いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

マクドナルドの『フィレオフィッシュ』をはじめて食べてみた話


 先日、塾帰りに長男とマクドナルドに寄った。
 ドライブスルーで、何を注文しようか、なかなか決められなかったのだが、「ご注文は?」と問われて、ふと口から出たのが「フィレオフィッシュのセットで」だった。
 僕がはじめてハンバーガーを食べたのは中学生の頃だったから、もう35年くらい前になる。
 当時はマクドナルドのハンバーガーはけっこう高価なイメージがあって、これなら、ほかほか弁当のほうがよっぽどお腹いっぱいになるな、と思った記憶がある。
 その後も、コインで答えを削るクイズ企画のときは、みんなで並んで「コカ・コーラS」を注文してクイズの用紙をゲットしたり、ハンバーガー100円の時代には、部活でハンバーガーだけを大量購入したりしていたものだ。
 個人的には「付き合いは長いが、どうもハンバーガーだと食事をした気がしない」ので(10年くらい前にハワイで食べたハンバーガーは、レストランで出てくるようなハンバーグが挟まれていて、さすがにこれは食べ応えがあるな、と思ったけれど)、自分から行くことはあまりないのだけれど。

 僕はもともと肉>魚派でもあり(というか、けっこう長い間、魚料理が苦手だった)、フィレオフィッシュに対しては、「なんでハンバーガー店に来て、わざわざ魚フライを注文しなきゃいけないんだ?」と懐疑的なスタンスを取り続けていたのだ。

 でも、最近、40代後半になると、今日は魚もいいかな、と思う日が出てきた。そんな変化は自分には起こらないはずだったのに。

 そして、最近読んだ、この本のなかに出てきた話が、けっこう印象に残っていたのだ。


fujipon.hatenadiary.com


(プロレスラーで、現在はラーメン店『麺ジャラスK』を経営されている川田利明さんの著書より。川田さんが、ジャイアント馬場さんの付け人をされていたときの話です)

 馬場さんはかなりのグルメだったけど、「面白いな」と思ったのは世界中の美味いものを食べつくした人は、結局、庶民的な食べ物に回帰するんだな、ということ。
 ある時、突然「マクドナルドのフィレオフィッシュを食べたんだけど、こんなに旨いものがあったのか?と馬場さんが言い出した。たしかに旨いけど、「世界一旨い!」と言われると、ちょっとびっくりする。
 でも、馬場さんは本気でそう思っていたようで、それからはホテルから試合会場へと向かう途中、選手を乗せた移動バスは必ずマクドナルドに寄るようになった。車中で馬場さんが食べるフィレオフィッシュを買い込むためだ。旨いもののゴールなんて、本当にどこにあるかわからない。


 僕はこれを読んで、そうか、そういうものなのか……と思ったのです。それにしても、馬場さん、フィレオフィッシュを何個くらい食べていたのだろうか。

 『美味しんぼ』とかで、大金持ちの登場人物がシンプルなご飯とみそ汁に感動する話を読んで、なんとなく腑に落ちなかったのです。
 でも、ジャイアント馬場という実在の人物にも、こういうことがあったというのを知ると、僕も「フィレオフィッシュって、本当はすごく美味しいのではないか?」と思えてきたんですよね。

 そこで、ついにマクドナルドで、これまでの自分の決まり事を破り、「ハンバーガー店でフィレオフィッシュ」を注文することになったのです。
 ちょうど、あんまりお腹が空いていなかった、というのもあって。

 で、マクドナルドのフィレオフィッシュをはじめて食べてみての40代後半男の感想なんですが、

 「ま、こんなもんかな」

だったんですよ。
 見た目通りの味で、ずっと同じ味が最初から最後まで続くので、最後のほうは「やっぱり、ハンバーガー屋ではハンバーガーだな」と思いました。

 まだ、今の僕では「食を極めた者が達する境地」には程遠いみたいです。


1964年のジャイアント馬場 (双葉文庫)

1964年のジャイアント馬場 (双葉文庫)

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