いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『連ちゃんパパ』と「人間のクズ」という最強のコンテンツ


『連ちゃんパパ』というマンガが、ステイホーム生活のなかで、けっこう話題になっていた。


www.mangaz.com
(こちらは2020年7月31日で、削除されるようです)


こちらはkindle unlimited版

パチンコ狂いの妻が突然の家出!!残された息子と二人、妻を探して日本中を巡る放浪記。300万の借金に残高のない預金。強面の借金取りに追い立てられながら、わずかな手がかりを元に妻を探して日本中を旅回り。少ない軍資金で日本中を旅するには…パチンコしかない!!妻に付き添い門前の小僧となっていた息子のナビで、パチンコしながら旅費を稼いで手がかり探して行脚の道のり。追いかけて来た借金取りから逃げながらも父子二人の旅は続く!!


 パチンコ依存で借金をつくって家を出てしまった妻を探しに、ひとり息子と旅に出た高校教師が、自らもパチンコにハマってしまってダークサイドに堕ちていく、というマンガなのですが、ほのぼのとした絵柄で繰り広げられるクズエピソードのオンパレードに、「なんなんだこれ……胸糞悪いな……」と思いつつ、最後まで一気読みしてしまいました。
 クズな人生を安全地帯から眺めるのって、けっこう楽しいんだよね、困ったことに。
 まあ、自分がいるところが「安全地帯」だと思っていたのは、このパパも同じだったのかもしれないけれども。

 ちなみにこのマンガ、1994年から1997年まで『パチプロ7』というパチンコ雑誌に連載されていたそうです。
 こんなの載せると読者がパチンコから離れてしまうのではないか、と思うのですが、これだけ長い間連載されていたということは、それなりに評判が良かったのか、それとも、パチンコ雑誌の連載漫画は、内容をあまりチェックされないものだったのか。映画の世界でも、エロとホラーは規制が緩くて、低予算で新しい表現をしたいクリエイターの作品発表の場になっていた、という話もありますし。

 人というのは、激烈なクズの話を読むと「まあ、オレは、こいつよりはマシだな」と安心できる、というのもあるのかもしれませんね。
 この連ちゃんパパ、絵柄はほのぼの感あふれるキャラクターなのに、やっていることは酷い。そして、息子は善良なのだけれど、せっかく人生をリセットしてやり直そう、という状況で「肉親の情」を発揮して、周りを巻き込み、また泥沼に叩き落としてしまうのです。
 こういうのは、よくある話だよなあ、と思わずにはいられません。
 もちろん、子どもが悪い、ってわけではないのだけれど。


 というようなことを書くと「リアルなギャンブル依存症告発マンガ」みたいな印象を持たれるかもしれませんが、そういう面もあるけれど、奇跡的なエピソードでパパが何度も窮地から救われたりもするので、安達祐実さん主演の『家なき子』みたいな感じの「ジェットコースタードラマ」として消費されていたのかもしれませんね。調べてみたら、『家なき子』は1994年に放送されていますし。あるいは、大映ドラマの系譜か。
 このマンガの作者も「娯楽として楽しんでほしい」というようなコメントをしていた記憶があります。
 
 ただ、いささか過剰ではあるとしても、こういう「借金があたりまえになってしまう感覚」とか、「金のためなら、人を騙すことも厭わなくなる」というのは依存症の現実であり、ようやく抜け出したと思っても、ちょっとしたきっかけで、また元の沼にはまってしまう、というのも事実だということです。
 
 最近は、パチンコに関しては、昔のような勢いはなく、パチプロを名乗る男が「今日の稼ぎだ」を札束をヒラヒラさせたり、台の後ろに球が詰まった箱が山積みされていたりするのをみると、「25年前は、ハイリスク・ハイリターンの時代だったんだなあ」と感慨深いものもあります。いまは、「ハイリスク・ローリターンの時代」ですし、パチプロと呼ばれていた人たちも、多くは廃業してしまったようですが。


fujipon.hatenadiary.com


 僕自身、パチンコにハマっていた時期があったのですが、その時は、正直、「こんなにダメな自分」に、酔っていたような気もするのです。
 人間には、ダメになってはいけない、という理性と「ダメになってしまいたい、という破滅願望みたいなものが同居していて、一度「クズ方面」に天秤が傾くと、ブレーキが効かなくなる、あるいは、そういう人間から身ぐるみ剥ごうとしている人のトラップから抜け出せなくなるのです。


 不倫しまくっている有名人の「クズ」っぷりはネットでは格好のネタなのですが、外野の声をスルーできれば、人から後ろ指を差されまくっても、人生で快楽を貪ろうとするほうが幸福ではあるのかもしれません。
 まあ、芸能人の場合は、「他者からの評判」が、モテるためには不可欠なので、そう簡単にはいかないと思いますけど。
 
「オレはどうせクズだから」と開き直ってしまえば、「正義の言葉」は届かない。
 むしろ、「良心」が残っている人のほうが、クズであることを全うできず、傷ついてしまいやすい。


 ん?『連ちゃんパパ』の話をしていたはずなのだが……


 真面目に生き抜く、っていうのは、けっこう難しい。
 それはそれで、「面白くないヤツ」だと周囲に言われることもある。
 ネットでは、いろんな人が「人間のクズ」だと叩かれているけれど、僕はときどき思うのです。
 でも、こういうクズがサンドバックになってくれるおかげで、ちょっとスッキリしている人も、少なからずいるんだよな、って。

 「人間のクズ」は、メディアというものが生まれた時代から、ずっと、貴重なコンテンツだった。

 自分の配偶者がパチンコ依存になったらシャレになりませんが、有名芸能人が不倫したところで、われわれは1円も損しない。テレビに出るな、とは言っても、こちらには「テレビを消す自由」もあるのに。
 SNSで、「子どもが小さいときに不倫なんて酷いよね」と言いながら、内心自分の所業にヒヤヒヤしている人だって、大勢いるはず。

 人間、なにがしかに依存しないと生きていけないのではないか、と僕はずっと思っていて、できれば、その対象が金銭的にも人間関係的にもなるべく害が少ないものであるようにしたいのです。

 でもまあ、ほんと難しいよね。世の中の潮目というのも。
 「ギャンブル好き」「浮気・不倫しまくり」は人間のクズだけれど、「ギャンブル依存」「セックス依存」になると「病気」だから、病人として慎重に扱わなければならないのだろうか。

「連ちゃんパパ」は、「これはひどい」というマンガなんですけど、「ひどいものを見るためにページをめくる手が止まらなくなる自分」のことも考えずにはいられなくなるのです。


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