いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

賞味期限切れなのは、『Chikirinの日記』ではなくて、「はてなブックマーク」の方じゃないのかな。

anond.hatelabo.jp


これを読んで、そういえば僕も最近、『Chikirinの日記』読んでないなあ、なんて思ったんですよね。
そもそも、一日に何回も更新するような、一部のブログと比較すると、更新頻度が少ない、というのもあるのですけど。


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冒頭のエントリのブックマークコメントを読んでいると、ちきりんさんに対する批判的なコメントの割合がかなり高いのです。


はてなブックマークを長年利用し、見続けてきた僕としては、ちきりん、イケダハヤト、はあちゅうのお三方は「新・3大はてなブックマーカーに嫌われているブロガー」なので、むべなるかな、という印象ではあります。


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僕もちきりんさんの著書を何冊か買っていますし、感想も書いています。

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読んでいただければわかると思うのですが、ちきりんさんの本って、「普通の中年男性」である僕には、けっこう役に立つことが書かれているんですよ。
でも、「はてなブックマーク」では、批判できるポイントだけがクローズアップされて、「いんちきりん」とか書かれてしまう。
(とか言っても、「ちきりん、というだけで脊髄反射的に批判する人たち」は、僕の感想なんて、まともに読んではくれないのでしょうけど)


ちきりんさんはインターネット発で知名度をあげてきた人だけれど、先日書いた「ゾーニング」という意味では、インターネットのおかげでめんどくさい目にもたくさんあっているのではないか、と僕は思うのです。


fujipon.hatenablog.com



ちきりんさんに対する一部のはてなブックマーカーのバッシングをみていると、いたたまれない気分になります。
そんなに嫌いなら、読まなきゃいいのに、って。
いや、僕だって、ちきりんさんの著書を読んでいると、「それは理屈としては正しいけど、現実にそんなふうにふるまえるような『身も蓋もない人』って、そうそういるもんじゃないだろう」と思いますよ。
最初のエントリのブックマークコメントのなかに、「ちきりん(さん)は、刑務所に入らなかったホリエモン」というのがあって、言い得て妙、だと感じましたし。
彼らくらいの能力やキャリアがあれば、「グローバル社会」を積極的に生き抜こうとするのが「正しい戦略」なのでしょうけど、世の中の人間の大部分はそうじゃない。
彼らの影響を受けたために、太陽に焼かれて死ぬイカロスになれるのならまだ本望かもしれませんが、飛べるはずだと信じてジャンプしたら、地面に真っ逆さまで嘲笑される、という人のほうがはるかに多いと思うのです。


何冊か読んでみて、ようやくわかりました。
ああ、僕は、ちきりんさんが「ターゲットにしている読者」じゃないんだな、って。


おそらく、ちきりんさんは、ある程度の能力と学歴とやる気がある人に向けて書いていると思われます。


ちきりんさんの「正体」という噂のある人の著書のなかで、著者は、「リーダーシップを持つことは、自分の人生のハンドルを自分で握ることなのだ」と繰り返し述べています。
責任は重いし、大変だけれども、自分で行きたいところに行けて、他者に感謝される人生を望ましく感じる人は、少なくないはずだ、とも。

fujipon.hatenadiary.com


「自分の人生のハンドルを自分で握りたい人」がターゲットなのに、ネットでは、そうじゃない人の目にも触れる。
そして、「お前の言うことは、俺には当てはまらない!」と怒りをぶつけられる。
こういうのって、雑誌『LEON』を読んで、「こんな高い商品ばっかり紹介するんじゃない、俺が買えないだろ!」と抗議するようなものです。
ただ、ネットというのは、「いや、お前らに読んでもらうつもりで書いたわけじゃないから」とは言いにくい場所ではありますよね。


「意識が高い人」に対する、いろんな感情はあるだろうけれど、「批判して、引きずりおろそうとする力」が、はてなブックマークには、働くことが多いのです。
それは、ニセ科学批判や、デマの拡散防止には非常に有用だし、一定以上の役割を果たしてきたと思うのだけれど、その一方で、「出る杭を打つ」力が強くようになってきているようにも感じます。
叩きやすいほうを叩く、顔が見えるほうを叩く。
なぜなら、相手にダメージを与えているのを実感できるほうが、楽しいから。


このエントリのなかで、ちきりんさんの著書から「はてなブックマークコメントを非表示にした理由」などが紹介されています。
僕もこのちきりんさんの本は読みました。
規模は大幅に異なりますが、ブログの管理者として、非表示にした理由はわかるような気がします。
コメント欄とかブックマークコメントって、ブログの運営者にとっては、「めんどくささやリスクの割には、メリットが少ないコンテンツ」なんですよ。
直接自分に対して批判されることに関しては「まあしょうがないな」とか、「そんなコメントを書いても、見ている人の大部分はわかっているんじゃないかな」というくらいのものですし、そもそも、僕はブックマークコメントをほとんど読みません。
読むと落ち込むことが多いので。
ただ、全然見ないと、それはそれで荒れてしまうというか、コメント欄のなかで喧嘩をはじめたり、変な宣伝をはじめたりする人も出てきます。
そのエントリを提供している側からすると、「管理責任」みたいなものもあるのではないか、と考えてしまうのです。
僕が叩かれるのはしょうがないとしても、コメントで、叩かれている僕を擁護している人が叩かれている、というような状況は、いたたまれないものがあります。


この「ブックマーカーたちの理屈」って、「ちきりんは(管理者は)ブックマークコメントのひとつひとつに真摯に対応しなければならない」ということなのでしょうか。
物理的にも無理だし、単なる「お前のことが嫌い」的な内容も少なくない。
ブックマークコメントって、そもそも、「意見のやりとりをする場所」じゃないはずです。
本当に「ちきりんさんのブログのあのエントリのあの部分は事実誤認で、世の中を誤った方向に導く」と確信しているのなら、本人にメールを送るとか、自分でブログをつくって、批判するという手もあるはずです。
ブックマークコメントで「批判」しただけで、内容証明を送ったような態度でいるのは、ちょっとおかしい。
そういう「お手軽に批判できるツール」が失われたことに対して、不快なのはわかるけれど、ちきりんさんのブログのコメントには、けっこう酷い内容もたくさんありました。
ある程度社会的に認知されてしまえば、はてなブックマークみたいな「怪文書発生ツール」と距離を置きたい、という気持ちはわかります。


新聞やテレビの報道だって、「似たようなもの」なんですよね。
抗議のための電話や問い合わせメールは用意してあるけれど、電話をかけるとかメールを送るというのは、ブックマークコメントを送るよりも、かなりハードルが高い。
でも、批判する側にも、そのくらいのハードルを設けておかないと、「愉快犯」みたいなのにコンテンツが押しつぶされてしまうかもしれません。


『Chikirinの日記』は、万人に公開されているコンテンツであり、公に批判しても、秘密警察があなたを始末することはありません。
はてなブックマーク」を切り捨てても、同じようなことを繰り返し言っていてマンネリ化していても、『Chikirinの日記』は、一定の支持を集め続けています。
年収150万円で生きる、と言いながら、「お金儲けが楽しくなってきました!」と、自己啓発商材的なものやセミナー、サロンで儲ける方針にあっというまに転換してしまったイケダハヤトさんに比べたら、「あんまり働きたくないし、自分で好きなことをやれるくらいのお金があればいい」と、明言し、ガツガツせずに食べていっている、ちきりんさんのほうが、はるかに一貫性はあります。
そして、そういう生き方の選択肢が世の中にあるのは、たぶん、良いことなのです。


僕はちきりんさんの事実誤認や、あまりにも挑発的な物言いがあることについても理解しているつもりですし、「僕のような落ちこぼれは、きっと、ちきりんさんの良い読者ではないのだろうな」とも痛感しています。
読んでいると「そうか、そんな考え方もあるのか!」って思うのだけれど、しばらくすると、「でも、僕にはそれをやる勇気もバイタリティもないよな……」と落ち込みます。


ちきりんさんも、明らかに間違っているところは修正したほうが良いと思うし、ブックマークコメントだって、表示だけして自分では読まない、という手もあるはずです。
でも、これだけ「何かあったら叩いてやろう」と手ぐすね引いている人たちがたくさんいて、しかも、その人たちが「好きに書かせないと卑怯だ」って言っているツールを、あえて開放するなんていう選択はしないほうが当たり前、だとも思うのです。
それに伴う、アクセス数減少とか、ホットエントリで話題にならなくなる、というリスクは甘んじて受けているのだし。
(ちなみに、僕も昔実験してみたことがありますが、ブックマークコメント一覧を非表示にすると、1〜2割くらいアクセス数が減少します。でも、精神的な安定を優先するのであれば、表示しない、というのも選択肢のひとつではありますし、「批判したいだけの人」を排除するという意味では、有益ですらあるかもしれません。結局、僕は「なんか寂しくなって」また表示するようにしたのですが、状況によっては、また非表示にするかもしれません)


はてなブックマーカーの一部は、支離滅裂な存在です。
そういう人たちほど、声が大きい。
「俺がお前を殴りたいから、みんなが殴っていいことにしろよ」って、どこのジャイアン
自分の都合のいいときだけ、「誹謗中傷」を「批判」だと解釈していませんか?


novtan.hatenablog.com


このエントリに、賛同するブックマークコメントがたくさんついていて、それなりに自浄作用みたいなものもあるのかな、と思ったんですよ。

b.hatena.ne.jp


ところが、ちきりんさんの著書から「ブックマークコメント非表示の理由」を紹介したブログに対するブックマークコメントは、こんな感じです。


b.hatena.ne.jp


自分たちが槍玉に挙がると、「信者」なんてレッテルを貼るのは間違っている!と怒っているのに、ちきりんさんに対して同情的なエントリに関しては「これが信者というものか……」と決めつける人多数(もちろん、「同じ人」がこんな矛盾した行動をとっているとはかぎらないけれど)。
「ネットには批判が必要」と言いながら、自分が批判的なことを書かれたとたんに「それはお前の誤読だ、俺はそんなこと書いていない」と言い出す人、「ネットには何を書いても自由だろ」と言いながら、自分を批判する人の「自由」は認めない人など、多士済々なんですよ本当に。


ちきりんさんも自分の間違いは正したほうが良い。それは間違いありません。
でも、こういう「あふれるネガティブパワーをリスクが低い場所から目立つ何かにぶつけたいだけの集団」を敬遠するのは、致し方ないと思う。
もちろん、ブックマークをする人のなかで、そういうのはごく一部でしかない。
ただ、人の心を傷つけたり、やる気を失わせるには、「ひとこと」で十分な場合もある。


ちきりんさんの言うことには面白いこともあれば不快なこともあるし、わかることもあれば、わからないこともある。
そういうのって、「役に立つところは利用すればいいし、ダメなところは参考にしなければいい」。
それだけだと思うんですよ。


しょうもない「炎上関連ビジネス」「仲間内での暗黙の諒解としてブックマークしあっているブログ」ばかりが結果的に目立つところにディスプレイされている「はてなブックマーク」の現状のほうが、よっぽど「賞味期限切れ」だと僕は感じています。
実際、「ホットエントリ入りすることの恩恵」は、10年前、5年前に比べると、はるかに少なくなりました。
長年やっていると、「またあのブログか」って、見切られてしまう、ということもあるのでしょう。


少なくとも、「良質のサイトを集合知でキュレーションする」という「はてなブックマーク」の理想からは、どんどんかけ離れていっているように、僕には見えます。
まあ、「何が良質か」というのは意見が分かれるところではあるでしょうし、炎上だって面白いコンテンツだと言われたら、返す言葉はないのですけど。


ちなみに僕も、ちきりんさんからTwitterでブロックされています。



「Chikirinの日記」の育て方

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