いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

とある中年男の「眠り」と「イライラ」と「化学物質で制御される自分の『こころ』」



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 伊藤計劃さんが亡くなられたのは2009年ですから、もう10年以上経つんですね。

 僕もここ数年、いくつか薬を飲みながら生活しているのです。40代後半ともなれば、「そういうもの」ではあるのでしょうけど、健康診断の時期になるたびに「自分はまだ心電図とか胃カメラの対象じゃないな、年齢が上がってくるといろいろ検査が多くなって大変だな」と思っていたはずなのに、いつのまにか自分が「その対象」になっているのです。
 僕の両親は、ともに50代で亡くなったので、自分の余命、みたいなものも考えます。いや、考えるだけで、深刻に還暦を迎えられない、なんて意識しているわけじゃないんだけど、でも、たぶん、僕の両親もそうだったはず。

 話を戻すと、しばらく前から、血圧の薬と胃薬、ときどき腰の痛み止めを内服しているのですが、最近になって、睡眠薬とイライラするのを抑えるという漢方薬も飲むようになりました。こちらは、完全に定期、というわけではなくて、状態に応じて、なのですが。

 医療業界というのは、メンタルがきつくなることが多いし、当直や早出、休日・夜間の緊急呼び出しなど、勤務時間が不安定になりやすく、眠剤や安定剤を使っている人が多いのです。
 僕はそんななかで、ずっと、薬を使うほどではなく、慢性的に低空飛行、という感じだったんですよね。むしろ、低空慣れしているので、薬を飲む機会がなかったというべきか。

 眠れないことは多かったのですが、夜中の緊急呼び出しの際に、眠りこんでいて反応できなかったらどうしよう、と不安になり、眠剤も使っていませんでした。正直、「薬の力で眠ってしまうこと」に、「酔っ払ってヘンなことをするんではないか」というのと同じような心配もあったのです。

 ただ、最近は夜間の呼び出しが(ほとんど)無い職場で働いているのと、「眠いはずなのに寝つきが悪い」ことが頻回にみられるため、軽い眠剤を使うようになりました。
 僕の場合は、1錠飲むと翌日の昼間に眠くなって仕方がないので、眠る前に半錠だけ内服しています。
 使ってみると、けっこう便利なものではありますね。
 たぶん、飲まなくても眠れるのだろうけど、自分の眠りをある程度コントロールできるというのは、だいぶ気がラクになるんですよ。
 眠れないことで、「こんな睡眠不足で明日起きられるだろうか、うまくやれるだろうか」と不安になり、さらに眼がさえてしまう、という悪循環に陥ることもない。

 明日は大事な用事があるから、遅刻しないようにしなければ……とか、考え始めるとかえって眠れなくなるので、絶対にやらなければならないことは済ませて、あとは薬を早めの時間に飲んで、眠気が訪れるのを待つ。眠剤って、飲むと即座に眠れるのかと思いきや、僕の場合は、分量や慣れもあるのか、効くまでにしばらく時間がかかります。その間に、本を読んだり、ネットで動画を見たりして過ごしています(本はともかく、「眠くなるまでスマホ」は、本来、あまり睡眠の習慣にとってはよくないみたいですが)。

 あと、カッとなりやすかったり、イライラが抑えられなくなることが多いのを自覚していたので、とある漢方薬を内服するようになったのですが、劇的に効く!人格が変わった!なんてことはないものの、内服していると、自分のなかで、怒りメーターが跳ね上がりそうになったときに、コツン、と見えない天井に当たって跳ね返され、沸点には至らない、という感じになるのです。
 正直なところ、それが薬の効果なのか、そういう薬を飲んでいるから、という自己暗示が大きいのかはわからないのですが、とりあえず、だいぶラクにはなりました。


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 長年、このくらいの「眠れないことがある」や「イライラしやすい」ことに対して、薬を使うべきなのか?もっと日中にしっかり動いたり、カフェインを控えたり、精神的に成熟するほうを選ぶべきではないのか、と思っていたんですよ。
 でも、実際に薬を使うことを学んでしまうと、「なぜ、もっと早く頼らなかったのだろう」という気もしてきます。まあ、当直や急患対応がある病院では、「頼りたくても起きられない不安もあるので使いにくい」という悪循環もあったわけですが。

 血圧やコレステロールが高かったら、それによる合併症を防ぐために薬を使うのは当然だと思っていたのに、精神的な不安や不眠(というより入眠困難、と言うべきでしょうか)に対しては、なんとなく「罪悪感」みたいなものがあったんですよ、僕の場合。薬を使ったり処方したりするのが仕事なのに。
 「こころ」というものに対する聖域感、みたいなものがあったのかもしれません。

 ところが、人間の「こころ」だと思われているものは、けっこう簡単に化学物質の影響を受けてしまう。良くも、悪くも。
 もちろん、僕が困ってきたことは、伊藤さんが経験した癌の苦痛に比べれば、たいしたことではないのでしょう。
 それでも、「ああ、やっぱり僕も、睡眠薬とか漢方が『効いてしまう』人間なのだな」という発見というか、ちょっとがっかりするところはありました。いや、ものすごく重宝してはいるんですけどね。飲んでいると、「ああ、今、薬を飲んでいなかったらヤバかった」とか思うこともありますし。

 なんだか薬のステマみたいな話になってしまいましたが、世の中には「悩むよりも、眠剤飲んで寝てしまったほうがマシ」な物事や状況って、少なからずあるし、あったはずだった、というのが今の僕の実感です。
 化学物質に「こころ」を動かされるなんて、とは言うけれど、もともと人間を動かしているのは体内の化学物質ではありますし。
 これが正しい、というのではなくて、困っているのであれば、ひとつの手段として、「薬を使う」というのも選択肢として持っておいて良いのではないかと思うのです(とはいっても、違法薬物はダメ!絶対!)


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 あの椎名誠さんだって、長年、不眠に苦しんできたのだから、僕が自分の精神力でなんとかできるとか考えるほうが傲慢だよね……


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