いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「『発達障害』の診断名はつかないけれど、社会生活がうまくいかない」という人のための生存戦略


anond.hatelabo.jp


 このエントリが目に留まったので、役に立つかどうかはわからないけれど、僕に書けることを書いておきます。

 もし、この人が必要としているのが「発達障害」(あるいは、その他の精神的な疾患)の診断であるのならば、他の専門医を受診してみれば、診断名はつけてもらえるかもしれない。
 ただ、僕は「病名をつけてほしい」というより「社会生活がうまくいかない」「仕事がつらい」という話なのだろうなと感じたので、それについて思ったことを書きます。

 こういう事例で、できることは、大きく分けると2つしかありません。
 自分を変えるか、環境を変えるか。
 可能であれば、両方変える。

「自分を変える」というのは簡単ではないけれど、今は、さまざまなサポート機器もあります。
 僕はスケジュールが「抜けて」しまって長年困っていたのだが、スマートフォンに詳細なスケジュールを入れるようにしてから、だいぶマシになった。なんのかんの言っても、スマートフォンは「楽しさ」と結びついているので、そう簡単には手元から離さないし。

 
fujipon.hatenadiary.com


 この本は、けっこう参考になるのではないかと思います。
 著者の借金玉さんは、振れ幅が大きい発達障害を抱えており、小学校中学校では登校拒否を繰り返しながらなんとか卒業し、大学を一度中退したあと、他の大学に入りなおし、有名金融機関に就職したもののうまくいかずに退職されました。
 その後に企業し、一時はうまくいっていたものの、「昇った角度で落下」してしまいました。
 現在はコンサータという薬を飲みながら、営業マンとして働いている32歳の男性だそうです。

 発達障害による困難は
(1)仕事
(2)人間関係
(3)日常生活
 この3つにおいて現われますが、これは要するに「人生全てがキツい」ということになります。でも、逆に言うとこの3つの「普通のこと」ができるようになるだけで、少なくとも「何とか食っていける人」にはなります。


 発達障害には、ADHD注意欠陥多動性障害)、ASD自閉症スペクトラム)等の概念があるのですが、この本を読んでいて感じるのは、「医学的な診断はさておき、『発達障害的な生きづらさ』という症状(あるいは性格)を抱えている人が、仕事や人間関係での失敗を少なくする、まずは『生きづらさ』を改善することを最優先にしている」ということなんですよ。

 この本の内容って、僕みたいな「発達障害的な生きづらさを抱えてはいるけれど、なんとか社会の駒の一つとして踏みとどまれている(でも、いつこぼれ落ちてもおかしくないという不安を抱えている)人間」にとって、ちょうどいいのではないか、と思いながら読んだのです。
 ノートのまとめかたやスケジュール管理のやり方、整理整頓についてなど、「これは僕も苦手だ……」というポイントについて、かなり具体的なアドバイスがなされているのです。


 「環境を変える」ことについては、最近、この本を読んで考えさせられました。

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 京都にある国産牛ステーキ専門店『佰食屋(ひゃくしょくや)』。
 美味しい国産牛ステーキ丼が1000円+税で、一日100食限定、ランチのみ営業の人気店です。

 僕がこの本を読んでいて、いちばん印象的だったのは、佰食屋の「採用」の話だったのです。

 佰食屋の採用基準は、「いまいる従業員たちと合う人」。
 それだけです。
 面接では、一人につき1時間くらいかけて、どんなふうに働きたいのか、どんな暮らしをしたいのか、じっくり話を聞きます。
 そしてその人が「なるべくたくさん働いて、たくさん稼ぎたい」と考えているのなら、「きっとうちの会社では物足りないと思う」と率直に話します。「100食限定」と決めているのに、「もっと売りませんか?」というそのアイデアで、いまいる従業員たちを困らせたくないのです。
 そうやって説明すると、その方も「じゃあ、ほかを受けてみます」と納得してくれます。そんなふうに、一人ひとりときちんと向き合って、面接を行っています。
 佰食屋で採用するのは、どちらかというと、人前で話したり面接で自己PRしたりするのが苦手で……つまり、ほかの企業では採用されにくいような人です。
 わたしたちが「従業員第1号」として採用したSくんも、そういう人でした。10人ほど面接に来られたのですが、Sくんはなんと、履歴書を忘れてきたのです。「あなたは……どなたですか?」からはじまる面接なんて、後にも先にもあれっきりです。
 彼は、調理師の免許こそ持っていましたが、コミュニケーションが苦手で、おとなしくて、人の目を見て話すことができない人でした。面接したなかには飲食経験者も多く、「大手ファミレスチェーン店でエリアマネージャーをやっていた」という人もいました。けれどもわたしは、Sくんを採用したのです。
 その1か月後に採用したYさん……そう、のちに佰食屋の店長を務めてくれた社員です。彼女もまた、面接では緊張しすぎて、ちっとも目を合わせてくれず、なにか尋ねても、ボソボソッと答えるような人でした。「いつか自分でカフェを開きたい」という夢を持っていたにもかかわらず、カフェのアルバイトに応募しても、面接で落とされるばかりだったのです。
 ではなぜ、佰食屋はそんな二人を採用したのか。佰食屋には、「アイデア」も「経験」も「コミュニケーション力」も必要ないからです。


 佰食屋にはメニューが3種類しかないので覚えることが少ないし、一日100食だけ売ればいいので、店頭での呼び込みや、お客さんに「今日のおすすめ」をセールストークする必要もない。
 ストレスは少ない職場ではあるけれど、新しいことをどんどんやりたい、自分を職業人として成長させたい、という人には物足りなさもあるだろう、と著者は考えているのです。
 「野心」があって、どんどん働いて、成長していきたい、という人よりも、「決められたことはきちんとやれるけれど、創造性や積極的に立ち回ることを求められるのはつらい」という人のほうが、会社と働く人の互いのニーズに合っていて、いい関係を築いていける。

 飲食サービス業は人手不足が深刻なのですが、この本を読むと、「日本の経営者は、仕事の内容を考えるとオーバースペックの『いい人』を求めすぎている」ような気がしてきます。
 これは、お客の側も、店員さんに求めるサービスの質が高すぎるのも原因なのでしょうけど。
 仕事の内容をなるべくシンプルにして、余裕をもって働ける環境づくりをすれば、「働きたい人にとってのハードル」が下がり、店にとっても「働いてもらえる人」の選択肢が広がるのです。
 働く側だって、「成長したい人」ばかりじゃない。
 給料はそんなに上がらなくても、「ストレスが少ない仕事で、早く帰れて、のんびり暮らせたほうがいい」。

 飲食はキツイ、というイメージがありますが、こういう職場も、あるんですよ。
 探すのはなかなか難しいかもしれないけれど、今まで持っていた先入観を捨てて探してみれば、そんなに大きくなくて働きやすい場所はあるのではないかと。
 これから、こういう職場は増えていくのではないかと思うのです。
 
fujipon.hatenadiary.com

 こういう、朝早く起きて、定時に通勤する日常に耐えられず、毎日ぶらぶらして、ときどき日銭を稼いだり、好きなものを売る店をつくったりしながら生きてきた、僕と同じくらいの世代の人たちの話もあります。
 組織のなかで、他人とうまくやれないのであれば、「小さな起業」で、自分のペースでやっていく、というのも、ひとつの選択肢ではないでしょうか。

 もちろん、こういうのも向き不向き、みたいなのはあるのですが、逆にいえば、「ひとりでできる仕事のほうが向いている人」というのもいるわけで、自分がそうじゃないとは限らない。

 
 まあでも、ここまで書いておいてなんだけれど、それでも生きていることそのものがつらい、働くことができない、という人に、それでも生きろ、働け、と言うのが正しいのかどうか、僕にはよくわからない。
 本当は、どうしても無理な人は、生きたり働いたりしなくても良い社会のほうが真っ当なのかもしれない。

 僕だって死んでないから生きているだけで、生きているうちに家族ができたり、来週の競馬の結果に興味があったり、ときどきネットで大勢の人に読んでもらえたりするから、惰性でここまで来たような気もするし。

 ただ、こうして何かを書いているのは、たぶん、出口みたいなものを求めている、ということで、それは、往生際が悪くても、まだ生きるということに未練があるのではなかろうか。
 

fujipon.hatenablog.com

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