いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

Amazonとヤマト運輸と「最後に残っている人間の仕事」

headlines.yahoo.co.jp


この記事を読んで、Amazonのヘビーユーザーである僕は、考え込んでしまいました。
ネット通販は便利だけど、たしかに「送料無料」っていうのは、おかしいよなあ、って。
Kindle本のような「ネットで遅れるデータ」であれば、送料はかぎりなくゼロに近くできるでしょうけど、物質を店、あるいは物流センターから購入者のもとに運ぶには、人件費を含む、少なからぬコストがかかるのは当たり前なわけで。


タダでヤマト運輸が運んでくれているわけではないので、どこかにそのコストは反映されているはず……例えば商品の価格に……なのですが、それでもAmazonのほうが安いことが多いんですよね。
ネットでコメントをみていると、「適正な送料をとるべきだ、そうじゃないと配送業者もやってられない」という意見がけっこうあるのです。
でも、自分が買う側になってみると、そりゃ「送料がかかる」より「無料」のほうが嬉しいですよね。


人間、立場によって好ましい状況というのは異なるわけです。
「24時間急患受け入れ可、夜も昼間と同レベルの医療を提供」みたいなのは病院で働いている側からすれば「それは難しい、というか、今の人数でやると働いている人が過労死確実」なのですが、利用する側からすると「そのほうがありがたい」ですよね、たぶん。
結局、サービスを提供する側と利用する側の綱引きみたいなところがあって、利用する側の都合により近づいたほうが、競争では勝つことがほとんどです。


しかしこの、Amazonと宅配業者(ヤマト運輸)という会社、そして、宅配ドライバーと利用者との綱引きというのは、なかなか難しいところがあります。
なんのかんの言っても、やっぱりネット通販や宅配は便利だし、どんどん取り扱い量が増えていくのもわかります。


fujipon.hatenadiary.com

現在、ネット通販時代の「物流」については、上記のエントリを読んでみてください。
(本当は、この新書をひととおち読んでいただくのが、いちばん早いとは思いますが)


Amazonヤマト運輸に「安い料金で発注している」のは事実のようですが、現在のAmazonにとっては、この「ラストマイル」(通販業者の物流センターと利用者を結ぶ最後の区間)は、まさに「生命線」なんですよね。


 ネット通販だと、運営会社は、店舗をつくって商品を見栄えよく陳列したり、販売員を雇ったりというコストを大幅に減らすことができます。
 その一方で、ネット通販では、再配達や返品といった、店舗販売では不要なコストがかかる要素もあるのです。
 Amazonは自前の巨大な配送センターまでつくっており、規模が大きくなるほど「ネット通販だからこそ必要なコスト」も生まれてくるのです。

 アメリカのアマゾンは、年間にどのくらいの配送コストを支払っているのか明らかにしている。2015年、アマゾンは配送料金として115億ドル(1兆3800億円)を支払っている。これは一企業が支払う配送料金だけだが、それ自体、巨額な金額である。この年のアマゾンの売上高は1070億ドル(12兆8400億円)であるから、売上高に占める配送コストだけで10.7%に達する。
 もちろん、これ以外にフルフィルメント・センターなどの稼働コストもあるために、物流コストはもっと高い比率になる。いずれにせよ、配送料金の支払いだけで売上高の10%を超えているということは、ネット通販にとってラストマイルのコストがいかに大きな負担になっているかということを端的に示している。


 アメリカの話ではありますが、日本のAmazonでも、このコストの大きさはそんなに変わりはないと思われます。
 極限までのコストダウン競争となっているネット通販の世界では、この「ラストマイル」こそが、他社との差別化のポイントであり、「現状では、人間の手でやらなければならないところ」なのです。


 でも、そんな状況であれば、宅配業者への待遇を良くして、人も増やしたほうが良いのではないか、とも思いますよね。
 ところが、テクノロジーは、この「ラストマイル」にも大きな変化をもたらそうとしています。


 Amazonは物流コスト削減と人手不足対策のために、ドローンによる無人配送の実験をしています。

 小型貨物を抱いた小さなドローンが、アマゾンのフルフィルメント・センターから飛び立ち、上空を飛行した後、一軒の家庭の玄関前に着陸する。着陸するとすぐに小型貨物を切り離して地面に落とし、ドローンは再び上空に舞い上がって帰っていく。これを玄関口から見ていた住人が、玄関のドアを開けて届いた荷物を取りに出てくる。まるで近未来のシーンのようだが、アマゾンはこうしたドローンの実用化に向けた取り組みをすでに行なっている。
 じつは、このアマゾンのドローンには日本も深くかかわっている。2016年、安倍政権の重要な経済政策の一つである国家戦略特区に千葉市が指定され、そこでドローンを使用した宅配の実証実験が行なわれているが、今後、これにアメリカのアマゾンが参加することが検討されている。本拠地のアメリカでは連邦政府の航空規制が厳しく、ドローンの飛行はいまだに実用化されていない。したがって、これに参加することができればアマゾンにとって新たな突破口を日本で開くことができ、願ってもない好機が到来することになる。ちなみに千葉市では、2019年にもドローン宅配の実用化を目指している。


 いまの宅配業会は、「人手が足りなくてキツい」状況が続いているのですが、それは、近い将来、テクノロジーによって変わってくる可能性が高いのです。
 ただし、この「ドローン宅配」は、地方の一軒家が多いところでは実用化も早そうなんですが、都心などではけっこう難しいかもしれません。
 アメリカの郊外の大きな家であれば、「敷地内の庭に適当に荷物を落とす」だけで良いそうなのですが、日本のアパートや高層マンションではそうはいかないでしょうし、「荷物を乱暴に扱っている」とか「包装の一部が破れている」というようなクレームもきそうですよね。
 とはいえ、宅配というのは短期的には成長産業なのですが、中長期的には、無くなってしまう仕事の可能性が少なからずあるのです。
 となると、どんどん人を増やすことにも迷いが生じるのは当然なわけで。


 上記の新書では、2001年以降、トラック運送業のドライバーの賃金が大きく減少していることも紹介されています。
 ドライバー不足にもかかわらず、賃金は上がらず、労働時間は長い。
 そんな状況だから、新しくやろうという人も少なくなってしまう。まさに悪循環。
 Googleは自動運転の車を開発していますし、近い将来、物流は人間の仕事ではなくなる可能性が大きいのではないかと思われます。
 現在のドライバーの待遇を考えると、機械に任せたほうが良いのかな、とも思うのですが、そうなると、これまで物流で仕事をしてきた人間の雇用はどうなるのか、という問題もありますよね。


 このAmazonヤマト運輸、そしてネット通販利用者の現状というのは、誰かが悪い、という問題ではなくて、物流の世界の「ラストマイルの攻防」というか、ネットによってどんどん効率化されているなかで、「最後に残っている人間の仕事」をめぐる、せめぎ合いなのです。
 Amazonにとっては「ここが他社と差別化するための武器」であり、宅配業者にとっては「キツくてあまり儲からない仕事だけれど、これをやらないと、仕事が大幅に減ってしまう」ことになり、利用者にとっては、「やっぱり安いほうがいいし、早く届くに越したことはない」のです。
 
 
 結局、どこかで均衡がとれることになるでしょうし、いつまでも「送料無料」のビジネスモデルが成り立つとは考えにくいのですが(というか、今でも絶対に「送るコストがゼロ」にはなっていないのですから、どこかでその分の金額が加算されてはいるのです)、利用者としては「なるべく配送予定の時間には家にいて、再配達の必要がないようにする」くらいが「いますぐにできること」なのかな、とは思うんですよね。
 まあでも、「配達予定の時間、ずっと家で待っているくらいなら、自分で買いに行ったほうが早い」ものも多いよなあ。


アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)

アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)

アクセスカウンター