いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「人って、なんで争うのかなー」

「人はなぜ争うのか?」
そのことを考えるたびに、僕はこの物語のことを思いだします。


以前、鴻上尚史さんが、「SPA!」で紹介されていた、「全国高等学校演劇大会」最優秀作品『修学旅行』(青森中央高等学校)のあらすじ(以下は鴻上さんの文章です)

 青森の高校生が沖縄に修学旅行に行って、戦争の傷跡をたくさん見ます。
 物語の舞台は、旅館の一室。就寝前の5人の女子生徒がメインです。
 彼女達は、「戦争って悲惨だよねー」「人って、なんで争うのかなー」と話すのですが、班としてのまとまりはありません。


「みんなで盛り上がろう!」という班長の提案で、好きな男の子の名前を紙に書くことにします。修学旅行の夜は、そうやって盛り上がるのが正しいんだっ!と、班長は言うのです。
 みんなは渋々従い、誰が書いたかバレないように左手で、クラスの中でいいと思っている男子生徒の名前を書きます。


 と、みんな、カイト君が好きだと書いてしまったのです。部屋の雰囲気は険悪になり、それじゃあ、カイト君を呼んで誰が好きなのか聞こうという話になります。やってきたカイト君は、きわめて意味深に、班長が好きだと言うのです。


 それまで、バラバラはバラバラなりに、ふとんを並べて寝ようとしていたメンバーは、それぞれ、部屋の四隅にふとんを移動させ、「ここからが私の領土!入ってきたら許さないからね!」と叫ぶのです。


「人って、なんで争うのかなー」と言っていた生徒達が、真剣に争っているのです。


平和教育」というのがあるとすれば、この作品は、見事な平和教育です。観念的に戦争を理解するのではなく、具体的に「争うこと」「憎むこと」を教えてくれるのです。それも、高校生が、見事な演技で、です。


彼女たちは、誰かが「悪い」わけではありません。
みんなそれぞれ、自分なりに幸せになろうとして、でも、そこに「席」はひとつしかなくて、争ってしまったり、相手を憎んでしまうのです。


結局のところ「みんなが100%幸せ」というようなシチュエーションは、かなり難しいんですよね。
たとえば、あなたが好きな女性と結ばれれば、その女性を好きだった男は悲しみの淵に沈む。
でもそれは、「あなたのせい」ではあるけれど、「あなたが悪い」わけではない。


絶対善と絶対悪の戦いというのは、ファンタジーの世界のなかにしかありません。
でも、こういうのって、お互いに譲り合ったら幸せになれるかというと、そういうものでもなさそうですよね。
だからこそ、難しい。

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