いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「本屋さんが一番売りたい本」と、それ以外の本

参考リンク(1):「チーム・バチスタ」作者が本屋大賞を痛烈批判 書籍の売り上げ低下傾向に拍車を掛ける? J-CASTニュース


参考リンク(2):本屋好きの海堂尊(「チーム・バチスタの栄光」の作家)さんが、どうして本屋大賞は嫌いなのか。 - きまやのきまま屋


とまあ、ここまで読んでいただいて話をはじめようかと思ったのですが、J-CASTニュースの記事だけ読むと、海堂さんの真意が誤解されてしまいそうなので、
参考リンク(3):読まずに当てよう、本屋大賞。(海堂尊公式ホームページ)
もぜひ御一読ください。


いやほんと、参考リンク(1)(2)の記事だけを読んだ時点では「海堂さんの嫉妬なのでは?」なんて思ったのですけど、本屋大賞ノミネートの数が突出している「本屋大賞・神7」の話を読むと、たしかにねえ……と。
ちなみに、「神7」はノミネート4回以上の、この人たち(海堂尊公式ホームページより)

8回 伊坂幸太郎
4回 小川洋子 三浦しをん 百田尚樹 有川浩 万城目学 森見登美彦
〜〜〜〜〜〜〜
3回 東野 圭吾


ちなみに、この中で、大賞を受賞したことがあるのは、伊坂幸太郎ゴールデンスランバー』、小川洋子博士の愛した数式』、三浦しをん舟を編む』、百田尚樹海賊とよばれた男』の4人です。


まあでも、なんというか、この海堂さんの話に関しては、僕はあんまり『本屋大賞』を責めてもしょうがないのではないか、と思っているのです。
僕も過去にけっこういろいろ書いてますけどね。
海堂さんの話のなかでは、横山秀夫さんの『64(ロクヨン)』が例示されていますが、この本、2012年の10月発売です(『本屋大賞』の『海賊とよばれた男』は、2012年7月発売)。
で、『64』は、本屋大賞が発表された1ヶ月後の5月には本屋の平台から姿を消した、とのことなのですが、『64』って、2012年の年末に発表された『このミステリーがすごい!』とかで軒並み1位を獲得し、すでにけっこう話題になっていたし、売れてもいたんですよね。
ですから、『本屋大賞』を受賞できなかったからという理由で平台から外されたというよりは、「さすがに発売当初の売り上げの瞬発力はなくなっていた」と考えたほうが良いのではないかと。
発表時には「この本の本来の読者には、行き渡っていた」ともいえます。
もちろん『本屋大賞』を獲っていれば、まだまだ売れたでしょうから、「僅差の2位なのに、あまりに差がありすぎてはないか」と感じたのはわかりますが。


そもそも、僕の観測範囲では、『64』がそんなに早く平台から消えた、という印象はないんですよね。
海堂さんの観測範囲と僕の観測範囲の違いなのかもしれませんが、少なくとも、かなり大事に売られていた本だと思います(2013年は全体的にミステリ不作の年でしたし)。


本屋大賞』に関しては、「またこの人か……」とか「この作品、この作家としては、駄作なのでは……」というものがノミネートされていることもありますし、僕としては『なんじゃこりゃ、金返せ!」と言いたくなるようなものも、年間1〜2作はランキングしています。
そして、そういう作品は、たしかに『本屋大賞・神7』に多い。
誰とは言いませんが、H田N樹さんの『錨を上げよ』とか『プリズム』とか、A川さんの『ストーリーセラー』とか、I坂さんの『モダンタイムス』とか……(いちおう仮名)
これらの作家さんの共通点というのは、マメに書店まわりをしていたり、プロモーションやマーケティングをしっかりしていたり、といった「現場との交流」に積極的なところです。
(ただし、彼らの作品がみんな「作家人気に依存している」と言うつもりもないです。僕はH田さんの『海賊とよばれた男』は、傑作だと思っていますし)


投票権を持つ書店員さんたちが贔屓をしているかというと、それは微妙なところもあります。
本屋大賞』というものを「書店員=本好き、本を読んでいる人」という「書評家集団」の評価としてみるから「見る目がない」って話になるんですよね。


書店員たちのなかには、たしかに「本好き」は多いだろうし、平均的な読書量は国民一般と比べて多いはずです。
投票者の年齢、性別の内訳についても調べてみたのですが、投票者の男女比はほぼ半々くらいということはわかりましたが、投票者の年齢についてはデータを見つけられませんでした。
「書店で働いている人」ですから、10代や60代以上は少ないと思われます。
大事なことは「本屋大賞に投票している人たちは、年々増加傾向にはあるものの、基本的には『同じ人たち+α』である」ということです。
好きな作家なんて、毎年変わるわけではないですよね。
プロモーションに熱心で書店をよく訪問してくれる人には、シンパシーもわいてくるでしょう。


書店で働くことのキツさを考えると、実際、そんなに本を読める書店員は「意識の高い」ごく一部でしょうし、新規開拓を熱心にやる時間がなく、好きな作家の本を読むだけで精一杯、という人も多いはず。


これらの要素を考えてみると、書店員さんたちに悪意はないのに、結果的に同じ作家『神7』ばかりがノミネートされているのではないか、と思われます。


いやなんというか、僕としても、すでに「本屋大賞向けっぽい作品」のイメージができてしまってもいるんですよ。安っぽい感動を売りにした短篇連作のスイーツ小説とか、もう飽き飽きしているんだけれども。
「ガチンコ」なら、なぜ、『七帝柔道記』ではなく、『世界から猫が消えたなら』がノミネートされるのか?
そもそも、なんで「小説」ばかりなのか?
ノンフィクションとかエッセイとかでも、ビジネス書でも、良いんじゃない?


既存の文学賞へのアンチテーゼとしてはじまった『本屋大賞』というのは、画期的な賞だったと思います。
リリー・フランキーさんの『東京タワー』という既にバカ売れしていた本に授賞したときは、正直「なぜ?」と感じたのです。
しかしながら、『東京タワー』のような「日頃本を読まない読者を開拓し、泣かせたにもかかわらず、既存の文学賞からは華麗にスルーされてしまう作品」に授賞したのが、『本屋大賞』のブレイクスルーだったのかもしれません。
そして、このタダでさえ売れまくっていた『東京タワー』が、『本屋大賞』受賞により、さらに売れたのです。
それが、投票する側にも影響を与えたのではないかと思います。


内容がどんなに良くても、難しかったり、コアなファン向けで、もともと1000冊しか売れないような本は、いくら『本屋大賞』をあげても、10万部も売れないかもしれません。
でも、10万部売れている本が『本屋大賞』を受賞すれば、100万部になる可能性も十分にある。
前者であれば、9万9000部の売り上げアップですが、後者であれば、90万部プラスになります。
「もともと売れている本のほうが、『本屋大賞』を貰えば、さらに売れやすい(売りやすい)」のです。
そう考えると、「本好き、マニア向けの本」よりも、「わかりやすく、読みやすい本」が選ばれやすくなるのは必然です。
謎解きはディナーのあとで』とか、ミステリ好きにとっては「こういう本、中学校の頃、図書室で読んだなあ……」ってくらいのものですが、だからこそ、万人向けでもあるのです。


本が売れなくなったのは、別に『本屋大賞』がはじまったからではありません。
出版点数が増えたのと、活字メディアそのものが凋落してきたことが主因です。
そのなかで、少しでも「本を売ろう」と思えば、「売れない良書を売れるようにがんばる」よりも、「売れている本を爆発的に売れるようにする」ほうが、はるかに「全体の売上をアップさせる」のです、前述したように。
書店だって、これだけバタバタ潰れていますから、もう、「育てる余裕」なんてなさそうですし。
地方では、ロングテールのしっぽにあたるようなちょっとマイナーな本は、本好きならAmazonで買ってしまいます。
けっこう話題になっている『帰ってきたヒトラー』でさえ、僕が住んでいる人口20万人くらいの地方都市では、紀伊國屋でしか見かけませんでした。
いやほんと、ちょっと田舎に行くと「近所の書店のなかで、文芸書の品揃えがいちばんマシなのはTSUTAYA」なんてところが、少なからずあるんですよ。
そういうところでは、『64』がずーっと平台に置かれていたりもします。


海堂さんが不安視されているような「『本屋大賞』受賞作以外は、本屋さんにオススメされていないと思うような人」は、そもそも、本をそんなに買わない人なんじゃないかなあ。
それなら、受賞作だけでも読んでみてくれれば、「2冊目」に手が伸びるかもしれない、と期待してみるのは、けっして悪手ではないと思うのです。
で、そういう人たちに『本屋大賞』がすすめている本は、けっして間違ってはいない。


ちょっと前に、TSUTAYAで、高校生くらいの男子が友達に「この『謎解きはディナーのあとで』って、このあいだ読んだんだけど、すっごく面白かった!」って嬉しそうに話していたのを聞いて、僕はちょっと反省したんですよ。
ああ、本を一冊読むことが「冒険」だった時代が僕にもあったな、って。


僕自身はもう、いまの僕の眼鏡でしか見られないので、その基準で☆をつけつづけるしか無いんですけどね。
それもまた「万人向け」ではありえないのは承知のうえで。


ああ、なんか散漫なエントリになってきたので今回はこれくらいにしておきます。
本当は歴代『本屋大賞』受賞作本音レビュー、を書こうと思っていたのですけど、おそらく、ここまで読んでくれている人もほとんどいないでしょうし。


いちおう最後に言っておきますが、僕は「本当に」『本屋大賞』の2007年からのノミネート作は、全部読んでいます。


よろしければ、以下も御笑納くださいませ。

2007年『ひとり本屋大賞』(琥珀色の戯言)
2008年『ひとり本屋大賞』(琥珀色の戯言)
2009年『ひとり本屋大賞』(琥珀色の戯言)
2010年『ひとり本屋大賞』(琥珀色の戯言)
2011年『ひとり本屋大賞』(琥珀色の戯言)
2012年『ひとり本屋大賞』(琥珀色の戯言)
2013年『ひとり本屋大賞』(琥珀色の戯言)



しかし、自分でもよくやってきたと思うよこの『ひとり本屋大賞』。反響もほとんど無いのにさ……

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