このマツコ・デラックスさんの話を読んでいて、僕は大学のときの部活の遠征で泊まった旅館で、そこの経営者に「こんなに安い値段で、さらに旅行会社にたくさんマージンを持っていかれるので、ウチとしてはやってられないよ」と、長時間愚痴を言われたことを思い出しました。
いやまあたしかに試合に参加する人たち向けの、安めの価格設定ではあったのですが、部屋は大部屋に雑魚寝だし、料理も質量ともに物足りないし、何より、そのうっぷんを試合前の我々にぶつけられても……
そんなひどい条件なら、旅行会社のいうことなんて聞かなければいいのに、と思ったのだけれども、なんのかんの言っても、そんなに人気でもなく、設備が充実しているわけでもない、どこにでもあるような田舎の旅館は、そういう旅行会社との付き合いが生命線だったのだと思います。
このニュースのタイトルからは、「ネットのプラットフォームの問題」のように思いがちなのですが、実際は、これまで大手旅行会社がやってきたことが、ネットの予約プラットフォームにとってかわられているだけ、なのでしょう。
ネットの予約サイトは僕もよく使っていますし、電話をかけずに予約ができる、というのは、かなりラクになりました。
僕は電話をかけたり受けたりするのが、大の苦手だったので。
もっと早くネット時代が来ていれば、もっといろんなところに、若い頃から旅行できていたかもしれないなあ、と思うくらいです。
番組では、旅行予約サイト大手「楽天トラベル」「ブッキングドットコム」「エクスペディア」に公正取引委員会が立入検査をしたという夕刊フジの記事を紹介。サイトで紹介するホテルや旅館との契約で、他のサイトより安くするよう不当に求めていた疑いが持たれている。
箱根のある旅館事業者は「サービスよりも価格競争になってしまっている状況は非常に不満。ただ売上は8割が旅行サイト経由なので無ければ困る」と話していたという。これに対して、マツコさんは、「とうとう上から指示をしないと統制が取れなくなってきた」と業態を解説した。
「それが世界の経済を支えてた時代だから良かったけど、ずーっとやってたらいつか共倒れするわよね。だからこういう風に規制を入れないと。だってホテル・旅館のほうが無くなっちゃったらサイトも商売ができなくなる」
この10年、両者がお互いに利益を出せるところを模索した結果、マツコさんは「旅館なら料理がしょぼくなるとか、例えば音楽だったらマニアックなものは排除されるとかしないと利益って産まれない」といい、「それをやり過ぎると、どんどんつまらないものになる」と警鐘を鳴らす。
たしかに、ネット社会で、いろんなものが安くなりました。あるいは、安いものが探しやすくなったのです。
ホテル側にとっても、「予約をさばくための人員やシステムをネットに任せることによって、コスト削減できる」というメリットがありました。
とはいえ、「値引き競争」となって、プラットフォームがコンテンツホルダー側に、その負担をさせようとするならば、どんどん、コンテンツが先細りになることは目にみえています。
この本のなかで、著者の川上量生さんは仰っています。
旧世界の代名詞としての”リアル”と新世界の代名詞としての”ネット”。リアルとネットという言い回しには、ネットはリアル=現実世界とは通用する常識が異なる別世界であるというニュアンスがあると冒頭で書きました。
なぜ、ネットがリアルと異なる別世界にならなければならなかったのか。それはインターネットでビジネスをしようとする人が、インターネットはリアルの世界が進化した新しい世界だというような説明をしたほうが、都合がよかったからでしょう。
インターネットは資本市場と結びつくことで、バーチャルなビジネスプランから現実のお金を集める装置として機能するということは説明してきました。
その際に、リアルの世界と鏡像関係にあるような未来のネット社会、という単純なモデルは他人に説明するビジネスプランをつくるときに、とても使いやすいのです。
新聞、雑誌などのオールドメディアに対するネットメディアという図式。広告代理店に対するネット広告代理店。証券会社に対するネット証券。銀行に対するネット銀行。ネット生保にネット電話にネットスーパーと、なんでもネットをつければ新しいビジネスモデルができるのです。
現実に存在しているビジネスのネット版という分かったような分からないような単純なアナロジーで、ビジネスモデルが簡単につくれる。そしてバーチャルなビジネスモデルができればリアルなお金が集ってしまう。
ベンチャービジネスの中でも特にITベンチャーにお金が集中してITバブルが起こった背景には、ネットとつければとにかく簡単にネタになる新しいビジネスモデルがつくれてしまう、そういう構造があったのです。
なんでもネットをつければビジネスプランができてしまう現実は、どういう根拠によって支えられていたのかというと、それはインターネットにまつわるビジネスというものは、ほとんどすべて本質的には安売り商法だからです。
インターネットを利用することにより、あらゆるサービスや商品を安く、あるいは無料で提供する。そして安かったり無料だったりするからお客が集る、というあまりにも単純であるが故にあまりにも万能なモデルです。
本当にそれていいのか?という気持ちは僕にもあるのです。
小さいけれど、良質のコンテンツが、プラットフォームのお眼鏡にかなわなかったという理由で消え去っていくのは、悲しいことです。
ただ、プラットフォームがどんどん巨大化し、コンテンツ側に安売りの圧力をかけていく一方で、アパレル通販サイト「ゾゾタウン」からの大手アパレルの徹底、というような動きが出ているのも事実です。
インターネットというのは、「大手プラットフォームによる寡占」を招きやすい一方で、良質で小規模のブランドや店と顧客が直接つながりやすい状況をつくれる場でもあるのです。
「でもモラルがない業態だったわけじゃん、この10年。もう秩序ナシ・利益最優先で、それこそある意味淘汰された人たちもいるわけじゃない。今後、残った人たちで上手くそれぞれ利益も上げて消費者も楽しい状態っていうのが何かを見つける10年にしないとダメよね」
僕はマツコさんのこの言葉について、考え込んでしまうのです。
平成の30年間は、インターネットの時代だった、とも言えますが、それと同時に、日本にとっての停滞の時代でもありました。
この30年間、僕の感覚としては、日本では「それでも、みんな仲良く、折り合いをつけて、共存共栄していきましょう」という力がまだ根強くあったと思います。
1989年(平成元)年当時、日本のGDPは米国に次ぐ世界第2位であった。世界経済全体に占める日本のシェアは15.3%で、3位から5位のドイツ・フランス・イギリスを合わせたのと同じくらいあった。ニューヨーク・ロンドン・東京が世界の三大証券市場であり、米国・欧州・日本が世界経済を考えるうえでの三本柱であった。
最新のランキングはどうなったか。2017年の日本のGDPは、米国、中国に次ぐ世界第3位となり、世界経済におけるシェアは6.5%にまで低下した。
日本のGDPは、1989年から2017年の間に1.6倍に増えている。これだけを見ると、「失われた30年」とはいえ、なかなか増えているものだと思われるかもしれない。しかし世界の中でみると、日本はこの30年間でもっとも成長しなかった国のひとつである。
世界全体のGDPは、この間に4.0倍になった。中国は26.1倍、インドは8.7倍、韓国は6.3倍、米国は3.5倍。ヨーロッパの国々は世界平均よりは低いが、それでもドイツ3.0倍、フランス2.5倍、イタリア2.1倍となっている。日本のGDPの伸び率は、データの存在する139ヵ国中134位。下から数えて6番目である。ちなみに、日本よりも下位は、中央アフリカ(1.3倍)、リビア(1.1倍)、イラン(1.1倍)、コンゴ民主共和国(1.0倍)となっている。なお戦争のあったシリアやイラク、アフガニスタン、あるいは北朝鮮など、データには含まれていない国もある。
日本の2017年のGDPは、円表示では546億円である。しかし、もし平成の間、世界平均のペースで増加していれば、1370兆円になっていたことになる。
いまだにそれなりの経済規模、人口を持つ「大国」ではあるけれど、世界の成長速度についていけない日本。
高齢化が進み、いわゆる「人口ボーナス」の恩恵を受けられなかったという面があるにせよ、平成の日本は世界のほかの国々に比べて「成長」が鈍かった。
「成長しなくても、それなりにみんなが豊かで、のんびり暮らせる国」になったのなら、それもひとつの「成功」だと思うけれど、実際は格差が拡大してくばかりだった。
「平成」の終わりにあらためて考えてみると、淘汰される存在がたくさんあるのを覚悟のうえで、もっと厳しく「競争」するべきだったのではないか、という気もするのです。
それはそれで、いまのアメリカのような「全体としては経済成長が続いている、超格差社会」になっていたかもしれないけれど。
この先10年に待っているのは、さらに厳しい競争なのか、それとも、勝ち組の寡占なのか、折り合いをつけて共存共栄の道を選ぶのか。
「令和」のインターネットは、「本質的には安売り商法」という壁を超えることができるのでしょうか?
- 作者: マツコ・デラックス
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2016/10/14
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 川上量生
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/07/16
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (3件) を見る
- 作者: 吉野太喜
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2019/03/20
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る