世の中には「自分は人を見る目がある」「あなたがどういう人かわかる」と公言する人が少なからずいる。それを鵜呑みにしてしまう周囲の人もいる。
僕の個人的な見解としては、そういう人の大部分は「本人に見る目があると思い込んでいるだけ」か、「分析の成功例を周囲にアピールするのに長けているだけ」のことが多い。当たる占い、みたいなものだ。
ただ、「この人の占いは当たる!」と周囲に思わせるのも、才能であり、成果ではある。
人のことなんて、わからないし、友達やパートナーと加齢や立場、状況の変化で噛み合わなくなることは、全然珍しくない。
昨日、寿司屋のおかみさんが書いた本を読んだのだけれど、夫である寿司職人が、常連さんになかなかツケを請求できなかったのをみた著者が、その常連さんに、きっちり支払いを求めた話があった。著者は夫と結婚するまでは銀行に勤めていて、お金のことはちゃんとする主義だったそうだ。
実際のところ、「気が合う」とか「付き合いやすさ」と、「その人との関係を長く続けることができるかどうか」は、必ずしも一致しないことが多い。
寿司屋の大将は「ツケを請求するなんて粋じゃない(あるいは、仲良しの常連さんにお金の話をしにくい)」けれど、そのお金を請求しなければ、大損になってしまう。だから、おかみさんが代わりに言ってくれて、心底ありがたかったはずだ。
もちろん、「全然噛み合わない」というケースどうしようもないと思うけれど、友人・パートナーとしては、「価値観は近いが、得意なことや趣味、こだわっていることは違う」ほうが、長続きしやすいし、お互いにとって有益なのではないか、という気がするのだ。
愚者は自分に似た人を友とするが、賢者は自分にできないことができる人を友にする(いま僕がつくった)。
気が合う人の集団というのは、閉鎖的になりやすく、お互いに「もうこのくらいでいいよね」と妥協しやすくなる。もちろん、気安い友だちが悪いってことはない。リラックスするためには必要な存在だけれど、「権力者をいい気分にさせることにだけ長けた無能な人」によって破滅した組織や権力者はたくさんいる。
アップルの創始者、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックの組み合わせなんて、傍からみたら、「どうしてこの2人が友達なんだ?」というものだったように思う。
それでも、2人は終生、お互いを尊重していた。相手が自分にできないことをできる人間だと理解していたから。
Googleについて書かれた本を読んでいて思うのは、「真の多様性の尊重」なんていうのは、「自分にしかできないことがある」という自信がある人たちの集団でしか実現できないのではないか、ということだ。
気が合う、似たものどうしというのは、逆にお互いの些細な違いが目についてしまうところがある。
そして、これは僕自身がそうなのだけれど、自分がある人を人間的に「好き」になって、この人との関係を大事にしたい、と思えば思うほど、距離を縮めていくのが怖くなることもあるのだ。
ヘタに馴れ馴れしくして、嫌われたらどうしよう、とか考えてしまって距離の取り方がわからなくなり、関係が壊れてしまうくらいなら、いっそ、このまま相手に触れないほうがいい、と、どんどん疎遠になってしまう。「疎遠」は、「断絶」よりもマシだから。
嫌われたくないから、大事に思っているから、かえって距離を置いてしまうのだ。
言い方は悪いかもしれないが「失っても怖くない人間関係だから、リラックスできて、円滑にコミュニケーションできる」という面はあるんじゃないかと思う。
それに、人間関係なんていうのは、あれこれ観察して分析するヤツよりも、「人間大好き!どんどんお話しましょ!」みたいな人が最初は有利になりやすい。
僕のようなコミュニケ―ションに慎重で(怠惰で、ともいえる)、受け身のタイプにとっては、向こうから積極的に来てくれるほうが、組み合わせとしてやりやすい、というのもあるのだ。漫才のボケとツッコミみたいなもので、ボケのほうがボケの気持ちや役割はわかりやすいはずだけれど、ボケ同士では漫才のコンビとしてはうまくいかない。
冒頭の増田さん(『はてな匿名ダイアリー』の著者)は、「人を見る目がない」のではなくて、「自分が好きなタイプと、ずっとうまくやっていけるタイプは同じではない」ということを受け入れるだけで良いのではないだろうか。
僕自身、こうしてそれを「理屈」として理解できるのだが、「好きな人と、疎遠になってしまいやすい」という傾向はいまだに続いているし、他人とか友情というものは、いまだによくわからない。
そういう意味では、いま、そういう自分に疑問を持てる増田さんには共感できるし、「自分は人を見る目がある」と確信していられる人よりも、ずっと「普通」だし、「わかっている、に近い人」なのだと思う。
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