いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『ワンピース』も歌舞伎もよく知らない中年のオッサンが、『ワンピース歌舞伎』を観てきた話

www.onepiece-kabuki.com


博多座で『ワンピース歌舞伎』を観てきました。
けっこうチケット代も高いし(A席18000円)、僕は歌舞伎も観たことがなく、『ワンピース』もそんなに熱心な読者じゃないというか、たまに子どもと一緒にアニメを観るくらいなのですが、「面白い」という評判を聞いて、観たくなってしまって。
そもそも、こういう機会でもないと、歌舞伎という文化にアプローチすることも、一生ないかもな、なんて思ったりもして。


結論、楽しかった、すごかった、生きててよかった。
いや、これで「歌舞伎を観た」って言ってはいけないのかもしれないけれど、何かすごいものを観た、体験した。
そもそも、やっている側も、歌舞伎らしさ、よりも、「歌舞伎という芸を持っている人間が、それを活かしながら、どうやって観客を喜ばせることができるか」をひたすら追求しているような舞台でした。


2回の休憩を挟む3幕、休憩時間まであわせると、4時間半近い舞台なのですが、時間が経つのを忘れるというのは、こういうことなのだなあ。
歌舞伎というと、観賞の作法とか「○○屋!」みたいな掛け声とか、いろんなルールがあって敷居が高いイメージがあったのだけれど(チケットも安くはないし)、この『ワンピース歌舞伎』は、制服姿の女子高生や小学生も観にきていて、みんな第二幕のクライマックスの大スペクタルが終わったあと、上気しながら、「すごかったね〜!」って、隣の人に何か話しかけずにはいられない、それが恥ずかしくない雰囲気だったんですよ。


僕も隣にいた市川猿之助ファンという高齢のお嬢様(もちろん初対面)と「すごかったですね!」と言葉を交わしてしまったくらいです。日頃、「話しかけるなオーラ」を出しているはずなのに。
その女性は「わたしは猿之助さんのファンなんですけど、あなたは、『ワンピース』?」と尋ねてこられて、僕は「どちらかというとそうですねえ〜」なんて、答えておりました。
「でもこれ、漫画の『ワンピース』より、すごくない?」
いやいやいや、漫画のワンピースだって、すごいんですよ。歌舞伎もすごいけど。


僕はこれを観て、歌舞伎をもっと観てみたいと思いましたし、これまで、あまりに人気があったのでかえって敬遠気味だった『ワンピース』をもう一度ちゃんと読んでみようと決意したのです。
歌舞伎でも『ワンピース』でもない、中途半端なものができるのではないか、と危惧していたのだけれど、ここにあるのは、ただの「極上のエンターテインメント」でした。


ルフィの「ゴム人間」の表現とか、歌舞伎でどうやるのか、と思ったら、限りなく肉体を使った表現とテクノロジーを駆使した手法が併用されていて、すごく感心したのです。
歌舞伎という「制約」のなかでの表現を考え抜くことで生まれた「新しさ」。
そして、なによりも、観客を楽しませてみせる、という矜持。
演じている人たちも、観ている人たちも、とにかく楽しそうだった。いや、楽しかった。
ここまでやるのかよ!って、ツッコミながら、みんなニコニコしていました。


公演パンフレットに、『ONE PIECE』の原作者・尾田栄一郎先生がコメントを寄せていました。
そのなかに、こんな言葉をみつけたのです。

「バカバカしさ」こそが漫画であると僕は考えています。


ほんと、よくここまでやるなあ、この場面、ストーリー的には、別にこんなことまでやる必要ないのに!
でも、こういう「必要はないけど、やれば楽しくなることをひたすら追い求める姿勢」や観客も呆れ返ってしまうような「バカバカしさ」こそが、誰もが笑顔になってしまうエンターテインメントなのかな、って、あらためて思いました。
もちろん、泣かせるシーンは、しっかり泣かせてくれるんですけど。
僕は、自己犠牲とか友情とか家族愛とかなんて幻想じゃないか、と思うこともあるのだけれど、エンターテインメントとしてみせられると、大義や仲間のために犠牲になる人に、感動せずにはいられない。
結局のところ、人の心を動かす「物語」っていうのは、こういうものなのかな。


今回、小学校2年生の長男は、まだわからないだろう、ということで連れてこなかったのですが、あと何年か経って、再演されることがあったら、ぜひ長男にこれを見せたいと思います。
どんな顔をして観るか、その横で見ていたい。
まあ、「次回」があるかどうかわからないのが、エンターテインメントの宿命、でもあるわけですが。
こういうのって、客席の熱量も含めての臨場感なので、映像で観ても、なかなか伝わらないんだよなあ。
老若男女がみんな立ち上がって、宙乗りをしている猿之助=ルフィに手を振っている光景って、その場にいるだけで、けっこう感動的なんですよ。
それは、テレビの画面越しには味わえない。


エンターテインメントって、「人生のうちのほんの一瞬の喜び」なのかもしれないけれど、極上のエンターテインメントに触れたとき、僕は、次にまた体験できるかもしれないこの瞬間のために、もうしばらく生きていっても良いかな、と思うのです。
猿之助さんをはじめとする出演者たちが、幕間に熊本の地震の募金を呼びかけていたのですが、観客たちがみんな笑顔でそれに応じていたのが印象的でした。ちらっと観た募金箱のなかには、お札がいっぱい!
(まあ、それなりに高いチケットを買えるくらいのお金は持っている人々、というのもあるだろうけど)


自然災害はとても不幸なことだし、当事者が、いま、笑顔になれるわけがありません。
でも、いま、ほんの一瞬でも幸せを感じている人が、それを少しでもお裾分けしてあげたい、と募金をするのは、けっして悪いことじゃないという気がするのです。
みんなが沈鬱な顔をしているだけが「支える」ことじゃないはず。
いま、苦しんでいる人たちにも、いつか、この『ワンピース歌舞伎』を見てもらいたい。
この「極上のバカバカしさ」に酔いしれる日が来てほしい。


カーテンコールの最後に、若い男性が猿之助さんと一緒にステージに上がってきて、「うわあああっ!」と客席が大騒ぎに。「誰?誰?」と思いつつ、他の人に聞くこともできず、聞き耳を立てていたのですが、主題歌をつくった『ゆず』の北川さんだったそうです。
僕の母親世代の人たちは、みんな気づいていたというのに!


こういう夜は、飲みながら、誰かと、ただひたすら「すごかったね〜」「うんうん」と語り合えたらいいのになあ、なんて思いつつ。


ちなみに、『ワンピース歌舞伎』を観に行くかどうか迷っていた僕を後押ししてくれたのは、このエントリでした。

zuisho.hatenadiary.jp


「うははーーなんだこのチョッパー! なんだこの滝! 『今日はルフィに会うのはやめておこう!』」
僕もひたすらバカになってきましたよ、ありがとう、ズイショさん。
そして、ありがとう、インターネットと『ワンピース歌舞伎』の演者と客席の皆様。


ちなみに、博多座での公演は、4月26日(火)までで、千秋楽(26日)の公演は売り切れみたいです。
こんな遅いタイミングで、ごめん。
もし、機会があったら、ぜひ観ていただきたい、というか、僕もまた観たいです。


帰りの車のなかで1人になったとき、叫ばすにはいられませんでした。
「海賊王に、俺はなるっ!」


我ながら、ほんっとうにバカだな……
でも、バカになるのって、楽しいな。


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