昨夜、第158回の芥川賞・直木賞が発表されました。
今回の候補作はすべて未読だったのですが、とりあえず『銀河鉄道の父』は読んでみたいと思います。
芥川賞の2作も、『文藝春秋』で掲載号で読むつもり。
芥川賞については、これまで、毎回「選評の選評」みたいなものを書き続けてきたのですが、今回は「最近10年の直木賞受賞作の紹介」をやってみたいと思います。
個人的には、「直木賞は、その作家にとって、必ずしもベストではない作品に授賞されていることが多い、というか、この作品に授賞するんだったら、前回候補になったあっちのほうが、ずっと良かったのに」と思うことが多いのです。
でも、それはもしかしたら、僕の思い込みかもしれない。
というわけで、その再確認と、受賞作家のその後も含めて、2008年上半期の直木賞から振り返ってみます。
第139回(平成20年/2008年上半期) 井上荒野『切羽へ』
「大人の淡白な恋愛小説」です。僕には薄味すぎた。
第140回(平成20年/2008年下半期) 天童荒太『悼む人』/山本兼一『利休にたずねよ』
fujipon.hatenadiary.com
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『悼む人』って、映画化されたものも観ると、正直、「気持ち悪い人」のような気がする……
『利休にたずねよ』、僕は好きです。何がすごいのかよくわからなかった千利休という人の「凄み」が言葉になっている。ただ、「どこまでがフィクションなんだろう……」と悩ましくもある。
第141回(平成21年/2009年上半期) 北村薫『鷺と雪』
北村薫さんの人柄と文壇への功績に報いたんだろうな、という印象です。
第142回(平成21年/2009年下半期) 佐々木譲『廃墟に乞う』/白石一文『ほかならぬ人へ』
※『廃墟に乞う』は、確実に読んだ記憶はあるのですが、感想記事は書いていないみたいです。申し訳ありません。
『ほかならぬ人へ』は、スカトロのところしか記憶にない。
第143回(平成22年/2010年上半期) 中島京子『小さいおうち』
地味だけど小説らしい小説だと思います。ディテールが染みる。
黒木華さんが注目された映画版の印象が強いです。
第144回(平成22年/2010年下半期) 木内昇『漂砂のうたう』/道尾秀介『月と蟹』
※『漂砂のうたう』も感想を書いていませんでした。
『月と蟹』は、当時、こういう作品を書いて、直木賞を獲ってみせた道尾さんってすごいなあ、と思ったのですが、今は、もしかしたら、この作品で獲れてしまったことが良くなかったのではないか、という気もするんですよね。
第145回(平成23年/2011年上半期) 池井戸潤『下町ロケット』
池井戸潤さんといえば『半沢直樹』というイメージになりがちなのですが、『空飛ぶタイヤ』など、企業や組織に属する人間をずっと描いてきた人で、その積み重ねがあればこそ、人気作家として活躍し続けられているのだろうな、と。この直木賞は、作品、タイミングともにベストだった珍しい事例。
第146回(平成23年/2011年下半期) 葉室麟『蜩ノ記』
僕は時代小説って、直木賞受賞作品くらいしか読まないのですが、地味だけど良い小説だと思います。
第147回(平成24年/2012年上半期) 辻村深月『鍵のない夢を見る』
この感想の「『陰気玉』みたいなのを読まされるのがつらい」って、ひどいこと書いてるなあ、自分で書いたんだけど。
第148回(平成24年/2012年下半期) 朝井リョウ『何者』/安部龍太郎『等伯』(上)(下)
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『何者』は、いま読むと「こんなのあたりまえじゃないか」と思うようなことが書かれていて、それがすごい。
『等伯』は、これを読んで「松林図屏風」を観てみたくなりました(先日ようやく実物を見ることができました)。
第149回(平成25年/2013年上半期) 桜木紫乃『ホテルローヤル』
これも、いまから考えると、「なぜこの作品、このタイミングで桜木さんだったのだろう」という感じです。
第150回(平成25年/2013年下半期) 朝井まかて『恋歌』/姫野カオルコ『昭和の犬』
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『恋歌』は、人間の業みたいなものが容赦なく描かれていて、圧倒される作品でした。
いつか読み返すつもりなのだけれど、怖くてなかなか読み返せません。
『昭和の犬』は、きっと選考委員に犬好きの人がいたんでしょうね。姫野さんも、この作品じゃなくても……
第151回(平成26年/2014年上半期) 黒川博行『破門』
よくできたミステリ+エンターテインメント小説。あらためて考えてみると、こういう小説が直木賞を獲るのって、レアケースかも。
第152回(平成26年/2014年下半期) 西加奈子『サラバ!』(上)(下)
僕は西加奈子さん、ものすごく苦手な作家なのですが、西さんの作品のなかでは、いちばんこれが好きです。というか「嫌いじゃない」レベルなんだけど。
正直、ちょっと「読みにくい小説」だし、「長く感じた」のも事実です。
「あらすじ」ほどの「スケール感」もない。
でも、たまにはこういう小説を読んでみるのも、いいかもしれない、そんな感じです。
第154回(平成27年/2015年下半期) 青山文平『つまをめとらば』
僕は青山文平さんの作品をはじめて読んだのですが、それなりの時間を生きてきた人間ならでは(青山さんは1948年生まれ)の人生の滋味、みたいなものを感じる作品集でした。
第155回(平成27年/2016年上半期) 荻原浩『海の見える理髪店』
※感想記事なし。自分では書いた記憶があるのですが……結局、書けなくてボツにしたのかな……萩原浩さんが受賞することの異議はないけれど、この「お涙頂戴小説」じゃなくてもねえ……
第156回(平成27年/2016年下半期) 恩田陸『蜜蜂と遠雷』
近年の直木賞受賞作では数少ない、獲るべき人が、獲るべき作品で、獲るべきタイミングで獲った幸運な事例だと思います。
恩田さんはこれまで何度もノミネートされながらも直木賞には届かず、もう「卒業」かなと思っていたタイミングでの大逆転劇。
この『蜜蜂と遠雷』は、あまりにも完成度が高すぎて、「音楽小説」「コンテスト小説」にとどめを刺してしまった感じもします。
第157回(平成28年/2017年上半期) 佐藤正午『月の満ち欠け』
この作品、「残念直木賞」にもほどがある。
この小説、頭の中で映像化しながら読むと、ものすごく気持ち悪いんだよ本当に。
ませた女の子にオッサンが「自分にとっての運命の女性の生まれ変わりだ」とか言い寄っている姿は、読んでいてキツかった。
以上、3作も「感想なし」があって申し訳なかったのですが、ひととおりご紹介してみました。
こうして並べてみると、『本屋大賞』の受賞作に比べると、記憶に残っていないですよね直木賞。
『本屋大賞』が、書店員さんに人気がある作家の売れ線小説を推しがちで、映像化されているものが多いという理由があるとしても、近年は「直木賞を獲ったから」ということだけで、作家や作品が売れる時代ではなさそうです。もちろん、獲らないよりは売れるだろうし、「直木賞作家」として講演で食べていける、というようなメリットは大きいのだとしても。
最初にちょっと書いたのですが、獲るべき人が、獲るべき作品で受賞した、というのは、今回みていった範囲では、池井戸潤さんの『下町ロケット』、朝井リョウさんの『何者』、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』くらいだと思います。
辻村深月さんのように「なぜこの若さで、この作品に?」という場合でも、その後の活躍で、選考委員たちが「先見の明」を示した事例がある一方で、道尾秀介さんのように、直木賞受賞まですごい勢いだったのに、「そういえば、道尾さんって、伊坂幸太郎さんと並ぶくらいの人気だったのに、最近書店であまり見かけないな……」ということもある。
『月と蟹』ではない作品で受賞していたら、あるいは、直木賞に縁がなければ、もっと「売れて」いたのではなかろうか。
もちろん、売れるよりも、本人が満足できる作品を書くことを重視しているだけなのかもしれませんが。
ちなみに、これらの受賞作のなかで、いま(2018年1月)にお薦めしたい作品は、池井戸潤さんの『下町ロケット』、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』、朝井まかてさんの『恋歌』です。あまりにもベタな結論ですみません。
こうしてみていくと、いまはむしろ『本屋大賞』にノミネートされないような「小説」を評価する場が、直木賞になっているのかもしれませんね。
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