先日、福岡のジュンク堂に久々に行ったのです。
最近は僕の地元にもかなりの品揃えの紀伊國屋があるし、そこでダメならAmazon、という流れになってしまっているのですが、やはり大型書店というのは、ぶらぶらしているだけでも楽しいものですね。
時間が経つのを忘れて、妻との待ち合わせに遅れそうになって大変危険でした。
そこで購入したのが、大塚明夫さんの『声優魂』と杏さんの『杏のふむふむ』の文庫版。
レジに持っていって会計したあと、「このオッサン、いい年してミーハーで芸能界好きなんだな」とか、店員さんに思われたのではないかと気づき、ちょっと凹みました。いや、好きなんですよ、好きなんですけど、芸能人本とか。
でも、一冊くらい『なぜ帰還兵は自殺するのか』とか『ヒトラーランド』とかを入れておけばよかった、と後悔しました。
出先で、書店に入り浸っていることがバレると、ちょっと怒られそうな状況だったんですよ。できればあまり大きな本は買いたくなくて……(往生際の悪い言い訳)
と、長過ぎる前置きはこのくらいにしましょうか。
この『杏のふむふむ』は、平台に積まれていて、店員さんによるPOP(というか、宣伝コピー的なもの)が添えられていました。
「村上春樹さんが解説を書いています!」
本のオビにも、著者である杏さんの名前よりもずっと大きく「解説・村上春樹」って書いてあるんですよ。
それを見て、思わず手に取ってしまった僕も僕なんですが。
解説そのものは、立ち読みでザッと読める程度の分量なのですが、「解説を書いている」というだけで、「村上春樹お墨付き」みたいな気がするのは、なぜなのだろうか。
そもそも、「村上春樹の解説」に、なぜこんなにインパクトがあるかというと、村上さん自身は、自作の文庫版に「解説」を入れない人なんですよね。
でも、他の人への「解説」は書くのか、と。
杏さんのような美しい女性に頼まれたら、ホイホイと「解説」書いてしまうのか村上さん!
……などと思いつつ、検索してみたら、今回の『村上さんに聞いてみよう』にも、「解説」についての質問と回答があったのです。
なるほど、「『解説』には、業界内での貸し借りみたいな面がある」のか……ということで、「借り」をつくるのはめんどくさいので、村上春樹さんは文庫解説を入れていない、と。
ただし、「『解説』というのは、その作品に対するイメージを固定してしまう可能性があるので、望ましくないと考えている」というような村上さんの発言を以前読んだこともあるので(今回、出典を見つけられませんでした。すみません)、おそらく、「借りをつくりたくない」のと、「イメージを固定されたくない」の両方の理由があるのではないかと思われます。
杏さんについては、今回の解説を読むと、もともと面識があったということと、このエッセイも面白かった、ということ、そして、今回、杏さん自身からの自筆の手紙での丁寧な依頼もあったようです。
まあ、杏さんからそこまでされては、なかなか断れるものじゃないよね。
今回あらためて調べてみると、村上春樹さんは「自分の文庫に解説は入れない主義」だけれど、他の人が書いたものへの「解説」は、親しい人(たとえば安西水丸さんとか)に関しては、こだわりなく引き受けておられるようですし。
「貸しはつくってもいいけど、とにかく、『借り』はつくりたくない性格」なのかもしれませんね。
世の中の文庫好きの人のなかには「解説をまず最初に読む」とか「この人の解説を読みたいから買う」とかいう人もいるらしいのです。
僕は「解説」にあんまりこだわりがなく、「買った本に解説がついていたら、活字中毒者としては読まないともったいない気がするから読む」というくらいの認識です。
村上さんは、以前、「著者どうしのエール交換みたいな文庫解説が苦手」というような発言をされていた記憶があって(これも出典を探したのですが、「これ!」というのは見つかりませんでした。すみません)、僕も「面白くもない作品を、友達だからという理由で褒めていたり、個人的な交友関係について書いているだけの友達自慢『解説』」には辟易することも多いのです。
「本文の前に、まず解説を読む」なんていう人もいるらしいのですが、ミステリだったらネタバレしてたりしますしね。
「解説買い」をしたのは、40年以上生きていて、この『杏のふむふむ』がはじめてかもしれません。
読んでみると、けっこう面白かったんですけどね、このエッセイ集。
実は、僕にもいくつか「記憶に残る文庫解説」というのがあるのです。d.hatena.ne.jp
この文庫版では、町山智浩さんの強烈な「解説」が、速水の独白に酔った読者に、冷水をぶっかけてくれます。
いやしかし、これ、よく枡野さんもOKしたものです。
この「解説」を読むと、読後感が全く変わってしまうのだから。
文庫の「解説」って、その要不要を含めて、さまざまな議論が出尽くしているような気もするのですが、僕としては「著者よりも解説者の名前のほうが大きくて良いのか?」という疑問とともに(著者だって、超有名人なのに!)、「解説者買い」っていうのもあるのだなあ、まさか自分がそんなことをしてしまうとは、と意外だったのでした。
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