参考リンク(1):バラエティーに「出演する首相」と「出演しない首相」どちらが良いか?(片岡英彦) - 個人 - Yahoo!ニュース
参考リンク(2):安倍首相「笑っていいとも!」出演詳報 - MSN産経ニュース
祝日だったこともあり、僕も安倍首相がゲストだった、2014年3月21日の『笑っていいとも』を観ました。
現職総理大臣としては初だという、バラエティ番組への出演。
どんな「テレフォンショッキング」になるのかと思っていましたし、内心「一国の首相たるもの、もっと他にやるべきことがあるのではないか?」という疑問も感じてはいたんですよね。
ふたりのトークは、政策の宣伝というような感じでも、首相が笑いをとりにいくような雰囲気でもなく、タモリさんが日本の首相に敬意を表しつつも、ところどころにツッコミを入れ、比較的和やかに会話をリードしていました。
正直、僕は安倍首相があまり好きではありませんでした。
消費税増税のこともあるし、強気すぎる外交で日本の立場を難しくしているのではないか、とか戦争をやりたがっている人なのではないか、と感じることもあって。
この日の『テレフォンショッキング』で、すごく印象的なやりとりがあったのです。
参考リンク(2)の記事より。
安倍「あの『ボキャブラ天国』という番組ございましたよね。私、ファンでしてね。なかなか相当の技術というか、考えていかないとできませんから。で、私はよく見ていたんですが、特に一回持病が悪化して入院していたとき、十数年前、そのときはやっぱり『ボキャブラ天国』を見ると笑うじゃないですか。笑いっていうのは健康にはすごくいいんですよ。暗い気持ちで『ボキャブラ』を見るとですね…」
安倍「笑ってたんです。“大玉”とか出るやつですよね」
タモリ「バラエティー好きなんですか」
安倍「私はたまに見ますよね」
タモリ「資料とか見るとバラエティーとか一切出てこないですが」
安倍「バラエティーのことはあんまり聞かれないですから。ですからまあ、こういう楽しい番組というのはですね、気持ちが朗らかになることが大切ですよ。人間こう、プラス志向でね。こういう(贈られた)花、いつから始まったのかは知りませんけれどね。こういう花というのは『この人贈ってくれてありがとう』という気持ちにもなるし、見方によっては『あいつの花がないじゃないか』と思う人もいるわけですね(笑)。これは物事の見方なんだろうと思いますね。やっぱり『贈ってくれてありがとう』というところで止めておくのが大切で(笑)」
安倍さんが体調を崩して入院していた際に、タモリさん司会の『ボキャブラ天国』を観て、病室で笑っていた、という話。
ただ、それだけの話、なんですけど、政治家として嘱望され、日本のトップに座るような人でも、病気になれば精神的に落ち込むこともあるし、バラエティ番組に癒されることもあるのだよなあ、って。
そして、「追い詰められ、落ち込んでいる人を『笑い』で(一瞬でも)救う」というのは、バラエティ番組にしかできない大きな役割だと思うのです。
たぶん、安倍さんは、『ボキャブラ天国』をひとり病室で観ていたはずです。
(もしかしたら、SPがついていたかもしれませんが)
そして、「まだ自分が笑えること」を再確認していたのでしょう。
もちろん、家族や知り合いに励まされたり、感動的なドキュメンタリーで「救われる」こともあります。
でも、世の中には「直接自分に関係がないバラエティ番組」だからこそ、忘れられるような「痛み」もあるのではないかなあ。
日本の首相になるような人にも、病気で悩み、「孤独で、先がみえない時期」があったのです。
個人的に安倍晋三さんの政治的なスタンスは、強気すぎるような気がして不安なのだけれども、こういう「普通の人間としての姿」の一端をうかがい知ると、ちょっと応援したくもなるのですよね。
病気で1年という短い期間で首相を辞任し、「政権を投げ出した」とまで言われた人が、こうして再起し、第一線で活躍を続けている。
失敗も「ひとつの経験」として評価される欧米と異なり、日本は「再チャレンジ」が難しい社会だなあ、と僕も思うのです。
「一度病気でリタイアしても、首相として活躍する」というのは、究極の「再チャレンジの成功」です。
現に、安倍さんが今回首相に選ばれた際も「健康問題」は取り沙汰されていました。
だからこそ、安倍さんに今回はやり遂げて欲しい、とも思っています。
もちろん、本当に体調的に難しいときには、無理はしないでいただきたいけれども。
大相撲や高校野球の中継なんて、誰が真っ昼間から観ているんだろう?
僕はそう思っていました。
でも、病院で働いていると、これらの番組を愉しみにしている入院患者さんって、本当に多いんですよね。
入院している人じゃなくても、同じように愉しみにしている人は全国にたくさんいるのだろうな、と思うようになりました。
人は、自分に見えない世界のことを「存在しないもの」だと思い込みがちだけれど、たしかに、それは存在しているし、僕だって大きな病気にかかれば、同じなのかもしれません。
現役首相の、ひとりの人間としての言葉は、どんな勲章よりも、バラエティーにとっての「栄誉」だったのではないでしょうか。
そして、あの頃の安倍さんと同じようにつらい状況でテレビを観ている人たちは、あのやりとりを観て、多少なりとも希望を持ったはずです。
現役首相がバラエティー番組に出るなんて、と批判する人の気持ちもわからなくはないのだけれども、僕は「バラエティー番組だからこそ一瞬だけ見せられた、日本の首相の一面」には、けっこう大きな意義があったのではないか、と思っています。