いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

適切な強さの言葉を選択するというのは、本当に難しい。

tyoshiki.hatenadiary.com


読ませていただきました。
状況にあわせて、適切な強さの言葉を選択するというのは、本当に難しい。
そもそも、「発言すべきかどうか」というのもあって、大概の場合は「沈黙」こそが人生では最適解なのです。
それでも、何か言わずにはいられない、という心境になることもある。
人間って、そのときの体調とか精神状態によって、反応とか引き出されるものが違ってもくるし。
僕は高速道路をスピード違反でぶっ飛ばして行く車を見るたびに、「あの人は、お母さんの死に目に会うために、あんなに急いでいるのだろう」と思うことにしています。
現実的には、そう思えない場合も多いのだけれども、そういうワンクッションを入れることによって、少し落ち着くことができるから。


fujipon.hatenablog.com


「言葉の選択」というのは、実に難しい問題なんですよね。
それは、ブログに限らず、日常生活においても。
ネットにいる時間が長い人なら、あるいは、ちょっとマニアックな趣味を持っている人なら、「自分の趣味の世界で一般的に使われている言葉」と「そこに関わっていない人の、その言葉の認知度の違い」について、戸惑った経験があるのではないでしょうか。
年齢とか仕事によっても、日常的に使われている言葉って、違うし。


2009年に『シュタインズゲート』というゲームが発売されて、この時代のアドベンチャーゲーム(というか、ほとんどテキストを読むだけの「ノベルゲーム」)としては、異例の評価と売り上げを記録したのです。
僕は何年かあとに、このゲームをやってみたのですが、そのゲーム内では「2ちゃんねる用語」みたいなのが洪水のように出てきます(いちおう、ゲーム内で膨大な「解説」を読めるようにはなっています)。
僕はまあ、その言葉のほとんどを「理解できた」のですが、プレイしながら、「ここは、こんなネットスラングだらけのゲームが、大ヒットする世界線(ちょっとゲームの影響受けてる)なのか……」と驚いていました。


ほんと、言葉って、難しいですよね。
僕は「ディスる」って言葉を口にしたことはないし、ネットでも他者の言葉の引用以外で使うことはほとんどありません。
汚い言葉だと思っているというよりは、使用経験に乏しくて、意味を把握できている自信がないからです。
ネットで、「多くの人に読んでもらいたい」「人気ブログになって稼ぎたい」と言っている人が「バズる」なんて言葉をサラッと書いていると、すごくモヤモヤします。
バズズ?『ドラゴンクエスト』の?」なんて思う人って、いないのだろうか。
知らなかったら検索すればいい、ということなのかもしれませんが、そういうところで、「読む人への配慮」は察知されるものです。
(あと、蛇足ですが、まとまった文章の真ん中に広告が貼られていると、僕はものすごく萎えます。そのほうが「稼げる」かもしれないけれど、文章を読んでいる人の目と心の連続性をぶった切ってどうするんだ、と思う)
ちょっと前には、こじゃれた店に行くと、広告代理店の関係者っぽい人が「だから、イノベーションが必要なんだよ!」とか大声で言っているのを耳にしていました。
それって、「発想の転換」とか「斬新なアイディア」とかじゃダメなのかな。
そうこう言っているうちに、横文字のほうが伝わるようになってしまったであろう言葉(プレゼンテーション、とか)も多いのですけど。


僕はいま40代半ばくらいで、ネット利用者としては、ちょうど真ん中くらいの世代のはずです。
自分より年長の人はわかりにくいだろうな、と思う言葉に関しては、なるべくわかりやすく言い換えるようにしています。
それはたぶん、職業的な経験もあるのだと思う。
「オペ」くらいは通用するにしても、傍できいていると「これ、患者さんにはわけわからないだろうな」っていう専門用語だらけの「患者説明」をしている医者というのは、少なからずいるから。
ただ、「わかりやすくする」っていうのは、「難しいものを難しいまま説明する」ことに比べて、「事実」と離れてしまうリスクもあるのです。


いちおう、僕のなかでは、ネットに書く文章は、いま60歳くらいの人には、伝わるように、と意識しています。
僕の親の世代が読んでもわかってくれるように、というイメージです。


ああ、また長くなってきた。


今回、書こうと思っていたのは「言葉の強さ」のことなんですよ。
先日、ある後輩と話していて、うっかり「劣化」という言葉を使ってしまったんですよね。
僕はネットスラング的なものは実生活では出さないように気をつけていたつもりなのに、けっこう話が合う後輩だったので、つい。
「先生、人間に対して『劣化』って言うのは、失礼ですよ」と、軽くたしなめられたのは、「しまった」と思ったのとほぼ同時でした。
そう遠慮なく言ってくれた後輩には、感謝しなくては。


ネットでは、人間、とくに女性の容姿について「劣化」って言葉をけっこう使いますよね。もちろん、ネガティブな意味で。
一般的には「劣化」というのは、「モノ」に対して使われてきた言葉でした。
ちょっと懐かしい話をすれば、「ビデオテープを何度も上書きしていたら、劣化して伸びて使えなくなってしまった」というような際に。
「劣化」というのは、ネットスラングでは「ルックスが悪くなった」という意味で使われるのですが、「ヘビーネットユーザー」や「一部の口の悪い若者」以外にとっては、悪口であるだけではなく、「人間に対して使っている時点で失礼な言葉」なのです。


はてな』にかぎらず、ネット上で使われている言葉のなかには、ネットでの罵倒のやりとりに慣れている人たちにとっては「日常的に使われるスラング」でも、そうでない人にとっては、あるいは、それを言われる人にとっては「酷い悪口」として受けとられるものが、少なからずあると思うんですよ。


たとえば「意識高い系」「スイーツ(笑)」「あの界隈」なんていうのは、言葉だけみれば、そんなに悪い字は含まれていませんよね。
でも、僕が学生で、就職活動がうまくいかなかったり、これからの人生に悩んでいるときに、「意識高い系」って指差されたら、けっこう傷つくと思う。
ナイーブすぎる、という声が聞こえてくるけれど、たしかにそうかもしれません。
それでも、「言う側がイメージしている言葉の強さと、受け手に与えるダメージは、必ずしも同じではない」のです。
「そのくらいの悪口、たいしたことない」というのは、言う側の主観でしかない。
自分が信頼している友人や仲間を「あの界隈」呼ばわりされたら、やっぱり厭じゃない?
もちろん、怪しい人もいるけれど、なんでもひとくくりに「怪しい界隈」呼ばわりする人に「説得」されるヤツなんていない。
子どもだって、自分の友達のことを、親が「あんな子と遊んじゃダメ」って言ったら、怒るし、親にも失望するよ。


fujipon.hatenablog.com


僕は、このエントリで、あえて「引きずりおろそうとする力」という「強い言葉」を選択しました。
それは「現実に起きていることに対して、強すぎる表現である」と感じた人がいることは理解できます。
訂正する気はないけれど、不快にしてしまって申し訳ない。
強い表現のほうが、目に留まるのではないか、という気持ちもありました。
ただ、僕自身には、あの言葉が「妥当」だったのです。
ネットで長年罵声を浴びせられたり、浴びせられている人を見たりしていると、「これって、いったい何なのだろうなあ、という気分になってきます。
僕も疲れているのかもね。

エアロビお姉さんに対する批判的な声が強かったからネット民はすぐなんでも批判するとかネットは引きずり落とす力が強いってのは違うよね。


これはたしかにその通りなんですよ。
ネットには、確かに、困っている人、絶望している人をサポートする力もあるし、それをやっている人たちもいる。
問題を可視化したり、地味にがんばっている人にスポットライトをあててみせることもある。
そして、それはときに、「引きずりおろしている人」と同じ人によって行われたりもする(たぶん)。


あれは、ネットの負の面、「引きずりおろす作用」の典型例であり、だからこそ言及したのです。
あの人は「自分の責任で挑戦する」と宣言し、長年、そのジャンルで実績もあげてきていた。
僕には、十分すぎるくらいチャンスがありそうに思われました。
あれでもダメなの? 「あの界隈」だから?
そういうのって、おかしくない? 
「この人」の事例を丁寧に考えて「批判」しているの?
ネットでは、「叩いていい」という空気ができると、その対象に、よってたかって、罵詈雑言が浴びせられることがあるのです。
そして、対象が致命的に傷つけられても、「そんなつもりじゃなかった」「死ぬことはなかったのに」「自分のひとつのコメントでどうこうってことはない」「ネットでは批判されることがあるのは当たり前」という「逃げ道」ができあがっている。
僕は、そういうのが大嫌いです。
「覚悟の上で人を傷つける」のではなく、「そんなつもりじゃない」人たちが、数の力にまかせて、とりかえしのつかないことをやってしまう。
それは、ものすごく不幸なことであり、「集団」のマイナス面ではなかろうか。


僕には、他者が使う言葉に対して、「相手が見えていない」と言う資格は無いのかもしれません。
それでも、こういうのはやはり言葉にしてみないと伝わりようがないので、このエントリを書いています。
言葉って、怖い。
にもかかわらず、あまりにも無力だ。



何者 (新潮文庫)

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