いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「アンケートの多い料理店」に、うんざりしている。


 先日、某うどん店(というか、丸亀製麺)で夕食を摂ったときのこと。
 期間限定メニューの「肉玉あんかけ」を注文しようとしたところ、店員さんが「お客様、それでしたら、こちらのセットメニューだと、お値段はうどんだけのときと同じで、天ぷらが3品(エビ、かぼちゃ、半熟卵)もついてきてお得ですよ!」とアピールしてきたのです。
 天ぷら3品!と、僕もそのお得感に押され、「じゃ、それを」と注文しました。

 しばらくの待ち時間のあと、運ばれてきた熱々の肉玉あんかけと天ぷら3品。
 ところが、件の店員さんは、商品とともに、アンケート用紙とボールペンを持ってきたのです。
「こちら、新商品のアンケートになりますので、ご協力ください」
 有無を言わさぬ雰囲気でした。
 僕が露骨に嫌そうな顔をしたのが伝わったのか、その店員さんは、「この紙に、ちょちょっとチェックを入れるだけですから。よろしくお願いします。書き終わったアンケート用紙と食べ終わったあとの器は、ここにそのまま置いていってもらって結構なので」と言い残して、去っていきました。

 うどんと天ぷらは美味しかった。うどんだけの価格で、天ぷらが3品もついてくるのは、たしかに「お得」ではあるのでしょう。
 でも、僕は食事をしながら、ものすごく不愉快で、イライラしていた。イライラしにくくなる(らしい)漢方薬を飲んでいなかったら、爆発していたかもしれません。

 とりあえず、食べ終わったあと、ちゃんとアンケートも丁寧に書いて、店を出てきたんですけどね。
 たぶん、この店には、もう二度と来ることはない。

 僕は丸亀製麺に、うどんを食べに来たのです。アンケートに答えるために来たのでも、新商品のモニターとして来たわけでもありません。
 答えさせる側にも、たぶん、ノルマみたいなものがあるのだろうし、これだけ天ぷらをサービスしているセットを食べさせてあげるんだから、アンケートくらい答えろよ、ということなのかな。

 その場では言えなかったし、言わなかったけれど、僕は、すごく不愉快でした。
 僕の夕食を台無しにされた、とさえ思いました。
 『孤独のグルメ』じゃないけれど、僕にとってのひとりでの食事というのは、リラックスしたい時間であって、余計なことを押し付けないのも、店の「サービス」の一部のはず。
 僕は、「天ぷら3品」のためにアンケートを強引に書かされるくらいだったら(あるいは、アンケートをお願いされるくらいだったら)、普通の肉玉あんかけを注文します。天ぷらを食べたかったら、その分のお金も払います。食事の時間にやりたくもない「義務」を課せられることに比べれば、食べ終わったあとの器を返却場所に持っていくことくらい、大した手間ではありません。

「食べる」という行為のなかに「感想を考えながら」というのを混ぜると、全然楽しくなくなってしまう。ここが三ツ星のフランス料理の店であれば、シェフが「本日の料理はいかがでしたか?」と挨拶に来るのもセレモニーのひとつとして受け入れるし、あらかじめ、「アンケートに答えていただくと1品おまけ!」みたいなアナウンスがなされているのなら納得します(もちろん、そんな商品はオーダーしませんが)。あるいは、友達の店に来て、新メニューを「試してみてくれる?」と頼まれれば、それなりに考えて感想を言います。

 アンケートって、答えさせる側にとっては「たいした手間じゃない」のかもしれないけれど、答える側には「こんなめんどくさいことはまっぴらごめん」という人だっているんですよ。正直、値引きもサービスもしなくていいから、アンケートなんて持ってくるな!と叫びたい。頼んだものを普通に持ってきて、食べさせてくれれば、それでいい。僕の食事の邪魔をしないでほしい。

 新製品の感想を聞きたい、という気持ちはわからなくもないけど、それはもうメニューに載せる前に開発段階でモニターしておくべきだろうし、客の食べっぷり(食べ残しの量)やオーダー数で、ある程度判断できるはず。それこそ、SNSで感想を検索すればいい。
 丸亀製麺のような、カジュアルに食事できるのがセールスポイントのはずの店で、なんでこんなめんどくさいことを「天ぷらつけるから、食器は片づけるから」と、別に求めてもいない「サービス」を押し付けられて、半ば強引にやらされなければならないのか。
 僕の「感想」は、そんなに安くないというか、僕にとっては、このくらいのサービスでアンケートを書かされるのは「割に合わない」し、飲食店へ食事に来たのに、代金を払ったうえに、頭と手まで使わされたくはない。なぜ、客として来て、お金も払っているのに、余計な負担を課そうとするのか。こちらがやりたくないことを強引にやらせようとするのか。そもそも、そこまでして書かせられたアンケートに「客の本当の感想」が反映されているとは思えないのだけど。

 こんなにムカついたのは、その何日か前にも、『餃子の王将』で、月替わりの限定メニューを頼んだら、アンケート用紙を持ってこられたから、でもあるのです。それは「良かったらお願いします」と料理と一緒に置かれただけなので、白紙のまま置いてきましたが。書かなかったのなら良いじゃないか、と言われても、「頼まれたことを無視する」というのは、なんだかちょっと悪いことをしたかな、という感情も残るんですよね。

 煩わしいアンケートを頼まれるのであれば、新商品なんか注文しなかった。

 こういうのって、その企業の製品開発部とか、広告代理店とかのアイデアで「現場のお客様の声を聴いて、商品に反映させよう」という目的で行われているのだろうけど、店の都合で行われる「簡単なアンケート」が、どのくらい客をうんざりさせているか、想像したことはないのだろうか。こういうのを「良いアイデア」だと思い込んでいる人たちは、街頭や飲食店に氾濫しているアンケートに、すべてニコニコしながら答えているのだろうか。発案者は、現場で、「こっちはご飯を食べに来ただけなのに、アンケートとかめんどくさいこと言ってくるなよ……」と、うんざりしている客の顔を、見たことがありますか? 見たことがなくても、想像くらいできませんか?

 丸亀製麺の場合は、「かなり強引にアンケートを書かされた」というのがさらに不快だったのです。ほんと、メニューに「これを注文すると、アンケートに答えていただきます」と明記しておいてくれないかね。そんなメニュー、絶対に頼まないから。いや、そんな店にはもう行かないから。
 テーブルに「何か御意見があればどうぞ」と黙って置かれているアンケート用紙くらいは、僕も許容しています。何か言いたい人、何か言いたくなる状況だって、あるかもしれないので。
 でも、あのときの丸亀製麺は、ちょっと酷すぎた。
 店員さんが一生懸命だったのは伝わってきました。しかし、自分がやりたくないことを逃げ場を塞がれた状況で熱心に勧められる状況って、僕にはつらすぎる。

「僕はうどんを食べに来たのであって、アンケートを書きに来たんじゃない」

 その場では言えなかったから、こうしてブログで憂さ晴らしをしている陰険な僕ですが、「客としての本当の意見」は、「アンケートを強引に書かせて、サービス向上や未来のお客様に活かすよりは、いま、目の前にいる客を、こんなことで不快にさせないでほしい」です。

 
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