いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「年末ジャンボ宝くじ」発売最終日の行列に並ぶ人生

 12月22日の夕方、急いで仕事場を離れて、僕は行列に並んでいました。
 『年末ジャンボ宝くじ』の発売最終日。
 案の定、売り場には、30人くらいが並んでいたのです。
 僕が並んだ後ろにも、次から次に人が続いてきます。
 行列に並びながら、考えていたんですよ。
 ああ、僕は本当に、自分のことがわかっていない人間だなあ、って。
 今週のはじめ、僕はこのショッピングモールの歯医者に来ていて、そのときに宝くじ売り場の前には、誰も並んでいませんでした。
 ああ、そういえばもう年末だし、年末ジャンボって、いつまで売っているんだっけ?
 ネットで検索すると、12月22日まで。
 今週いっぱいか……でも、宝くじって、どうせ当たらないんだよねえ。これまで当たったこともないし、下手すると、当選番号と照合することすら忘れてしまっている。
 今年はやめておこうかな……それより本かゲームでも買うか……


 ところが、発売最終日が近づくにつれて、なんだか「買っておかないと年が越せない」ような気分になってきたのです。
 期待値でいえば、宝くじを買うのは明らかに「損」なのですけど、買わなきゃ当たらないし……とか、思えてきて。


 で、結局、最終日に行列に並ぶことになったのですが、並びながら、「こんなことになるのなら、なぜ、歯医者のついでに買わなかったのか?」と自問自答していたのです。
 あのときも、「絶対に買わない」という固い決心があったわけではなくて、「まあ、今日はいいか」くらいの気分だったんですよね。
 まあ、歯医者で治療が終わったあとというのは、「もう今日は何もしたくないな……」って感じにはなるものではありますが、それにしても、駐車場に行く途中で、ちょっと遠回りをするだけでよかったのに。
 今日は、宝くじを買うためだけに、わざわざ来ることになってしまったのだから。
 

 僕には、こういうことがよくあって、自分でもダメだなあ、と思うのだけれど、なかなか改善されないんですよね。
 新作テレビゲームの限定版を買おうと心に決めていて、Amazonでその限定版を何か月か前から、ときどきチェックし、「現在予約受付中」というのをみて、「まあ、まだまだだいじょうぶだよな、まだ注文しなくてもいいな、と安心する。
 そうこうしているうちに、発売日が迫ってくるわけです。
 どうせ買うのだから、さっさと「注文する」をクリックすればいいのに、「まだ発売日までもう少しあるし、駄作かもしれないから、レビューを確認して……」などと、うだうだしているうちに、発売日前日くらいになってしまう。
 さすがにそろそろ買わなくては……と確認すると「在庫なし」あるいは「定価より高く売る転売業者からの出品のみ」になっている。
 ああ……最低価格保証もあるんだから、どうせ買うなら、さっさと注文しておけばよかった……ちょっと前だったら、簡単に買えたのに……
 結局、発売日直前・直後に、何度もAmazonを訪れて、在庫が復活していないかチェックする羽目になってしまうのです。
 

 自分の中ではほぼ確定しているはずの「決断」を先送りしてしまったばかりに、余計な手間がかかったり、欲しいものを手に入れ損なったりする。
 本当に迷っているのならしょうがないのだけれど、「いつかはやるはず」のことを「もうしばらく様子をみよう」「まだだいじょうぶだろう」と油断してしまい、タイムリミットが迫ってきたり、状況が悪くなってから焦ってしまったり、その繰り返し。


 中には、一時期のニンテンドースイッチのように、どう転んでも入手困難なものもあるのですが、世の中の大部分のものは、そうではない。
 ほんの少し早めに手配したり、近くの店で予約したりという「ちょっとしたひと手間」を惜しまなければ、結果的にラクができるのに。


 ちょっと話は脱線するのですが、オンライン時代になって、締切ギリギリまで手続きを待つことができるようになりました。
 僕がそれによる人々の行動の変化を実感するのは競馬のオッズをみているときで、最近は締切直前にオッズがけっこう変わってしまうんですよね。
 先週の朝日杯フューチュリティステークス、確定した枠連1−5の配当は530円だったのですが、締切の3分くらい前に僕が買ったときには、570円だったのです。
 えっ?こんなに安くなってるの?と驚きました。
 以前は、窓口に並ばなければならなかったから、買い逃さないために、みんな多少時間に余裕を持って買うことが多かったのだけれど、インターネット投票の割合が高くなり、みんな締切直前まで馬の状態をみて買うようになっているのです。
 ネット慣れしてきたためか、最近はとくに、締切り直前でのオッズの動きが大きくなっている印象を受けます。
 大きなお金を賭ける人は、直前まで情報収集をする、というのはあるのでしょうけど。
(ものすごく大きな金額をご祝儀的に賭ける関係者は別として)
 一般的には、本命サイドの配当は、締切直前にかなり安いほうに振れることが多いと感じています。
 えっ、これだけしかつかないの?と驚くことが多いんですよね。
 まあ、それでも当たれば嬉しいんだけどさ。
 ネットなら直前まで馬の状態をみて投票できるのだから、そのメリットを活かそう、という人の割合はどんどん増えてきています。
 そのことは、「直前まで馬の状態とオッズを確認しつづけなければならない」という手間にも繋がっているんですよね。
 ネット投票ができることで、かえって、もうこのあたりで買わないと、という「見切り」のタイミングが締切ギリギリまで伸びているのです。
 馬券なら、まだ「締切」があるだけマシで、株取引とかネットゲームの運営では、「つねに動いている状況」で、いつ決断するのか、というのは、ものすごく難しいのだろうな。


 ネットはものすごく便利なのだけれど、その便利さのなかで他者と競争するのは、けっして簡単なことじゃない。
 条件は、みんな同じなのだから。


 今回、宝くじ売り場で、最終日に多くの人が並んでいるのをみて、わかっていても、「先送りにしてしまう」「締切りギリギリにならないと動けない」人って多いのだな、とあらためて思い知らされました。
 きっと、僕の人生もそんな感じで、死ぬ間際になって「あれもやっておけばよかった」って思うのだろうな。
 元気なときにやっておけば、簡単にできたことを、やらずに後悔したり、苦労してやることになってしまう。
 もう人生そんなに長くないのだから、変わらなくちゃな、と痛感する師走。


[http://www.mizuhobank.co.jp:embed:cite]
※調べてみたら、ネットで買えるんですね、宝くじ。
決断云々以前に、情弱だな、僕は……(でも、これはこれで、「まだ買えるな」って思っているうちに買い忘れそう。ただし、ほとんどの場合「買い忘れて正解」なんだよね宝くじとか馬券とかいうのは)


fujipon.hatenadiary.com
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