いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『JUDGE EYES:死神の遺言』を責めないで


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 僕は発売日にパッケージ版を買ったので、直接この販売自粛の影響を受けるわけではないのですが、まあなんというか、芸能人の不祥事に対して、その人が関わったコンテンツはどこまで責任を負わされるべきなのか、考え込んでしまう事例ではありますね。

 『JUDGE EYES:死神の遺言』って、『龍が如く』シリーズをずっとやってきた人にとっては、「主人公が桐生一馬からキムタクに変わっただけじゃねえか、舞台はいつもの神室町だし」と言われてしまいがちなのですが、『龍が如く』シリーズを『0』『1』『2』までしかプレイしたことがなかった僕にとっては、すごく面白かったんですよね。
 なんといっても、あのキムタクこと木村拓哉さんを自分で操れて(いちおう役名はついているんですが)、その主人公が、現実やドラマのキムタクではまずありえないような面白行動をとってくれるのです。


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 こういうふうに、主人公の一挙手一投足がネタになってしまうのは、「あのキムタク」がゲームの主人公を演じているから、なんですよね。
 僕は「風俗店の待合室でモジモジしてしまうキムタク」に爆笑してしまいました。あのキムタクだからこそ、演じているキャラクターがビームを出したり、ポリバケツを振り回して暴れまくったりしているというのは、それだけで話の種になるのです。
 本人も事務所(あの「映画の紹介でも本人の画像が使えないジャニーズ」ですよ!)も、かなりの覚悟と「ゲームの世界への進出」への野心を持って臨んだプロジェクトだったのではないかと思われます。
 一時期ほどの「視聴率男」としての圧倒的存在感はないにせよ、「木村拓哉」が、日本のトップスターのひとりであることは間違いありません。
 「何を演じてもキムタク」なんて言われがちだし、僕も長年そう思っていましたが、それを50年くらい続けると、高倉健さんや吉永小百合さんになるのではないか、と最近は感じます。「演じるのがうまい」というより、その人の存在感で、観客が納得してしまうような存在。
 なんかえらくキムタクを持ち上げてますけど、僕も25年くらい前は、『あすなろ白書』を観て、「取手てめー、なに火事場泥棒みたいなことして、なるみの気を引いてるんだよ!いきなり寝ちゃう、なるみもなるみ!ほんと、何考えてるんだこいつら!!」とか憤っていたわけです。人間が丸くなったのか、いろんなものを諦めてしまった結果なのかはなんともいえませんが。
 年齢が近いというだけで、チョモランマの頂上とマリアナ海溝くらい違う世界で生きていても、「ああ、お互いなんとかここまで生き延びてきたねえ」なんて思っていたりもするわけです。木村さんが日曜の昼間に喋っているラジオとか、移動中に聴いていると、けっこう面白いし、キムタクやってるのもラクじゃないんだな、とか思います。


 ……って、キムタクの話をするつもりじゃなかったんだけれども。
 
 『JUDGE EYES:死神の遺言』のパッケージ版の出荷とダウンロード版の販売が自粛されるそうなのです。
 正直、このゲームの主役である木村拓哉さんの不祥事であれば、この対応もやむなし、ではあるのですが、敵役のひとりである羽村京平を演じているピエール瀧さんの逮捕(麻薬取締法違反容疑:コカイン使用の疑い)で、というのは、なんとも微妙な感じがします。
 かなり重要な役を演じているのは確かなのだけれど、「主役」ではありませんし、そもそも、『JUDGE EYES:死神の遺言』に出ているのは、「その役者さんによく似ているキャラクター(あるいはデジタルデータ)」であり(これは木村さんも同じ)、本人そのものではないのです。
 先日逮捕された新井浩文さんの場合とは異なり、被害者がいない犯罪でもあります。麻薬の使用というのは、1970年代に、アメリカのカーター大統領は「個人の薬物所持に対する刑罰は、個人がその薬物を使うことによってこうむる損害を超えるものであってはならない」とも述べています。とはいえ、依存性が高く、反社会的組織の資金源になるものですし、少なくともいまの日本社会では、やってはいけない犯罪行為です。
 ただ、その「罪」は、どこまで及ぶものなのか。
 本人は罪を償うのが当然としても、関わったコンテンツもすべて撲滅すべきなのか。


 企業のCMなどで「イメージダウンにつながるから」という理由で起用されなくなるのは、致し方ないと思うのです。たとえ「まだ容疑者の段階なのに」と言ってみても、起用する側としては、「企業や製品のイメージを守る」のが第一で、そのために高いお金を払っているわけですから。その報酬には、理不尽であっても、「火がないのは当たり前、煙も立たないようにしてもらうコスト」も含まれているのでしょう。

 テレビドラマとしても、現状はスポンサーの意向が大事でしょうから、けっこう難しいかもしれませんね。

 そういう意味では、視聴者が求める人なら、アマゾンプライムやネットフリックスで再起できるかもしれません。
 しかし、ネットフリックスの『ハウス・オブ・カード』で一世を風靡したケヴィン・スペイシーさんが14歳の少年への性的暴行ですべての契約を打ち切られてしまったように、ネット配信だから「ゆるい」というわけでもないのです。
 「みんなの意見」というのは、容赦ないほうへ突き進んでいくことも多いのです。
(ただし、『ハウス・オブ・カード』は、ケヴィン・スペーシーさんが演じていた人物は死んだという設定で、次のシリーズが作られています。その一方で、スペイシーさんが出演していたシリーズも、配信は続けられています。割り切りが早い、とも言えますね……)

 先日の新井浩文さんや今回のピエール瀧さんに関しては、いち観客として、いろいろ思うところもあるんですよ。
 観客としては、「この人、プライベートでも本当に『危ない人』なのでは?」と想像してしまうような演技をする役者さんほど、「役になりきっている」「凄味がある」と評価しがちです。
 でも、その人が「本当にやっている」となると、「失望した!」「なんでそんな反社会的なことを!」と一斉に糾弾するんですよね。
 清純派タレントが不倫をしたり、恋愛禁止のはずのアイドルがいきなり結婚宣言したりすればファンが失望するのは当然だけれど、日頃から「こんなリアルに演じられるのって、本当にこういうことを日頃からやってるんじゃないの?」と想像させる役者が、実際に「やっている」としたら、「だから、ああいう演技が上手いんだな」と腑に落ちるだけではなかろうか。
 そもそも、「そういう演技」が求められ、映画賞では高く評価されがちなのは、洋の東西を問いません。
 
 僕はシルク・ドゥ・ソレイユのステージを映画化したものを観たときに、「素晴らしいのだけれど、何かが足りない」と思ったんですよ。美しいのだけれど、観ていると、ちょっと退屈だった。
 あらためて考えてみると、こうして映像化されているステージでは、ほぼ100%、演技が失敗したり、パフォーマーが致命的なダメージを受けることはない。
 それは、僕にとって「スリリングさが致命的に欠けるステージ」だったのです。
 役者に狂気や反社会的な行為や態度を演じさせるというのは、人に、いつ向こう側に落ちるかわからないような塀の上を歩かせる見世物ではないのか。
 そういう見世物をエンターテインメントとして享受しながら、運悪く向こう側に落ちてしまった演者を指差して糾弾するというのは、あまりにも残酷ではないのか。
 彼ら、彼女らには、それをやることによって注目されたり、お金や名声を得たりすることができる、という面は確かにあるのです。
 とはいえ、彼らにそういうギリギリのところを歩かせる側に、問題や罪はないのか?
 ものすごく偽善的な問いというのは百も承知なのですが、僕はそんなことを考えずにはいられないのです。

 そういうコンテンツに対しては、「出演者が不祥事を起こしたから」と「無かったこと」にしてしまうよりは、そのことを踏まえたうえで、観たい人は観ても良いのではなかろうか。
 ただし、その罪の程度や種類については、やっぱり考えるべきところはあって、直接の被害者がいる、新井浩文さんの場合には、そう簡単に解禁すべきではないだろうし、今回のピエール瀧さんのような薬物犯罪の場合には、テレビ放映禁止、DVDやオンデマンドでの有料配信は可能、というのでも良いのではなかろうか。
 でもなあ、考えてみれば、『凶悪』だと、登場人物がプライベートでは虫も殺さない人たちでも子どもに見せるべきじゃないだろうし、『いだてん』をピエールさんが出ていたからといって18禁にするのもバカな話ではありますよね。
 極端な例は、判定しやすいけれど、微妙なラインはありますよね。
 『JUDGE EYES:死神の遺言』に関しては、発売から3ヵ月くらい経って、とりあえず、ひととおりは売れた、というのと、最初に厳しく対応しておいて、「そこまでやらなくても……」と言ってもらったほうが、初期対応を緩めにして「甘すぎる!」と責められるよりも、長い目でみれば、そのコンテンツを生き残らせることができる、という判断ではないか、とも思います。


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「販売自粛」の一報で、駆け込み需要が生じているのもまた、人間の業とでも言うべきなのか。


 もういっそのこと、みんなバーチャルアイドル、バーチャル役者にやってもらったほうが、良いのかもしれません。
 これは冗談でもなくて、ある企業が有名なアニメのキャラクターをCMに起用したときに、その契約金の高さが話題になっていました。でも、その企業の広報担当者は「リスクマネージメントを考えると、けっして高くはないですよ。アニメのキャラクターは、スキャンダルを起こさないから」と言っていたそうです。


 今回のピエール瀧さんの逮捕で、少し前に読んだこの記事のことを思い出したんですよ。
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 近年、役者として高く評価されて、「オラフの声をやっている人」としても知られるようになった瀧さんにとっては、こんなふうに「これまで自分のことに関心を持たなかった多くの人に知られ、興味を持たれるようになったこと」が、かなり大きなストレスやプレッシャーになっていたのではなかろうか。
 「多くの普通の人たちに、まっすぐに注目されること」って、これまでの瀧さんの生きざまを考えると、けっこう難儀だったような気もするのです。
 だからコカインにはまったというわけでもないのでしょうし、そんなの言い訳にもならないのはわかるのですが。

 この場で、個々の作品に関して、あれはセーフ、あれはアウト、なんて断じることはできないのですが、僕の願いとしては、とりあえず、『JUDGE EYES:死神の遺言』をこれ以上責めないでほしい、なんとか作品をこれからの人にも遊べるようにしてほしいのです。
 この事件が起きる前と同じ気持ちで遊べるかと問われると、言葉に詰まってしまうのは事実なのですけど。


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凶悪

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