『証拠調査士は見た! ~すぐ隣にいる悪辣非道な面々』という本のなかで、ある「欠陥マンション」についての話が紹介されています。
大手不動産会社から、最上階のマンションを買った鈴木さん(仮名)。
ところが、住んでみると屋上からの雨漏りがひどいことがわかりました。
それも、運悪く、「たまたま鈴木さんの部屋の天井だけに漏れた水が直撃した」のです。
鈴木さんはマンションの管理会社に欠陥を訴えたが、対応した担当者は工事の瑕疵を全く認めず、「あなたの希望する屋上の改修工事を行うためには2千万円が必要。実施するなら管理組合理事会の決議を経たうえで申請してほしい。工事費は全住民の管理費に上乗せする形で徴収する」と言ってきた。
盗人猛々しいとはこのことだが、たいていの不動産会社はこんな対応をしてくるものだ。
「冗談じゃない! 雨漏りの原因は工事の欠陥だ。その負担をなんで我々がしなければならないんだ!」
毎日のように管理会社に赴いて抗議を続けた鈴木さんだが対応は変わらず。並行して、施行した大手不動産会社「A」にも直接抗議をしたが、帰ってくる回答は管理会社と全く同じものだった。管理会社が元締めの不動産会社から回答方法を指示されているのだろうから、当然といえば当然だ。
それでも鈴木さんは抗議を続けた。不幸だったのは、直接の漏水被害を受けていたのが鈴木さんだけだったために、同調者が現れなかったこと。他の住民にしてみれば「うちは特に問題ないしね」ということなのだろう。
この話を読んでいて愕然としたのは、「悪徳不動産」「悪徳管理会社」の対応の酷さはもちろんのこと、そういう対応を「黙認」してしまう「普通のひと」が大勢いるのだ、ということでした。
「うちは特に問題ないから」ということで、鈴木さんの訴えに同じマンションの住民は協力しなかったのです。
管理費上がるのはイヤだというのはわかるし、揉め事を避けたいのも理解できるんだけど、こういうのって、「次は自分が被害者になるかも……」と思わないのだろうか……
そもそもこれって、住んだ直後から起こっているですから、もともとの工事に問題があったはず。
こんなことがある人の部屋に起こっていたら、自分の部屋にも、そのうち、同じようなトラブルが起こる可能性は十分あるはずです。
こういう、「自分さえよければいい」「面倒事は避けたい」という「場当たり的な事なかれ主義」は、長い目でみれば、自分のクビを締めることになりかねない。
そんなことは、ちょっと考えればわかるはずなのに、それが「とりあえず、他人に起こったこと」であれば「あの人は運が悪かった」「当事者じゃないのに、巻き込まれたくない」などと、自分に言い聞かせてしまうのです。
そりゃ、世界のすべてのトラブルに、当事者意識を持って関わることは難しいと思う。
でも、「いつか自分の身に降りかかってくるかもしれないこと」であるのが明らかな身近な事例であっても、「見て見ぬふりをする」人は、少なくない。
それどころか、鈴木さんのような人に対して、「あなたの家の問題なんだから、自分で解決してほしい」と突き放したり、「あんなにカッカしちゃって」なんて、揶揄する人もいるのです。
でも、現実問題として、こういう他者のスタンスを「変える」ことは、簡単ではありません。
「理屈としての正しさ」は、必ずしも、人を動かさない。
それは、悲しいことではあるけれど。
著者は、この本の最後に、こう述べています。
私は相談をしてくれた方にいつも言うことがあります。
「最後は人のつながりなんですよ」
この考えは、どんな事件でも、相手がどんな社会的立場でも基本的に変わることはありません。それさえしっかりしていれば、ほとんどのトラブルは未然に防ぐことができます。
ご近所や親戚の「つきあい」って、めんどくさいですよね。
僕もすごく苦手です。
でも、この本を読んでいると、著者に事件解決を依頼してくる人の多くは「本人から相談された友だち」なのだそうです。
空き巣にしても、地域とのつながりがあれば、犯罪者だって、「孤立している人」よりは、手が出しにくくなります。
わざわざ「めんどくさいところ」を狙おうとはしないから。
人がイヤになって、人を避けようとすればするほど、かえって悪いやつらに狙われてしまうという悪循環。
鈴木さんだって、周囲の人たちとのつき合いがあれば(といっても、引っ越し直後では難しいかもしれませんが)、「あいつを助けてやろう」ということで、同調者の数が力になって、交渉がスムースに進んだかもしれません。
他人とか世間というのは、基本的に「冷たい」と僕も思います。
でも、「冷たい」ことに絶望し、嘆いてばかりでは、かえって孤立を深めてしまうこともある。
孤立してしまうと、邪悪なものから、容易に各個撃破されてしまいます。
ほんと、煩わしい話ではあるんだけれど、最後に自分を助けるのは「人とのつながり」なんだろうな、と思うのです。
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