いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『はてなブックマーク』の終りとインターネット・ワンダーランド


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はてなブックーマーク』界隈が、にわかに慌ただしくなっています。
というか、運営側が急にどうこう、というわけではなくて、人気ライター・ヨッピーさんの記事とそれに対する「はてなブックマーカー」たちの反応、さらにヨッピーさんがそれに反論し、いろんな人たちも顕名匿名で参戦しています。
ああ、なんかこの話題の記事に「いっちょかみ」しようとして人がワラワラ集まってくるブログの雰囲気って、なんか懐かしいなあ。

というわけで、僕も「いっちょかみ」してみます。


この「はてなブックマークにはもううんざり論」というのは、僕にとっては無縁な話ではなく、これまで何度も「もう廃止してしまえ」と書いては大バッシングされ続けてきたのです。

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これ、まだ5年前なんですね、もっと前に書いたと思っていました。


その後も、何度も「はてなブックマーク」について言及しています。

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いろいろと言いながら、一時的にコメント非表示を試したり、ブログ自体を中断したりしながら長い間続けているのですが、これらのエントリへのブックマークコメントって、今読み返してみてもけっこう憂鬱になります。
ちなみに何度か書いたことがあるのですが、僕の場合、ブックマークコメント非表示にすると、PV(ページビュー)数は1割〜2割減りました。そのくらいなら、もう非表示でも良いのですが(どうせ元々そんなにPVが多いわけでもないし)、コメントを楽しみにしている人もいるんだろうな、とは思うので、「表示はするが、ブックマーク数が増えてきたら(具体的には100を超えるくらいになったら)、自分では見ないようにする」ことに決めています。


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子どもが生まれたときのエントリにお祝いのコメントをたくさんつけてもらったという良い思い出もあるので、地雷原のようなジャンルに踏み込まなければいいような気もしますが(しかし、出産・育児・家事って、「地雷原」でもあるよね。これは幸運なエントリだったと思う)、書く側としては、そういう話題のほうがPVが増える、読んでもらいやすい、というのもまた事実なのです。


僕は長い間『はてな』で書いてきたし、『はてなブックマーク』の恩恵も受けてきた一方で、批判の洗礼も浴びてきました。
最近は僕のブログはすっかり斜陽で、前ほどブックマークはつかないし、PVは最盛期の5分の1程度になっています。ブックマークする側も「こいつはもう何言ってもどうしようもないな」と諦めてくれたのか、攻撃的なブックマークコメントはだいぶ減りました(というか、悪い予感がするエントリのコメントは見ていませんし)。


はてなブックマーク』に関しては、人の命が奪われる事件が起こったこともあって、『はてな』側も、『はてな匿名ダイアリー』と並んで「改善するべき問題」と長年認識していて、見えないところでアルゴリズム等の変更はなされていると感じています。
実際にユーザーの意見を聞くというのもやっていましたし、問題意識は持っているけれど、「インターネットの自由」を信奉してきた(ようにみえる)ネット企業だからこそ、理想と現実の間で、折り合いがつかずに迷走している面もありそうです。


はてな』の側に立って考えてみると、『はてなブログ』『はてなブックマーク』『はてな匿名ダイアリー』って、「最近はずっと頭打ちで、今後も成長は期待しにくい業務」なのだと思います。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3930/ir_material_for_fiscal_ym/124500/00.pdf


これは、2022年7月期の株式会社『はてな』の決算説明資料なのですが、『はてなブログ』『はてなブックマーク』は、「個人向けサービス:コンテンツプラットフォームサービス」と位置付けられています。

詳しくは開示されている資料を読んでいただければ、なのですが、ちゃんと読む人はほとんどいないと思うので、「コンテンツプラットフォームサービス」の概観をまとめるとこんな感じです。

2022年4月期のコンテンツプラットフォームサービスのユーザー数は、1,183万人(対前半期末成長率:+1.4%)

業績動向:前期比▲7%の減収。 2021年の初夏頃の検索流入減少傾向から変化無く、 アドネットワーク広告・課金の両方で伸び悩み。


ちなみに、2022年4Q(3か月間)の『はてな』の売上7億6700万円の中で、コンテンツプラットフォームサービスは1億1800万円(約15.4%)です。
金額的には、少なくともこの3年間、新型コロナ流行期には、ほぼ横ばいの数字となっています。

「ブログサービス全般が斜陽化しているなかでは、『現状維持』でもよく頑張っているな」というのが実感です。


決算資料では、個人向け事業が頭打ちになっているなかで、企業向けの「テクノロジーソリューションサービス」(技術面でのプラットフォームの開発・提供やサポート)が、今後の『はてな』にとっての成長(期待)分野とされています。

新規の大型受託案件の獲得・実施により、事業規模の拡大を図る。マンガビューワ「GigaViewer for Web」既存顧客向けに「GigaViewer for Apps」を提案すること、任天堂様向け案件の実施が柱。 また、「GigaViewer for Web」の搭載サイト数も更に増やし、シェアを拡大。


コンテンツプラットフォームサービスについては、かなり悲観的というか現実的にみていて、来期も売上高は今期の1割程度の減少を予測しています。

・コロナ禍は期中には明けず、期中のアドネットワーク広告単価 の急回復はないと見込む。
・書き手は着実に増加すると見込むが、広告売上、課金売上の動向は慎重に見る。


こういう決算の資料って、「なるべく前向きな予想をする」企業が多いのですが、『はてな』は基本的に現実路線なのです。良くも悪くも。
もしかしたら、これでも「希望的観測」なのだろうか。


この決算資料から考えるに、『はてなブログ』『はてなブックマーク』って、創業以来の「はてなの象徴」みたいな存在ではあるものの、これから新規ユーザーをどんどん呼び込むのは時代の趨勢として難しいし、売上的には「良くて現状維持くらい」の事業なのです。15%という数字は、無くなってしまうと痛いけれど、企業向けサービスが伸びてくれれば、終了やむなし、となる可能性はありそうです。そもそも、売上の割にはコストがかかり、ユーザーからのクレーム対応やコンプライアンスのチェックが大変だし、取り返しがつかない事件が起こったこともある。

僕もひとりのユーザーとしては、ずっと、「はてなブックマーク」をなんとかしてくれ!と思っているのですが、『はてな』という会社にすれば、『三国志演義)』の曹操が言うところの「鶏肋」みたいなものなのかもしれません。

そんなに稼げるわけではなく、これからの成長は期待薄で、ユーザーからのクレームが多く、社会問題になるような事件と結びつけられ、企業イメージを損ねる可能性があるサービス。
これは『はてなブックマーク』だけではなく『はてなブログ』『匿名ダイアリー』にもあてはまります。
アメブロサイバーエージェント)には『ウマ娘』があり(Abema TVという金食い虫がいますが)、MIXIには『モンスターストライク』がいてくれた。
そういう「特需」的なものがない『はてな』は、ユーザー向けのサービスを改善したくても、無い袖は振れない、というのが現実なのかもしれません。
「あのはてなブックマークの雰囲気」が変わったからといって、ユーザーが激増するとは思えないし、今登録している人たちも、休眠ユーザーがかなりいるはずです。「ちょっと困った存在のブックマーカー」は、頻回に広告を表示してくれるヘビーユーザーでもある。

はてなブックマーク」って、「利用するユーザーがどんどん増えていくことによって、めんどくさい、あるいは思想的に偏りがあるユーザーは薄められていって、『集合知』がはたらくようになる」というのが、初期の目論見だったはず。
ところが、ブログは斜陽になり、ブックマークサービスもあまり利用されなくなり(そもそも、ブックマークしてまで長文を読む人が減った)、ほとんどの人は、「みんなが読んでいそうで、長くない文章を好む」ようになりました。人気エントリを書いても「読者登録」されることも、著者が認識されることもなく、「蜂のひと刺し」みたいに、話題はエントリ、つぶやき単位で消費され、みんなすぐ次に行ってしまいます。


はてな』の株1単元(100株)、40万円くらいだったのが決算内容を受けて25万円くらいに下がったときに、「これで俺も『はてな株主』だ!」とばかりに買いました(資産形成的にはこういう買いかたは愚の骨頂の行為なので真似しないでね)。
今や、株価は1株900円くらい(100株で9万円)。含み損16万円で、売るに売れない(本当はなるべく早く「損切り」したほうがいい)。
事業内容も斜陽か赤大海ばかりで、これからも株価が上がるとは思えないけれど、もう、はてな株主ネタのために持っている、という感じです。


ここまで書いてきて、『はてな』に「はてなブックマーク」をちゃんと改善しろ!というのは、「俺が使っているんだから、『プリントゴッコ』の改良を続けろ!」とゴネるのと似たようなものじゃないか、という気もしてきたのです。
大赤字を垂れ流しているローカル線を「利用者がいるんだから、絶対廃止するな!」と主張するような。

今までのやつでいいから、なんとか販売を続けてくれ、あるいは、せめてバスを走らせてくれと交渉したほうがいい状況ではなかろうか。

「なんとか、ブログサービスの『はてなブログ』くらいは残してほしい」とお願いするべきなのかもしれません。


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