いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

【舞台感想】キレイー神様と待ち合わせした女ー(2020年1月13日・博多座)


2020年1月13日の18時30分から、博多座にて観賞(1月13日が初日で、19日まで)。


otonakeikaku.jp
www.hakataza.co.jp

あらすじ
三つの国に分かれ、100年もの間、民族紛争が続く"もう一つの日本"。
民族解放軍を名乗るグループに誘拐され、監禁されていた少女が、10年ぶりに地上へ逃げ出す。過去を忘れた少女は自ら "ケガレ"と名乗り、ダイズでできているダイズ兵の死体回収業で生計を立てているキネコたちと出会い仲間に加わる。
回収されたダイズ兵は、食用として加工される、その頂点に立つダイダイ食品の社長令嬢・カスミと奇妙な友情で結ばれていくケガレ。
戦場をうろつき、死体を拾って小銭を稼ぐ、そんな健気なケガレを見守るのは成人したケガレ=ミソギだった。
愛人宅に入り浸りのキネコの夫ジョージ、頭は弱いが枯れ木に花を咲かせる能力を持つ次男ハリコナ、誘拐・監禁することでしか女性と一緒にいられないマジシャンらとの出会いのなか、ケガレは忘れたはずの忌まわしい過去と対決してゆくことになる。


 『大人計画』の舞台は初観賞。
 主役の「ケガレ=ミソギ」が生田絵梨花さんと麻生久美子さん。神木隆之介さんに小池徹平さん、鈴木杏さんに、阿部サダヲさん、皆川猿時さんをはじめとする、『大人計画』のメンバーが脇を固める豪華キャストでした。
 この『キレイ』って、初演は2000年で、もう20年前なんですね。初演でケガレを演じたのは奥菜恵さんだったそうで、この20年で、大人計画にも僕にも奥菜恵さんにもいろんなことがあったものだな、と思わずにはいられませんでした。

 僕はアイドルには疎いのですが、主演が生田絵梨花さんというのを聞いて、この芸達者なメンバーのなかでは、「浮いて」しまうのではないか、とも思っていたんですよね。

 でも、観ておどろきました。生田さん歌が上手い。声のボリュームもあって、浮いていないどころか、生田さんのフレッシュさで引っ張っていっているようにさえみえました。しかも、同じステージのなかで、物語が進んでいくにつれて、どんどんうまくなっているようにすら感じます。とくにラストの歌は圧巻で、なんだか良くも悪くも散らかった舞台だなあ、と思っていたのが、その曲で、一気に完成してしまったのです。

 時代が前後する展開や、SF的な世界観、「人の形をした、食べられる大豆兵」など、正直、わかりにくいな、そして、ちょっと冗長だな、というところもあったんですよ。
 幼少時のトラウマとか、妄想とか、テーマ的に、やや古さを感じるところも少なくありません。そこは、初演が20年前の作品ではあります。古びていない、とはいえない。
 
 この舞台をみていると、「ケガレ」と「ミソギ」の欠落と欲望に流された人生につき合っていくうちに、なんだか、自分が常日頃から抱えている「正しさ」とか「クリーンさ」って、何なんだろうな、と思えてくるのです。
 ケガレやミソギやハリコナや大豆丸は、今の僕からすると、みっともない、あるいは、格好悪い生き方をしていて、「そんな誘いに乗るなよ」とか、「昔のことにこだわりすぎ!」とか言いたくなる場面がたくさんあるのです。
 戦争、あるいは監禁、貧困や飢え、という現実のなかで、「潔く飢えて死ぬ」のと「どんな手を使っても生き延びようとする」のは、どちらが正しいのか?
 
 この舞台をみていると、シェークスピアの『マクベス』の「きれいはきたない、きたないはきれい」という言葉を思い出さずにはいられないのですが(脚本・演出の松尾スズキさんも、意識されていたのではないでしょうか)、「とことん、生きることに貪欲である」というのは、なんだかとても崇高というか、「キレイ」であるような気もするんですよね。実際にやっていることが、どんなにみっともなかったり、モラルに反したり、「汚い」ことであっても。

 そういうのって、ネットニュースでの個人についてのひとつの出来事を見るのではなくて、ある人の「人生そのもの」を俯瞰しないと得られない面はあるのだと思います。
 当事者として、「生きることに貪欲な人の犠牲になる」と、「その貪欲さがキレイだ!」とか言ってられないでしょうけど。

 正直、散らかっているというか、いろんな要素がありすぎて、結局、何が言いたいのかよくわからない舞台ではあったんですよ。
 ただ、ほとんどの人生というのは、ひとつのテーマに沿って進んでいくようなものではなくて、何が何だかわからないうちに流されていくなかで、なんとか生きていくだけ、でもあるんですよね。僕もこの年齢になって、ようやくそういうことがわかってきたような気がします。
 たぶん、これは「そういうもの」を、描いた作品なのでしょう。
(この「そういうもの」を僕はうまく言語化できないのだけれど)


 なんだか深刻な感想になってしまいましたが、芸達者なキャストに力強い歌とダンス、舞台装置も豪華で、基本的には、すごく楽しい舞台だと思います。
 このキャストで「キレイ」なんてタイトルだと、もっとハッピーハッピーなものをイメージしていて驚くかもしれないけれど。
 観終えると、なんだかズッシリと来るものがあるし、語りたくなる作品でした。


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