いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『はてなブログ』が生き残るためには、『TikTok』や『Netflix』に学ぶべき


2020年、なんとなく、ブログが「重い」。


fujipon.hatenablog.com


上記のようなエントリを書いて、「もうオワコン(コンテンツとしての賞味期限が切れていること)なのかな……」と自己暗示をかけてしまっている面もあるのかもしれませんが……

年の初めということもあって、「ブログというメディアの現状への危機感と問題点」を書いているエントリもいくつか目にしました。


p-shirokuma.hatenadiary.com
www.ituki-yu2.net


「他者にまとまった文章で言及して、議論を積み重ねていく文化」がブログのなかでも衰退してきているし、「新たなブログとの出会い」の場もどんどん少なくなってきている。
もっとも、これは僕が長年ブログを続けてきた人間であるからで、どんな趣味の世界でも、初心者や新たに入ってきた人は、どんどん「新しいもの」を求める傾向はあるのです。
 でも、ブログはすっかり成熟してしまって、もう、興味を持つべき人のほとんどは、「こちら側」に来ているような気がします。
 既存の店は前年比大幅ダウン、新規出店で総売上をカバーしてきたけれど、飽和状態でもう新しい店を出せる余地もない。
 そうか、今のブログは「いきなり!ステーキ」だったのか……(前回は「固定電話」とか言っているし、ほんとこういう自虐芸は悲しくなっているのですが)

最近は「検索」も、Google経由ではなくて、インスタグラムやTwitterの#(ハッシュタグ)からになりつつある、というのを紹介したのですが、Googleでの検索でさえ「ひと手間」になってしまった、SNS内で多くのことが完結しつつある時代では、「ブログ」というのは、あまりにも僻地になってしまった、というのが最近の実感なのです。
さらに、まだ頑張っている(?)個人ブログには、お金儲けと仲間内でだけ盛り上がっているものが多くて、訪問する側にとっては、既存の有名人ブログ以外は、敷居がどんどん上がり続けているのではないか、と思うのです。

個人ブログをいちいち覗きに行くのはめんどくさい。
そういう感覚は、すでに多くの人が持っているのではないか、という気がします。
話題になっているものは、Twitterや、はてなブックマークで目についたら読めばいい。
いや、今の個人ブログに蔓延する「たぶん必要ないものをやたらと売りつけようとするブログ」と「いかがでしたかブログ」に引っかかるリスクを考えたら、「ブログ」とかいうものには関わらないほうがいい、という人が、増えてきているのではなかろうか。


 「検索して、お気に入りのブログを読みに行く」という、その「検索」のひと手間が、すでに重荷になってきているのではないか、と思うのです。
 いまは、Twitterfacebookinstagramに流れてくる情報のなかで、気になるものをときどき摘まむだけで十分、と考えている人が、どんどん増えてきているのです。
 誰かに言及してドキドキするのは、言及したその人だけ、ということも多いですし、昔ほど派手にブログで論争(と言うのもおこがましいくらいのレベルだったかもしれないけれど)する機会も少なくなりました。

 以前も書いたのですが、付き合いがない人に言及されることそのものを敬遠する「ブロガー」も多いのです。
 というか、今はそういう人のほうが主流なのかもしれません。
 まあ、みんなでお金儲けの話をする(という建前)人たちの場所に、土足で、「お前らカモにされてるだけだぞ!」とか言いに行くこともあったので、そりゃ嫌われるだろ、って話ですが(それはきれいごとで、拡散しなければ無知(無恥)で済むようなことを、あえて延焼させて喜ぶようなことも、ウォッチャーというのはやりがちです)。


fujipon.hatenablog.com


最近のSNSについての話題を読んでいると、SNSのプラットフォーム化というか、そのSNSのなかで、すべてが完結するように、さまざまな機能を取り込んでいることがわかります。
LINEなんて、ゲームもできるし、ニュースも見られるし、決済機能もある。instagramは写真が中心のSNSだったけれど、短い文章やハッシュタグを使って、簡潔なブログのように使っている人も少なくありません。
Twitterの短文では伝わらない、と思っていたのだけれど、長くなりそうなときは、連続ツイートでも、それなりに拡散されます(ただし、一部だけを読んで誤読している人も多い印象です)。

衰退していくブログ文化を、どうすれば再び盛り上げることができるのか?
いや、「盛り上げる」というのは、すでに難しい段階に入っているのでしょう。
それこそ、ブログ全盛の時代に、「歴史と文化がある、『ホームページビルダー』で作成されたサイトを盛り上げましょう!」って叫ぶようなものです。
なんとか、それなりの勢力を維持しながら生き残るためには、「ブログのSNS化」が必要になってくるのではないかと思います。


SNSがプラットフォーム化してきているのであれば、ブログもSNS的なものを取り込んでいくべきではないのか。


しかし、ここでふと立ち止まって考えてみると、ブログのSNS化って、いわゆる「互助会」みたいな感じになりそうなんですよね。
いま、ブログ的なものでは、noteが比較的盛り上がっているように見えるのですが、noteは「課金」や「スキ」を通じて、コンテンツホルダーが自分のファンと繋がりやすい仕組みになっています。
それは、書く側からすれば、収入や知名度上昇への近道のように見えるけれど、「課金しないと読めない」というのは、すでにある程度の知名度とファンを持つ人じゃないと、なかなかうまくいきません。
個人的には、「まずは無料で、少しでも多くの人に知ってもらうこと」からはじめたほうが良いと思います。
それに、いまのnoteって、「有名であることで有名」みたいな、内容よりも馴れ合い重視の書き手が多いのが、僕には気になります。それはブログでも、同じなのかもしれませんが。
「蜂の一刺し」みたいな、渾身の人生経験を書いて、一気に読まれて、あとは消えていく「note一発屋」も多い。
まあ、「一発」当てるだけでもたいしたもの、ではありますね。


はてなは初心者や新しい書き手が読まれやすいようにしてほしい」「新着リストを目につく場所に復活してほしい」というような要望もけっこう目にしますし、新規参入者を増やすためには、少しはメリットもありそうなのですが(すでに、主要なブログもアメブロライブドアはてなくらいしかないですし)、根本的な解決にはならないと思います。


「そもそも、ブログサービスの力を借りて読んでもらおうなんて厚かましい話だ、地道に面白いことを書いていれば、そのうち芽が出るのだから頑張れ」

そう言ってしまう「先輩」は、高度成長期にどんどん給料が上がっていった団塊の世代が、今の若者に説教して嫌われる典型例のようです。
「時代が違う」し、今はもう、右肩上がりの時代ではない。


僕もずっと「結局は内容で勝負するしかないだろ。炎上で一時的に多くの人に読まれたり、互助会でページビューを増やしたサイトも、年単位でみればほとんど消えているのだし」と考えていました。

読まれないのは、基本的には、コンテンツの作り手の問題だし、ネットサービスの提供側にできることは限られている、と。

でも、中国発のSNSTikTokについてのこんな本を読んで、少し考えを変えたのです。


fujipon.hatenadiary.com

 
これからの時代も「多くの人に読んでほしい」と思う人は大勢いるだろうし、そういう人たちに「自分にもチャンスがある」と思わせるようなネットサービスやプラットフォームが、今後は伸びていく。


TikTokでは、クリエイター(配信側)のモチベーションを保つための工夫がなされているのです。

 TikTokのレコメンドのシステムは、視聴者だけでなくクリエイターにとっても重要な意味を持ちます。
 TikTokのレコメンドのシステムは、「クリエイターのフォロワー数に限らず、優良なコンテンツを評価し、適切なユーザーに届ける」という理念のもとで設計されています。よって、たとえ駆け出しのクリエイターが投稿したコンテンツであっても、平等に一定量の初期アクセスが付与されます。そこから、コンテンツのいいね数、シェア数、視聴完了率、コメント率など、アクセスを配布した先のユーザーからの評価を見て、良ければさらに大きなアクセスを渡す……といった仕組みになっているのです。
 したがって、フォロワーがまったくいない新参者のクリエイターでも、良質で面白いコンテンツを作れば、一発目で評価されて膨大なアクセスを獲得する可能性もあります。一方で、フォロワー数百万人のようなビッグアカウントのインフルエンサーでも、手を抜いた面白くないコンテンツを上げれば、広く拡散されることはないのです。
 この仕組みは、フォロワー数絶対主義の他SNSTwitterInstagramYouTube)とは一線を画しています。
 女子高生たちのダンスやリップシンクなどの「アイデア」は、ブームとして遠からず過ぎ去っていくでしょう。しかし、こうしたTikTokの裏側にあるバイトダンス社の圧倒的な技術力は、一朝一夕に真似できるものではないのです。


 バイトダンス社は、もともとニュースアプリで、機械学習の最適化に注力してきた会社なのだそうです。
 そのアプリの開発で、ユーザーへのレコメンド機能を追求してきたことが、TikTokで活かされているのです。
 バイトダンス社は、動画配信サービスの会社というより、機械学習によって、そのユーザーが求めるものを選択し、届ける企業なのです。
 ブログを書いたり、Twitterで発言したりしていると、新規参入の難しさというか、「いまさら新しい人が何かを発信しても、見てもらう選択肢に入れてもらえない」という現実に直面するわけです。
 既得権益者、すでにフレンド数やフォロワー数が多い人が、圧倒的に有利になっている。
 ところが、TikiTokは、機械学習によって、これを改善し、新規参入者のモチベーションを上げることに成功しているのです。


 Netflixの歴史について書かれた本のなかでは、Netflixの「映画評価システム」が生まれたきっかけが紹介されています。

fujipon.hatenadiary.com

 映画スタジオ側が1作品当たり15ドルの卸売価格を引き下げないと分かり、ネットフリックスはウェブサイト上で賢くプロモーションするすべを学んだ。最新作や話題作を特集するのをやめて、祝祭日や人気俳優、ニュースに引っ掛けて旧作のプロモーションを展開するのだ。当初は在庫の大半が人気のない旧作で占められていたため、在庫管理のうえではいかに旧作のレンタル収入を増やせるかがカギを握っていた。
 そこでネットフリックスが導入したのが映画評価システムだ。「メンターグループ」をつくり、もともとは選択肢に入っていなかったような作品へ顧客を誘導するのだ。これは専門用語で、「協調フィルタリング」と呼ばれる。例えば、顧客Aと顧客Bの2人が10本の映画を同じように評価したとしよう。その場合、AはBが高く評価する別の映画も好きであり、BはAが高く評価する別の映画も好きであると推論できる。


「評価システム」には、「顧客サービス」としてだけではなく、「不良在庫になりがちな旧作に注目させ、借りてもらう」という役割があったのです。
 ネットフリックスは、この「評価システム」を進化させることで、他社との差別化をすすめていきました。


 TikTokNetflixの事例をみると、これからは「レコメンド機能」と「コンテンツの提供者のモチベーションを上げること」が、ネットサービスを差別化するポイントになってくるのではないか、と思われます。

 『はてな』も、そのあたりは十分承知していて、最近は『はてなブログ』のトップページでも、「そんなにブックマーク数が多くなくても、面白かったり、今後期待できそうなブログ」を積極的に採りあげているように感じます。

 これまでの『はてなブログ』の歴史では、ランキング的なものを極力排除し、「すべてのブログを書く人を、なるべく平等に」というコンセプトがあって、それはとても尊いというか、潔いものではあったのですが、時代に合わなくなっているのも事実なのでしょう。

 ブログをひとつ読むのにかかる時間を考えると、TikTokと同じ手法は難しいかもしれませんが、『はてな匿名ダイアリー』の相変わらずの隆盛をみると、「誰が書いたかわからなくても、とにかく新しくて面白いものが次々に送り込まれてくるシステム」というのは、ブログでも不可能ではないはずです。

 ただ、そういうのは、これまでの「ブログ」の枠内で考えると、なかなかハードルが高そうですよね。
 でも、このままだと、『いきなり!ステーキ』と、『はてなブログ』と、どっちが無くなるのが早いか、っていうことになりかねないのです。


fujipon.hatenablog.com

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