いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

まだ「建築」に興味が持てない大人たちに、読んでみてほしい5冊。


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男の子(じゃないけど)も、けっこう好きです、建築。
僕は子供の頃、建物にはほとんど興味がなかったのです。
東京タワーとか金閣寺には、「高いなあ」とか「金色だなあ」というくらいの感慨があったのですが、慈照寺銀閣)は「くすんでるなあ」でした。
ましていわんや、ル・コルビュジエの「サヴォア邸」とか「ただの家じゃん!」って感じだったし、安藤忠雄さんの「住吉の長屋」も、「そんなに騒ぐようなものか?」と。
中にゲームセンターか水族館でもつくってくれていればいいのに!
昔の銀行とかホテルとかを有名建築家の名前をあげて有難がる気持ちも、まったく理解できませんでした。
ガウディの「サグラダ・ファミリア」くらいだったら、認めてやらんでもない、とか、そのレベルで「建物って、所詮、容れ物でしかないだろ」と。


ところが、40歳を過ぎて、いろんな本を読んでいると、どうも、「建築」というのが面白く感じられるようになってきたのです。
建築って、好きな人は、子どもの頃からすごく興味を持って、建築家を目指したりするものみたいだけれど。
僕の場合は、「遅すぎる建築熱」みたいなものなのでしょう。
もちろん、権力者のように自分で建てることはできないので、見るほう専門ですけど。


今回は、そんな僕が建築に興味を持つきっかけとなった、「建築に関する本」を5冊紹介してみたいと思います。


(1)藤森照信×山口晃 日本建築集中講義
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常にマイペースで、何を考えているのかよくわからない(それでいて、解説はピンポイントで要点をついてくるような)藤森先生と、冷静に状況を観察しているようで、ちょっと斜め上から建物を観察しているようで、ときには静かに感動している山口先生。

なんだか不思議な組み合わせではありますが、おふたりの掛け合いを読んでいるうちに、少しだけ僕にも日本建築の魅力がわかってきたような気がして、まったく無知な素人である僕にも比較的読みやすい一冊でした。

読んでいると、「こういう建物があったのか、行ってみたい!」とは思うのですが「投入堂」って、最近流行っているのだろうか、なんだかすごいところにあるみたいなのだけれど、最近よく見かけるんだよなあ……



(2)建築武者修行 ―放課後のベルリン
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この本のなかでは、著者が4年間のドイツでの生活で会ったさまざまな人、そして、欧州各地の有名な建築が紹介されています。

カラー写真はもちろんなのですが、著者のスケッチが素晴らしくて、「ああ、建築家になるには、このくらい絵が描けないとダメなのか……」なんて、感心してしまいました。

「建築」にすごく興味があって、蘊蓄を語れるような人って、その関係の仕事に就いていなければ、そうそういないと思うのですが、この本のなかでは、著者が「自分のフィルターを通して、ヨーロッパ各地の有名建築の魅力を言葉にして語ってくれる」のです。



(3)ぼくらの近代建築デラックス!
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この本は、「近代建築ファン」である人気作家の万城目学さんと門井慶喜さんのおふたりが、京都・大阪・神戸・横浜・東京で、それぞれオススメの近代建築を巡りながら、四方山話をする、という雑誌連載を書籍化したものです(2012年発行)。


 おふたりは、「建築ファン」ではあるけれど、「建築家」ではありませんから、それぞれの建物の「専門的・技術的な解説」は、ちょっと物足りないな、と感じます。

 その一方で、それぞれの建物ができた背景や、建築家のエピソードなどの「周辺情報」については、興味深い蘊蓄満載で、むしろ、「脱線している部分のほうが面白い」のです。



(4)駅をデザインする
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この新書には写真がふんだんに使われていて(その分、少し価格の高いのですが)、昔の広告だらけのゴチャゴチャした駅の案内表示と最近のスッキリとした表示をみると、「あんまり意識しないあいだに、この20~30年くらいで、こんなに変わっていたのか」と驚かされます。

そして、海外の駅のデザインのカッコよさ、シンプルさにも圧倒されます。



(5)安藤忠雄 仕事をつくる
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センターカラーの安藤さんのこれまでの作品の写真も素晴らしいですし、安藤さんのファンじゃなくても、「仕事に向かっていく気力がわかなくなっている人」にも、読んでみていただきたい一冊です。

 私の仕事をみて、「好きなことをやってお金をもらえるからいいですね」などと言う人がいる。他人のカネで自分のつくりたいものをつくる、うらやましい仕事にみえるらしい。しかし実際は、常に「現実」と渡り合う、一に調整、二にも三にも調整という地味で過酷な仕事である。

ああ、仕事って、安藤さんにとっても、そういうものなんだなあ。

それでもやっぱり、安藤さんは、すごく仕事が楽しそうなんですよね。



以前読んだ『超<集客力>革命』という新書で、こんな話が紹介されていました。

 子どもたちに美術館で学んでほしい。その一方で、教育の場にももっと個性的な建築デザインが導入されてもいいのではないかと私は思っている。学校の校舎を個性的にすることは、子どもたちの意識を変えるきっかけになるはずだからだ。
 これは私だけの考えではない。石川県加賀市にある市立錦城中学は安藤忠雄さんが設計を手掛けている。市長が安藤建築の大ファンだったことから依頼があったという。
 この学校の建築デザインはすばらしい。安藤さんといえばコンクリート建築で有名だが、この学校は加賀市の木材で造られている。舟のかたちをした建物は、一見、学校とは思えないほどユニークだ。
 校長に話を聞いたところ、安藤さんの新校舎になってから、生徒たちが変わったという。旧校舎時代には、校内で生徒同士のいざこざがあったり、窓ガラスが壊されたりと、いわゆる「荒れた」時期もあったそうだが、新校舎になってまったくそういうことがなくなったという。
 どこにでもある同じような没個性の四角い箱の校舎ではなく、世界に一つ、どこにも例がない学校に通っているということは生徒にとっても誇りが持てることだと思う。学校を愛することができれば、自然と校舎を大切にする。建築表現の多様さを体現した空間のなかで感性に刺激を受けながら勉強できるとは、なんと幸せなことなのだろうか。安藤さんは錦城中学のほかにも伊東市の野間自由幼稚園など、教育環境に関わる設計にも積極的だ。


『容れ物』って、すごく大事なんですよね。
以前の僕にとっての「建築」って、生活の場でもあるだけに、自然の景観や遺跡に比べて、「ありがたみ」が、ちょっと少ないような気がしていました。
でも、それが人間によって作られたものだからこその面白さもあるのですね。


身近なところに、タダで見ることができる「面白い建物」って、けっこうあるみたいなんですよ。
ここで紹介した本、マニアの皆様にとっては「ヌルい」とは思いますが、「ちょっと興味の幅を広げてみたい大人」に、手にとってみてほしいなあ。


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