いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

博多座『魔界転生』(堤幸彦演出×上川隆也主演)感想


www.hakataza.co.jp

舞台『魔界転生』PRスポットCM



 博多座で舞台版『魔界転生』を観てきた。
 『魔界転生』、映画版を子どもの頃にテレビで観て以来、大好きなんだよなあ。
 非業の死を遂げた天草四郎を盟主に、この世に無念を残した剣豪たちが「魔界衆」として蘇り、魔界オールスターズを結成。その豪華メンバーに立ち向かう柳生十兵衛
 「魔界衆」のなかには、十兵衛にとって、まさに「因縁の相手」がいて、剣豪というものの業の深さとか、こんな人たちでも「無念」なんだな……と、なにかを発見したような気分になったものだ。いろいろとエロチックなところもあったのだが、なぜか、クライマックスで炎に包まれた沢田研二さんの天草四郎の姿が、僕にとっては最も印象に残っている。あの1981年の映画版のキャスティングは凄かった。
 沢田研二さんが、今ふたたび「炎上」しているというのも、何かの因縁なのだろうか。


さいたまスーパーアリーナに、7000人しか集まらないとは……む、無念……」
 ……本当に「魔界衆」に転生しそう。
 僕などは、御年70歳になられても、まだ7000人もの集客力があるなんですごいじゃないか!と思うのだけれど、そこで「年齢のわりには」なんて思わないのが大スターというものなのだろう。批判もされているけれど、これはこれで、ひとつの「大スターの生きざま」のような気もする。もちろん、僕はその中止になった公演とまったく関係がないから、そう言えるのだけれども。
 「魔界衆」に入れるくらいの気概というか妄執みたいなものがないと、ずっと大スターでなんていられないのかもしれない。


 高橋由伸監督とか、清原和博さんとかが魔界に転生して巨人に祟る、とかいうのはどうか。
 大竹寛ゲレーロも森福も片岡も野上も陽岱鋼もいるぞ。
 思いつきで書き始めたのだが、あんまり冗談にならない気がしてきた……


 さて、博多座の舞台版『魔界転生』。
 柳生十兵衛上川隆也さん、天草四郎溝端淳平さん、四郎の姉、お品を高岡早紀さんなど、そうそうたるキャストでの4時間の公演(途中30分の休憩も含む)。
 4時間といえば、一昔前の映画二本立てを続けて観るくらいの時間になる。
 このくらいの長さだと、けっこう中だるみしそうなものなのだが、途中、全く飽きることなく舞台に引き込まれる作品だった。
 なかでも、柳生宗矩役の松平健さんは、そこに立っているだけで、すごい「圧力」があって、これが大スターというものなのか、と目が離せなくなってしまった。
 佇まいというか、立ち姿がすごく美しいのだ。
 殺陣もただ動き回るというのではなくて、睨み合っているだけで、「ここで動くとやられる」という緊張感が伝わってくるし、無駄な動きがないことに、すごく説得力がある。
 そんな松平健さんに対して、序盤は主人公なのに押されていた上川隆也さんが、物語が進んでいくにつれて存在感が増し、クライマックスではその松平さんと同じくらいのオーラをまとうようになるんだよなあ。
 上川さんは、自分のオーラも物語にあわせてコントロールしているのだ、たぶん。
 役者ってすごいな、と感動した。
 

 「お金かかってるなあ」と感心する一方で、演出やストーリーには、そんなに目新しいとことはない(途中に現代語とか時事ネタのギャグがけっこう挿入されているのは、けっこう微妙。そもそもその時事ネタが中途半端に古かったりする)のだけれど、あまり真面目にやりすぎても、かえって観客がくたびれてしまうのかもしれない。
 「真剣さ」と「遊び」のバランスがやや悪くて、脚本・演出家が笑わせようとしているところで、「ちょっと笑いづらいなあ……」と困惑する場面もいくつかあった。


 わざとじゃないと思うのだけれど、途中、「こ、これは聖帝サウザー!」とニヤニヤしてしまった(もちろん、それを狙った演出ではないと思う)。


 映像と舞台上の役者のシンクロもけっこう面白かったのだけれど、これに関しては、このキャストであれば、ここまで映像・スクリーンを使う必要があったのだろうか、とも感じたのだ。
 このキャストだったら、どうやって「ここに無いものを観客にあるように見せる」のだろうか、それを一度観てみたい。


 舞台版『魔界転生』は、誰にとっても期待を裏切らない、豪華なエンターテインメントだったと思う。

 そして、この舞台の面白さには、『魔界転生』というとんでもない大風呂敷を考え出した山田風太郎さんの発想力が大きかったのではないか、と観ながらずっと考えていた。
 親と子、好敵手、出世欲、人生の理不尽、自分の使命と誇りと欲望。
 観ていると、むしろ、「魔界衆」のほうに惹きつけられてしまう。
 子どもの頃は、「大人はこんなに心が弱いのか」と思ったのだが、本当に満足して死ねる人間なんて、存在するのだろうか。
 こんな原作、どう料理してもつまらなくなるわけがない。


 これで、マツケンサンバが観られれば言うことなしだったのだが(さすがにそれはない)、本気でマツケンサンバを踊る松平健さんを生で観たくなってしまった。
 溝端淳平さんの天草四郎もすごくよかった。というか、この舞台の天草四郎は、ワガママな年長魔界衆たちに翻弄される中間管理職的で、魔界衆なのに善い人っぽくて、かえってかわいそうではあった。


 平日の昼公演ということもあって、観客は女性がほとんどだったのだけれども、この舞台、絶対、中年のオッサンの大好物だと思うので、興味を持たれた方は、ぜひ足を運んでみてください。


魔界転生 [DVD]

魔界転生 [DVD]

アクセスカウンター