客は圧倒的にホンダのほうが良かったけど、性能はあまり変わりがない……ただ、ホンダのほうは内装がちょっと安っぽい感じがしたんだよなあ……」

 後日、先輩から、「結局、トヨタの車にした」というのを聞いて、僕は思わず聞き返しました。

「えっ? でも、買いに行ったときの感触では、ホンダのほうが良い感じじゃなかったですか?」

「うーん、ホンダの人のほうが、圧倒的に感じは良かったし、あっちで買いたいなあ、とは思ったんだけど、やっぱり、車そのものはトヨタのほうが好きだったんだよねえ」

 僕はこの結果を聞いたとき、「なんで?」と思ったので、いまでもよく覚えているのです。

 でも、あらためて考えてみると、トヨタの担当者がいくら感じ悪くても、乗るのは車であり、担当者に会う機会なんて、そうそうあるものじゃないのですよね。

 200万くらいする買い物をするのであれば、担当者の接客の良し悪しよりも、「商品」そのもので判断したほうが「合理的」なはずです。

 もちろん、メンテナンスのときの担当者の対応とかは大事ではありますが、ディーラーに頼むと割高になる、という場合も多いし、「人」で判断しても、異動になったり辞めてしまったり、ということもよくあります。


 定食屋や衣料品店なら「人や雰囲気」で決めるとしても、車やマンションは「接客よりも商品そのもの」を重視すべきではなかろうか。
 にもかかわらず、世の中では、価格が高いものほど「接客」が判断の大きなウェイトを占める人が多い気がするのです。


fujipon.hatenadiary.com

 この本に出てくるレクサスの販売店のように「本当に高級なものは、商品も接客も充実している」のがベストではあるとは思うけれど。
 とはいえ、レクサスを買うお金を持つのは、かなり大変だし、高級車にどのくらいの価値を見出すか、というのも人それぞれですよね。
 僕は基本的に車の運転が苦手であまり好きじゃないのと、大きな車は駐車やすれ違いのときにストレスを感じるので、安全性が高くて、大きすぎない、燃費が良い車がいい、と考えています。

 冒頭のツイートへの反応の中には、「酷い対応をしたディーラーのところに、別の車を買って乗りつけてやった」なんていう話もあるのですが、それはそれで、「復讐のために、何百万も使って、本来買いたかったものではないものを買う」という行為に疑問も感じるんですよ。

 嫌な奴から買いたくない、というのは、ものすごくよくわかるんだけれども、金額が大きいからなあ……


www.businessinsider.jp

 アメリカの自動車会社『テスラ』は、販売店を持たずに車を売っているのですが、ちゃんと売れているんですよね。それも、予約してもしばらく待たなければならない、というくらいに。
 
 最初は「実物を販売店で見ることができない(テスラは有名人やお金持ちが大勢乗っていて、それが走る広告になっている面はあります)、店員さんの説明も聞けない」という状況で、車のような高いものが売れるのだろうか?と疑問だったのですが、実際に売れているわけです。


www.tesla.com


どうやって買うのだろう、と思って検索してみたのですが、サイトを眺めていたら、僕も欲しくなってきました。
Model Sの購入価格が1000万円オーバー!納車は今オーダーしても2022年!
これは僕には無理だった……

もちろん、現時点ではトヨタやホンダやフォードのような台数が売れる車じゃないし、希望すれば試乗もできるみたいなのですが、商品に魅力があれば、「接客よりもイメージやクチコミで売る」時代になりつつあるのかもしれません。

逆に、そういう時代になりつつあるからこそ、「接客をより重視する」という戦術もありうるのでしょうけど。
ツイッターでの印象では「車のような高い買い物だからこそ、売る人をみて判断する」という顧客は、まだまだ多いみたいですし。


おそらく、ワクチン接種によって、新型コロナウイルスの感染拡大も小康状態から収束に向かっていくと思うのですが、コロナ禍は、「それで食べている人が大勢いたので、リモート化、あるいはAIを利用してコストダウンできるにもかかわらず、なかなか縮小できなかった仕事」を、一気に合理化、効率化してしまったようにみえます。

新型コロナが収束すれば、前のように、薬品メーカーのMRさんたちに、外来中に面会を求められたり、廊下で新製品の説明のために追いかけ回されたりすることになるのだろうか。
洋服屋では、「お似合いですよ」攻撃に、内心「似合ってないよこれ……」と毒づくことになるのだろうか。

僕が濃厚な接客が苦手、というのが前提にあるのだとしても、コロナ後も「元通り」というわけにはいかないと思うんですよ。

みんなが内心「めんどくさいなあ」と思いながら慣習として続けていた「義務的なコミュニケーション」は、たぶん、コロナ以前と同じには戻らない。

感染リスクが高い仕事をやっているし、飲食店の営業時間の短縮、カープ無観客試合など生活上不便なところもあるのです。

でも、僕はけっこう、コロナ禍の会議も飲み会も激減し、インドアが肯定される生活が自分には向いていると感じずにはいられないんですよね。


fujipon.hatenablog.com

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