いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「セブンイレブンの酷かった店」の話を聞いて、サービスの「均質性」について考えた。

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ああ、タクシーには僕もいくつか「思い出」があって、乗るときには、ちょっと身構えたりもするのです。

fujipon.hatenablog.com


ただ、僕の場合は地方都市住まいなので、「個人タクシー」に遭遇する機会が少ないし、最近は飲み会も減ったので、あまりタクシーにも乗らなくなりました。
いやほんと、なんで客なのに「近くてごめんね」って言わなきゃいけないのか、とは思うんだけど、タクシー運転手という仕事の懐具合をネットなどで知ってしまうと、やっぱりちょっと申し訳ないかなあ、というのと。


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いちばん良いのは「良質の個人タクシーの運転手さんの連絡先を教えてもらって、その人に優先的に頼むこと」だと、昔、先輩が言っていましたが、僕くらいの利用距離と頻度だと、それもちょっと難しい。地方都市だと、基本的には自家用車が便利ですから。


個人的には、知らない人と世間話をするのが苦手なので、タクシーには「できれば乗らずに済ませたい」のです。
冒頭のエントリに「サービスの均質化」の話が出てくるのですが、個人タクシーの場合、自分の色を出そうとして、さまざまな工夫をする人が多い。
彼らは悪意や手抜きで「お客にあれこれ話しかける」とか「自分の趣味の音楽を素晴らしい音響で響かせる」わけではなく、それが「創意工夫」であり、「誠意」だと考えています。
僕にとっては困ったことに、それに対して「面白い!」と評価するお客もいるわけで、そういう成功体験を積み重ねた運転手さんに、僕の「話しかけないでほしいATフィールド」は通用しない。
いやまあ、僕だって、ちょっと酔っぱらって、あれこれ話をすることだってあるので、「均質化された客」じゃないんだけどさ。


先日、「最近行ったコンビニが感じ悪かった」という話を、妻がしてくれました。
そこは、業界最大手の某コンビニチェーンの、地方都市の駅前にある店。
というか、こういう「誰にもわかる『某』って、無意味ですね。セブンイレブンです。


その店に入って、最初に気付いたのは、「コーヒーの匂いがちょっと変なこと」だったそうです。
お客が店内にいるのに、レジでは経営者らしいおばちゃんが、店員に、延々と大声で愚痴を言い続けているし、店内は薄汚れていて、トイレも汚い。
それでも、背に腹は代えられず、トイレに行ったあと、半ば怖いものみたさもあって(やめておけばいいのに!)、ホットコーヒーを飲んでみたら、同じセブンカフェのコーヒーとは思えないような不味さ。
あれは、機械のメンテナンスをしっかりしていないからだと思う、とのことでしたが、ひたすら「残念な店」だったとのことでした。
それでも、駅前、近くに他のセブンイレブンがない、という条件の良さで、ここまでやってこられたのではないかと思われます。


僕自身、コンビニはかなりの頻度で利用しており、ちょっと困った目に遭ったことも何度かあるのです。

fujipon.hatenablog.com


しかしながら、ここまで酷いセブンイレブンの話ははじめて聞いたので、ちょっと驚いてしまいました。
あの厳しい(という噂の)本部の人たちは、何をやっているんだ!
そのおばちゃんのパワーの前で「指導」も難しいのだろうか。
……って、あれだけのコンビニがあるのですから、セブンイレブンの中にも、感じが良い店があれば、そうでもない店があるのは当然のことではあるのですけど。
そういう意味では、セブンイレブンは、コンビニチェーンのなかで、最も「サービスが均質化」されていると僕は感じています。
それも、かなり高いレベルで。
nanacoつくりませんか攻撃」は、とりあえずいまは作ってしまったので、食らわなくなりましたし。
ローソン、そしてファミリーマートくらいまでは「そんなに酷い目にあったことはない」と書こうと思ったら、ローソンで『マッドマックス2』のDVD買ったら、箱だけで中身が入っていないことがあったぞ。店員さんの動きがどうも変だと思って中身を確認したら、サンプルのケースがそのまま入ってた。いやこれはわざとじゃないというか、コンビニでDVDってそんなに売れるものじゃないのだろうけどねえ……


コンビニって、店内の掃除や機械の清掃や商品の仕入れ仕分けもあり、揚げ物商品やおでんの管理、チケット関係の操作とか公共料金の処理とか宅配便とか、とにかく業務の種類が多くて大変だ、という話も聞きます。レジ打ちだけで済む、単純労働ではない。にもかかわらず、「コンビニバイト」って、「マックジョブ」の代表例のように思いこまれている。時給もけっして良くはない。
そんな状況を考えると、セブンイレブンの「サービスの均質性」ってすごい。
働く側からすれば、ものすごくキツイんじゃないかと思うけど。


もう20年くらい前に、(大手ではない)コンビニで、ものすごくモヤモヤしたというか、不快だった記憶があるのです。
昼下がり、ちょっと小腹がすいた、という感じで大学の近くのそのコンビニに入ったんですよね。
パンとかスナック菓子、飲みものなどを買ってレジに持っていくと、経営者家族の一員なのかアルバイトなのかわかりませんが、接客に不慣れそうな中年男性(たぶん、いまの僕くらい、40代半ばか、もうちょっと上くらいだったんじゃないかな)がレジを打ちながら、ぎこちなく、話しかけてきたのです。


「ひもじかったとですね」


「えっ、は、はあ……」と、言葉に詰まってしまった僕。



 「ひもじい」という言葉は、方言なのか比較的古めの標準語なのかわかりませんが(『妖怪ウォッチ』に「ひも爺」というのが出てくるので、たぶん後者なのでしょう)、「お腹がすいている。飢えている」という意味です。
 「お腹すいてるんですね」ってレジで知らないおじさんに言われたところで、なんでこんなに嫌な感じがしたのだろう、と、あれから20年くらい、ときどき思い出しては自分の中で考えてみるのですが、いまだによくわかりません。
 でも、それは「わざわざ言わなくてもいいこと」ではありますよね。
 店の常連でいつも言葉を交わしているとか、顔見知りならともかく。
 いや、僕にだってわかっているんです。あのおじさんに悪意が無かったというのは。
 むしろ、「お客さんと積極的に会話して、フレンドリーな空気をつくりましょう」というようなマニュアルとかサービス術の本みたいなのを一生懸命に読んだ結果なんじゃないか、とも思う。
 その「無理してがんばって話しかけてくるような感じ」がまた、イヤだったんだよな、あのときは。


 コニュニケーションとかサービスに関するマニュアルとかノウハウ本には、「何か特別なサービスをして、お客さんに自分を印象づけましょう」みたいなことが書いてあることが多いのです。
 僕もそういうのを読んで、影響されていた時期がありました。
 でも、そういう「東京ディズニーランドで感動した話」みたいなのが成り立つのは、お客の状況とか、それを行うタイミングとか、サービスの適切な範囲とか、ものすごく多くの条件が、うまくマッチしたときだけ、なんですよね。


 主役ではない人は「なるべく自分の存在を消す」ほうが、他者への配慮になることも多いのです。
 お通夜に参列するとき、遺族に何か気のきいた言葉をかけよう、と思っていた時期があります。
 でも、事前に準備した「気のきいた言葉」って、実際に口にしてみると、かえって空疎に感じてしまうんですよね。
 「良いこと」を言えば言おうとするほど、上滑りしてしまう。
 だからいまは、黙って頭を下げ、「ご愁傷さまでした」と定型句を述べることにしています。
 結局のところ、「こちらの都合や思いを優先させない」というのが「大成功はしないけれど、不快感を与えない他者との接しかた」の要諦なのではなかろうか。


 まあでも、こういうのって、冒頭のエントリにもあるように「自分の裁量で、他者を感動させるようなサービスをつくれる人」にとっては、「やりがいがない」でしょうね。
 他者との「差別化」も難しいかもしれない。


 ただ、僕は基本的に、「すごく良い可能性はあるけれど、ハズレの接客に当たる不安を感じる」よりは、「とりあえず不快な気分にはならない」ほうを選びます。
 「良い接客」って、よっぽどのことがなければ、店を出て10歩くらいで忘れちゃうけど、「悪い接客」って、たいしたことがなくても、ずっと尾を引くものだし。



潜入ルポ 東京タクシー運転手 (文春新書)

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